まだ見ぬ明日へ 第69話


「フハハハハハハ!今生天皇と日本最後の首相の息子、更には怪しげな仮面をつけた元軍人を連れていながら、一切疑われること無くエリア11から中華連邦に移動出来たな。我ながら完璧な作戦だった。さすが俺だ」

いつになくテンションが高いうえに、悪役のような笑い声まで発したL.L.に、思わずスザクとカグヤは驚き、声を無くしていた。あのゼロの衣装を着ていたらきっと、ザ・悪役といった感じになっただろう。L.L.はいつも通り黒い私服を身に纏っていたのだが、それでも十分悪役じみていた。
だが、作戦成功の喜びは誰もが納得のもので、なにせスザクとカグヤは幼い頃に、ジェレミアに至っては最近の出入国の記録があるのだ。つまり指紋なども全てデータで記録されている。そこをいじることが出来ない以上、こちら側の全ての情報を偽る必要があった。軽い変装は当然として、パスポート程度の小さな写真では判別が難しい瞳の色などもカラーコンタクトで微妙に変えたりと、細部にわたって徹底的に手を入れた。一番危険だった指紋は、触っても解らない特殊素材で作成したシールを指先に貼り偽った。
そうすることで、自動化ゲートも通ることが出来、拍子抜けするほどあっさりとエリア11から中華連邦に渡ることが出来た。この国を出るには、漁船や輸出船に潜り込み、ブリタニアに気づかれないよう祈りながら亡命する手しか考えていなかったが、まさか堂々と航空機に乗って移動できるとは。流石L.L.としか言いようが無い。

「悪役顔まで似あうとか、ほんと凄いよね」

観光だから写真を取ろうとデジタルカメラを弄っていたスザクは、その笑顔をしっかりと記録していた。うん、よく撮れている。カグヤの目が治ったら見せてやろう。
ぽつりとつぶやかれた言葉は、カグヤとジェレミアには聞こえていたらしく、二人は苦笑していた。そんな様子に気づくこと無く、町はずれに用意されたこの潜伏先の一軒家で、L.L.は咲世子と二人で楽しげに昼食を用意していた。
当然中華連邦にいるのだから作っているのは中華だ。
手早く用意されたそれらに舌鼓を打ちつつ、今後の予定を立てていく。

「この中で中華連邦の言葉が話せる者はいたか?」
「私は少々ですが話せます」

少し辛めの麻婆豆腐を口にしていた咲世子は手を上げた。

「私も日常会話程度なら問題ありません」

ジェレミアもそれに倣い手を上げた。

「そうか、ならば問題は無いな。ここにパンフレットを用意した。カグヤとスザクの観光予定も全てここに記してある。何かあれば今居るこの拠点に戻れ」

咲世子に渡されたそのパンフレットはどう見ても手作りで、ぱらぱらとめくると、写真付きで事細かに観光予定がびっしりと、それでいて解りやすく書きこまれていた。簡単な会話ができるよう、最後のページにはいくつかの会話文まで記されている。
きっちり予定を立てるタイプのL.L.が観光予定を立てないはずがない。どこをどう回れば一番この国を堪能できるか熟知しているのだろう内容に思わず笑みがこぼれた。

「これがジェレミアと咲世子、そしてスザクの国際免許証だ。スザクは本来は無免許だが、念のため用意をしておいた。あくまでも念のためだからな」

アッシュフォードの敷地内を移動するために運転はしていたので、技術には問題ないが、絶対に緊急時以外は運転はしないよう念を押しながら、それらも渡された。

「で、僕たちを観光させて、君はどうするの?」
「言っただろう?調べる事があると」
「一人で?」
「当然だ」

予想通りの返答に、スザクは小さく息を吐いた。

「一人は駄目だよ。どこに行くのさ?僕も一緒に行くよ」

その言葉を予想していただろうL.L.は首を横に振り拒絶を示した。

「俺はしばらく町からも離れる事になるから、一緒に来ても何も見る物は無い。俺が選んだ観光地はどこも安全な場所だから、お前たちは楽しんできてくれ。念のため多少変装をし、咲世子とジェレミアが共に居れば何も問題は無いだろう」
「駄目だよ、彼は君の護衛で来ているんだから」
「念には念を入れたほうがいいだろう」

その上スザクまでいれば、武力に関しては鉄壁。
カグヤを害せる者など現れるはずもない。

「駄目だってば。君は本当に単独行動好きだよね。今の話だと、君が行く場所は人がいない場所なのかな?」
「ああ。古い遺跡を見に行くだけだ。前に話しただろう?神根島にある遺跡と同じものがこの国にもある。それを確認しに行くだけだ。あの辺りは荒野で家一軒ないから、この町を離れた後は誰かに会う事は無い」
「この国にもあるの?あの遺跡。・・・あれ?そういえば君、前にあの遺跡で移動してるって言わなかった?」

原理は解らないが、ギアスや不老不死があるのだから、物語に出てくるような転移装置が超古代文明の遺跡とかにあっても不思議じゃない。

「ああ、以前は遺跡を使って移動していた。だが、今は諸事情で使用を控えている。この国にもよく来ていたから、場所も移動手段も問題はない」

成程、調べるのは遺跡なのか。
神根島の遺跡も人のいない無人島にあった。つまりその周辺は人が居ない安全な場所ということか?一緒に行くと言ってもL.L.は聞かなそうだし、しつこくすればこっそり抜け出して一人で行きかねない。それだけは絶対に駄目だ。

「仕方ないな。観光には咲世子だけで十分だからジェレミアを必ず同行させること。これは引けないからね」
「何を言う。ジェレミアがいたほうがより安全になるんだぞ」
「そうでもないよ、ギアスが使えなくなるじゃないか。いざとなったらカグヤと咲世子はギアスで消せるけど、ジェレミアには効かない上にキャンセルされちゃうだろ?」

となると、スザクのギアスは意味がなくなってしまう。
ジェレミアのギアスキャンセラーは、サンフラワーストーンによる装置とは違い、無差別に全てのギアスを無効化するため、スザクの不可視化とは相性が悪かった。
当然、そのことはL.L.も理解っている。どうして今そのことに気づくんだ。スザクのくせに。L.L.の表情からそう思っているのがよく分かった。

「まあそうだが、ギアスは出来るだけ使わない方がいい」
「本当に危ない時以外使わないよ。それでいいかなジェレミア」
「ええ、私が来たのはL.L.様をお守りするため。異存などありません」
「カグヤと咲世子もいい?」
「そうですわね。いざとなりましたら枢木のお兄様の不可視のギアスは有効ですわ。その利点を潰すなど勿体ないとしかいえませんわね」
「ジェレミア様、L.L.様をよろしくお願いいたします」

任せて欲しいと、ジェレミアはその顔に笑みを浮かべ頷いた。
正論と満場一致。全員が決定だという笑顔でL.L.の反応を伺った。

「仕方ないな、ならば決まりだ。ほら、食事が冷めてしまう。早く食べて出かけよう」

こうなれば何を言っても無駄だろう.
L.L.は潔く負けを認めた。



時々スザクのギアスの存在を忘れます。
さすが不可視化ギアス。私の記憶からも消えるなんて。(棒読み)

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