まだ見ぬ明日へ 第65話


明日からの大型連休を控え、生徒会室は慌ただしく全員総がかりで書類をさばいていた。その大半が途中終了した学園祭に関わるものだから、目に入れるだけで憂鬱になってしまう。だが、連休までにこれらを片づけてしまいたいという一心で、皆ペンを走らせていた。

「も~!なんでこういうときにジュリちゃんいないのよ~」

珍しく書類をさばいているミレイは、文句を言った。なにせジュリアスの仕事は早い。これだけの量なら、ジュリアスがいれば昨日で終わらせることも可能だっただろう。

「仕方がないですよ。ジュリアスは元々持病もちで、学園祭の前日から体調不良で寝込んでたんですから。学園祭の日には起きられないぐらい調子が悪くて、今は主治医の所です。これが終わったら迎えに行く予定なので、早く終わらせましょう」
「あー、そっか。スザク明日から海外行くんだっけ?それもあってジュリアスは病院に?」

最初は、海外に行く話を秘密にしようと思っていたスザク達だったが、後々の事を考え、どこに行くかは秘密にし、大型連休中はカグヤ、咲世子、ジュリアスと共に、ジュリアスの叔父の仕事に着いて外国に行くという説明をしていた。ミレイはその事に驚いたが、昨夜食事に呼んだときに、腕のいい医者の話を聞き、カグヤを見せるため、ジュリアスの叔父が付き添いをしてくれることになったと説明した。身分に関してはジュリアスとその叔父が上手く手をまわしてくれるから大丈夫だと説明している。
何より今は少しでも学園からカグヤを離したいのだと言えば、ミレイも納得するしかなかった。
なにせあのユーフェミアの発言以降報道陣がユーフェミアを張っていて、スザクとカグヤは外出すらできないのだ。
万が一にも二人の姿を彼らに撮られたら。
それは最悪としか言いようがなかった。
カグヤの目の話は嘘なのだが、カグヤにとっては初の海外という事もあり、念のため昨日ロイドとセシルをここに呼び、カグヤに引き合わせて診察をしてもらったところ、あの日傷つけられた両目は今は光を失っているが、治す手はあるから時間がほしいという信じられない言葉を貰っていた。
可能性があるではない、治す手はある、なのだ。

「傷って目の事だったんですねぇ。もっと早くに見せてくだされば、それだけ早く動けたんですけど。あ、でもジェレミア卿で手いっぱいだったから無理だったかなぁ」

などと、いつものようにへらっとした笑顔で言うので少し腹立たしさを感じはしたが、嬉しさのほうが大きくて、その日は咲世子が腕によりをかけてごちそうをロイドとセシルに振舞っていた。
その科学者たちは、今日はL.L.と共にアジトでジェレミアの最終調整中だった。

「この前寝込んだばかりだったから、薬の処方も兼ねてね。ああ、何度も言ってるけど、僕が連休中居ない事は」
「解ってるって。ここだけの秘密なんだろ?まあ、ジュリアスのストーカーの事もあるし、お前の場合ユーフェミア様の事があるからな。安心してカグヤちゃんの診察受けて来いって」
「ありがとう」

ユーフェミアの行動力のすさまじさは、ミレイに匹敵した。
ミレイの場合、誰にどの程度の迷惑をかけて大丈夫か、どうしたら皆が喜び、迷惑を受けた者も許してくれるか、全て計算のうえでの行動力だが、ユーフェミアは違う。
周りの迷惑顧みず、自分の思った事を口にし、思った通りに行動する。
一応普段は皇族だからと抑えてはいるが、学園に居る間は普通の生徒だからと、かなり羽目をはずしていて、その被害者となるのは大抵スザクだった。
スザクがどれほど迷惑しても、ぐいぐいと積極的に行動する。スザクは笑って許してはいるが、それは相手が相手だからという事と、女性に優しい性格だからという事のおかげでしかなかった。
そのユーフェミアがスザクの旅行を知り、連休中にユーフェミアの休日があったら?その行動力でスザクの後を追いかねないというのが、全員の予想だった。
だからこそ、それはさすがに無いだろうと思いながらも、万が一のことを考えスザクもどこに行くかは口にしないのだ。
もしユーフェミアが行動を起こしたら、学園祭の二の舞になるだけではなく、スザクの事までマスコミに知られてしまう。ユーフェミアは軽く考えているが、そんな簡単に済む話ではないのだ。
それでなくてもユーフェミアが学園に来ている間、常にスザクの傍に居る状態で、完全に皇族であるユーフェミアが一般人であるスザクに恋をしているようにしか見えない。スザクに助けられた事があるというユーフェミアの発言のおかげで、護衛代わりなのだろうという見方もされているが、お弁当を護衛に作る事は無い。
とはいえ相手は皇族。
下手な噂など立てる訳にはいかない。
その上特区の宣言もあり今はマスコミが張っているのだ。
ひそかにファンクラブもあり、親衛隊もいるスザクを守るためにも、女子たちは燃えていたし、何より二人の身分が違いすぎる。皇女の火遊びにスザクを巻き込むなという意見も多く、ユーフェミアは女子からは結構嫌われていた。
はっきり言えば、カグヤと咲世子には敵と認識されている。
そんなカグヤが、咲世子を連れて生徒会室にやってきた。
見るからに上機嫌なその様子に、生徒会のメンバーは、目が見えるようになるかもしれないのだから当然だよなと、暖かい笑みをその顔にのせた。

「みなさま、お疲れ様です。お茶を飲んで一息つかれませんか?ジュリアスさんが今朝、クッキーを焼いてくださったので持ってまいりました」

にっこりと、大輪の花が咲き誇るような笑みを浮かべ、手に持ったバスケットを皆に示したカグヤに「いいわね、よっし、皆休憩よ!」とミレイは笑顔で決定した。
咲世子がカグヤの傍を離れ給湯室に向かい、カグヤが杖をついて室内に入った時、パタパタと遠くから誰かが走ってくる音が聞こえた。カグヤは後ろを振り返り、念のためスザクはカグヤの傍に移動すると、生徒会室の扉が開かれ、室内に入ってきたのはユーフェミアだった。

「スザク、ここにいたのですね、探しました」

満面の笑みで、スザクに駆け寄ったユーフェミアは、スザクしか見えていなかったのだろう、傍に居たカグヤに勢いよくぶつかった。

「え!?」
「カグヤ!」

突然の事でバランスを崩したカグヤにスザクは慌てて手を伸ばそうとしたが、目の前のユーフェミアがそれを邪魔していた。

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