まだ見ぬ明日へ 第64話


「成程、お前は馬鹿か。頭がいいのにどうしてそう馬鹿なんだ?完全に嵌められたんじゃないのかそれ」

C.C.は呆れたように嘆息した。
今居るのはロイド達の新たな潜伏先。既にガウェインとジェレミアをここに移動し終え、今はマオを連れたロイドとセシルがランスロットの運搬のためここを離れている。
暇になったC.C.は騎士団の様子をL.L.に報告し、クラブハウスでの話し合いはどうなったのか尋ねたところ、相手からもたらされた情報に聞き間違いかと一瞬我が耳を疑ったのは仕方のないことだろう。
それは中華連邦へスザク・カグヤ・咲世子・ジェレミアを同行させるという内容だった。

『断じて嵌められたわけではない!連休中にユーフェミアが接触してくる可能性は高い。その時はユーフェミアを狙う報道陣も必ずやってくるだろう。再び、ユーフェミアの行動に三人が巻き込まれ無いためにも、学園から離れておくべきだ。それにあいつは疲労が溜まり精神的にかなり不安定になっているから、この機会に黒の騎士団とユーフェミアから離れるのは悪い事ではないし、何よりいい気分転換になるはずだ。なにせ三人はあくまでも観光で行くんだからな。だから』
「ああ、もういいわかった。こっちにあるパスポートの類は後で持っていってやる。ジェレミアの分もな。中華連邦は元々調査だけだからそう問題は無いだろうし、何かあったら私を呼べ。最悪遺跡を使えば事足りる。お前の危機なら、アレも邪魔はしないだろうさ」

くどくどと説明を始めたL.L.を制止し、C.C.はさっさと話を進めた。
まあ、あの三人・・・特にスザクに弱いL.L.だ。あれだけ激昂していたスザク相手にそう強く出られない事は想定済み。中華連邦へ行くのが危険なものであるならともかく、今回の目的はあくまでも調査なのだから、L.L.が強く出られる筈がない。それに何より、一人で中華連邦に行くというL.L.をどう止めるべきか悩んでいたので、スザクと咲世子、さらにはジェレミアが護衛に着くならまあ、大丈夫かと安堵していた。
あの魔王は自分の容姿に無頓着すぎて、どれだけ周りの視線を集めているか全くわかっていない。C.C.が共に居るならどうにでもなるが、一人でなんてありえない。
普段行動する時も出来るだけ変装させ、一人で買い物に行かせる事さえ避けていたのだ。まあ、いざとなれば自力でどうにでも出来る男ではあるが、だからと言って放置するつもりはない。
コードを持ってしても、人に捕縛されることはある。
実際に、二人揃って仲良くブリタニアにつかまり、実験材料となったのだ。
幸い、研究員は研究馬鹿ばかりで、L.L.とC.C.という超美形よりもそのデータに目を奪われ、研究のサンプルを取ったり、データを取ったり投薬したりはしたが、馬鹿な事はしでかさなかった。
だが、それは奇跡的な事で、普通はそうならない。
それでなくてもL.L.は神に囚われているのだ。
神に愛されてしまったのだ。
その神であるCの世界の影響を人々は受けている。
だからこそ、余計に人々はL.L.に惹かれる。
まるで暗闇に輝く光に虫が集まるような光景は、何度見ても異様だった。
そんなL.L.が一人で中華連邦などありえない。
害虫にどれだけ纏わりつかれ、穢されるか考えただけでも鳥肌物だ。
だから、よくやったと、内心手放しで三人を称賛していたが、その事を絶対にL.L.には気取られる訳にはいかなかった。

「ジェレミアだが、会話は成立するし、日常生活にも支障はない。まあ、まだ呆けているところはあるが、護衛としては十分だろう。だが、ジェレミアの左目にはギアスキャンセラーが宿っている。だからゼロのギアスを使用するときには注意しろ」
『ああ、解っている』
「では、話の続きはまたあとで。切るぞ」

C.C.はそういうと、一方的に通信回線を切断した。

「と、いう事だ。おまえは共に中華連邦へ渡れ」

くるりと椅子を回転させたC.C.は、自分の後ろにあるソファーに腰掛けていた青髪の男に声をかけた。その男の顔半分には仮面がつけられている。
男の名はジェレミア・ゴッドバルト。
先日まで碌に会話の成立しなかった、ブリタニアの実験体。
意識を混濁させた状態で救助された男だが、その瞳には知性を感じさせる光が戻っており、C.C.の言葉に穏やかな笑みを浮かべて頷いた。

「わかった。だがC.C.、この仮面は目立つのではないか?」
「だが、それが無ければお前はギアスの制御も、ましてや精神の安定もままならないのだろう?サンフラワーストーンならば仮面も小さくできるだろうが、残念ながらお前の体はあの実験のせいでサクラダイトしか使えないからな。上手くごまかすしかないだろう、L.L.に後で相談しておくよ」
「そうか。L.L.様の手を煩わせないためにも、何か変装出来る物を探しておくが、いいのかC.C.、私などを信用して。私はブリタニアの軍人で、黒の騎士団の敵だぞ?ゼロや天皇に関する情報まで全て私に与え、その上彼らに同行しろなどと、正気の沙汰とは思えないが?」

本当に、先日までと同じ男なのだろうか。
先ほど旧アジトで見かけたとき、その瞳に強い意志を感じたため、会話が成立するだろうとは思っていたが、ここまで饒舌になっているとは驚きだ。
何が思考に問題アリだ。しっかりと自分の意思で考えれるレベルにまで回復しているじゃないか。
それに。
C.C.は面白い物を見つけたと言いたげに、目を細め、その口に笑みを乗せながらジェレミアを見つめた。

63話
65話