まだ見ぬ明日へ 第63話


黒の騎士団の初代アジトというべき車の中に、多くの者が集まっていた。
ナオトと旧紅月グループ、泉と旧泉グループ、藤堂と四聖剣、ディートハルト、ロイド、セシル、ジェレミア。
彼らは、ディートハルトが録画編集した、ユーフェミアのアッシュフォード宣言をまとめた映像を見ながら、一様に暗い顔をしていた。

「どうするつもりなんだゼロは?」

映像が終わると同時に、真っ先に口を開いたのは玉城だった。

「さあな。まだ話はしていないが・・・」
「いないが、何なんだよ?」

口ごもるナオトに、玉城は眉を寄せた。

「解らないんですかぁ?参加してもしなくても、黒の騎士団は潰される。そう言いたいんですよね~ナオト君は」

ソファーに座り、へらへらっと笑いながら科学者はそう口にした。
その横には、日に日に呆けた表情からしっかりと意思のある表情へと変化をしているジェレミアが座っており、周りの状況をじっと見つめていた。

「どういう意味だそれは」

南の質問に、千葉が呆れたように嘆息しながら答えた。

「少し考えればわかるだろう。参加するとなれば、武装解除を命じられる。反対すれば、ブリタニアが日本を返すと言っているのにどうして反対するんだと、日本人から反感を買う事になる」
「なんだそれ!?」
「つまり、参加しても参加しなくても黒の騎士団は存在意義を失うという事だ」
「何だよそれ。俺達の存在意義が無くなるって、なんでだよ」

玉城が、嘘だろう?と周りを見回しながら言うのだが、皆顔を背けた。

「おいおい、冗談にしても、たちが悪いぜ!」

理解できないのか、理解したくないのか、強張った顔で玉城はどなった。
だが、玉城に同意する声は何処からも上がらず、皆暗い顔でうつむくだけだった。
周りを見回し、顔色を無くした玉城に、ディートハルトは呆れたように声をかけた。

「わかりませんか?これは、黒の騎士団だけではない。この国の抵抗勢力全てを無力化させる政策でもあるのです」
「なんだよ・・・それ・・・」

玉城は、悔しげにかを歪ませて床の上に座り込んだ。
全員が口を閉ざし、静まり返ったその時、部屋の扉が開かれ、黄緑色の長い髪の少女が長身銀髪の男を従えその部屋に入ってきた。

「随分と辛気臭いな。むさ苦しい場所が更にむさ苦しくなるだろう」

いつものごとく、人を小馬鹿にした笑みを浮かべ、C.C.は悠然と足を進めた。

「C.C.、ゼロは?」
「ゼロは今は動けない。L.L.は体調不良でしばらくは動けない」
「体調不良?彼は、その」
「回復は人よりも早いが、怪我もすれば病気にもなる。あれは元々自分の限界以上に動くからな。無理がたたれば回復が追い付かず動けなくもなるさ。だからアレにはしばらく休養が必要だ」

ナオトの疑問にそう答えると、C.C.はジェレミアの前に立ち、じっとその目を見つめた。ジェレミアもまた、無表情のままC.C.を見つめる。

「これは今どんな感じなんだ?」
「ジェレミア卿ですか?まあ、ぼちぼちといったとこですねぇ。精神面は安定してますし、体力面も大分戻ってますが、思考に関しては、まだ問題ありってとこかな~」

C.C.は研究所から救出した時とは違い、しっかりとC.C.を認識しているその瞳をじっと見つめた後、にやりと笑った。

「そうか、L.L.からの伝言だ。引き続きジェレミアの調整を任せるそうだ」
「そうですか、まあ、あと少しだと思うんですよねぇ」
「脳の話ですから、断言は難しいのですが」
「解っているさ。もし、自分の意思でどうしても動けないようなら、ゼロかL.L.、あるいは私の命令に従うよう、調整をしてほしい。まあ、それは最終案だ。出来るだけ、ジェレミアを元の状態に戻してやってくれ」
「わっかりました~」
「了解しました」

軽く言うロイドと、丁寧にお辞儀をしながら言うセシル。
普通であれば、二人にとっては専門外であり、文句の一つも言っていい仕事をさせているのだが、二人は快く引き受けていた。
無表情のまま微動だにしないジェレミアは人体実験の影響で、体も心も壊されしまったブリタニアの軍人、つまり敵だ。その治療に意味などあるのだろうか。そう思う者は多いが、口にできる者はいなかった。ここに居る者はC.C.とL.L.もまた、ブリタニアの人体実験の被害者であった事を既に知っているから。

「ああ、行政特区の話は皆知っているな?ゼロからの伝言だ。参加したい者がいれば、止めない。ただしロイド、セシル、そしてジェレミア、お前たちは参加するな。ゼロとL.L.のためにも、お前たちは手放すわけにいかないからな。ああ、当然だが、L.L.と私とマオは不参加だから、お前たちは私たちについて来てほしい。とりあえずは、新しく用意したあのアジトにランスロットとガウェインと共に移るようにという事だ」

ロイドとセシルはにこやかな笑みで頷いた。ずっと無表情だったジェレミアの口にも僅かに笑みが浮かんだのは気のせいだろうか?
ちなみに、ゼロであるスザクはこんな指示は一切出していない。あくまでもC.C.の独断の上で行われている会話だった。だが、ゼロもL.L.もC.C.の判断を否定する事は無い為、後でそういう事にしておいたと一言伝えれば何も問題は起きないのだ。

「出来れば、の話だが。ナオト、泉、藤堂、四聖剣、ディートハルト、お前たちも残ってほしい。他の者に関しては、元々はナオトと泉の部下だからな。ナオトと泉と話し合えという事だ。気づいているだろうが、この行政特区は参加してもしなくても、黒の騎士団は戦う理由を失う。参加すれば武力は奪われ、参加しなければ、日本の敵となってしまう。まあ、まだ時間はあるからどうするか考えろ。この行政特区がどういうものなのか、どう運営されるのか、行政特区がなされた後、日本はどうなるのか。そのあたりもよく考えたうえで決めろ」
「ゼロは、どうするつもりだ?」

藤堂が、唯一C.C.の口から出なかったゼロの事に言及した。

「行政特区については、まだどう扱うべきか答えは出ていない。まあ、ゼロがどう動くかで決める者もいるだろうが、今はゼロではなく自分の考えで行政特区と向き合い、結論を出してほしいという事だ。ただし、今の質問がゼロの仮面を脱いだ一人の人間としてどうしたいか、という質問だとすれば、L.L.と私が答えだろう?」

そのぐらい分れと呆れたように言うC.C.に、藤堂はそうだったなと苦笑した。

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