まだ見ぬ明日へ 第70話


帝都ペンドラゴン。
その中心部にある宮殿から少し離れた場所にあるホテルの一室で、ひと組の男女がベッドに腰をおろしていた。
男の方は今にも泣きそうな顔で両目を閉じ、苦しみに耐えているように見えた。
その正面のベッドに座る女のほうは、その姿を痛ましげに見つめながら、その男が紡ぐ言葉に耳を傾けていた。出来る事なら今すぐ抱きしめ「もういい。これ以上何も聞かなくていい」と、その苦しみから解放したいところだが、今はそれが許されない。
決定的な情報が欲しい。
その情報があるのはおそらく宮殿の最深部。
ここからでは距離がありすぎて、目の前で苦しむ青年、心を読むギアスを持つマオの力は残念ながら届かなかった。とはいえ、中に潜入するのは危険すぎる。だからその情報を持つ者がマオのギアス範囲内に現れる時を、じっと待つしかないのだ。

最良は皇帝。
だが、皇帝がここを離れる情報は今の所はない。

次に宰相。
シナリオ通りで行くなら第二皇子シュナイゼルが宰相となるはずだが、現段階でも宰相補佐に留まっていた。とはいえ、実質政務をおこなうのは全てシュナイゼルだから宰相と同じ状態ではあるが、あくまでも補佐である以上シュナイゼルの上に誰かがいるはずなのだ。それが誰なのか、現段階でも解らなかった。過去2度にわたり潜入し、徹底的に洗いだしもした。だがL.L.とC.C.がいくら探りを入れても答えは出ず、得られた情報から推測できたのは宰相は存在せず、空席かもしれないということだった。だが空席とする理由が見つからず、シュナイゼルが宰相としての能力を得るまで空席とし、ある程度経験を積んでから宰相とする可能性を考えていたが、宰相補佐となって既に4年。その可能性はとうに捨てた。やはり宰相はいると見るべきだろう。
その人物の予想は出来ている。だが、証拠が無い。何より、ブリタニアが隠す理由が無い。もしその人物であるなら、堂々と宰相として表に出ればいいのだ。

もう一人はナイトオブワン。
シナリオのまま進むなら皇帝の共犯者だ。
だがこちらも皇帝が動かない以上宮殿から出る事がない。

既に日本を離れて3日。
予定通りL.L.が動いているなら、今頃中華連邦の遺跡に向かっているはずだ。日本の遺跡は念のためC.C.のコードでエラーを起こさせた。少なくても10日はC.C.かL.L.以外使用できない。あのエラーを解除できるのは自分たちだけだから。
行政特区設立までに答えを見つけ出す。そして。
C.C.は一度沈みかけた思考を浮上させ、苦しむマオににこりと笑いかけた。

「マオ、ギアスを封印して一度休憩をしよう」

そう言いながら立ち上がろうとした時、マオが目を見開いてC.C.を見た。

「C.C.!大変だよ、ああ、どうしよう。何これ?気持ち悪いっ!!」

額に脂汗を滲ませながら、軽いパニックを起こしたマオがすがるような必死なまなざしでC.C.を見つめた。



何も無い荒野に、その洞窟は口を開いていた。こんな辺鄙な場所にある何の変哲もない洞窟。地元の者も立ち入ることの無い場所にトラックが迷うことなく入っていった。
チッと舌打ちをしたL.L.は双眼鏡を通し、はるか遠くからその場所を見つめていた。

「2台か。何を運んできた?」

ここに来る途中、殆ど車が通らないはずの地面に残った無数のタイヤ跡に嫌な予感がし、直接洞窟へ向かわず、まず遠くから様子見して正解だったなと思いながらも、いら立ちから再び舌打ちをした。

「L.L.様、ここは・・・」

同じく双眼鏡でその様子をうかがっていたジェレミアは、僅かに緊張した声でそう訪ねてきた。ジェレミアとしては予想外だろう。誰もいない無人の遺跡だと言っていたのに、来てみれば人の出入りがあるのだ。ジェレミアほどの軍人であれば、そのトラックの運転手たちが一般人ではなく訓練を積んだ者であることも解ったはずだ。
もう十分わかったとジェレミアを促し、岩場の陰に隠した車に戻ったL.L.はペットボトルを手にとり既に温くなった水を一気に煽った。ジェレミアも失礼しますと口にしてから同じく水を口にする。
額を流れる汗を乱暴にタオルでぬぐいながら、L.L.は瞼を閉ざした。
この汗は暑さだけでは無い。動揺を抑えきれないとは、俺もまだまだだな。やはりシナリオは変わらない。変わっていない。俺たちを日本で足止めしている間にここを整えたと見るべきか?だが、まだ崩せるはずだ。考え方によってはこれは好機。今のうちにここを叩き潰せば、立て直しはほぼ不可能。今後こちらがやりやすくなる。
閉じていた瞼が開かれ、冷たい光を宿すロイヤルパープルの瞳がジェレミアを見据えた。その暗く冷たい眼差しに、ジェレミアは自分の体が委縮するのを感じた。

「ジェレミア、お前はここにいろ」

そういうと、L.L.は後部座席に置かれていた黒いコートを手にした。正直今この状態でこんな暑苦しい物は着たくは無いが、相手の意識を向けるには目立つ格好というのは重要だ。明らかに怪しい姿なら、確実にこちらに視線を向けるだろう。
手早くコートを身につけ始めたL.L.に、額の汗をタオルでぬぐいながらジェレミアは首を横に振った。

「何をされに行くか存じませんが、あの場所に行くのであれば私も共に行きます」
「駄目だ」
「L.L.様、私は貴方の護衛です」
「知っている」
「ここにいる者たちが相手であれば、私のこのギアスキャンセラーが有効なはずです」

冷静な声音で告げられた言葉に、L.L.は驚き目を見開いた。

「C.C.から聞いております。中華連邦に隠されたギアス響団の事は。ギアスの研究をしているということは、私のようなギアスを持つものがいないとも限りません。私の力はそれらすべてを無効化します」
「あのピザ女・・・っ!勝手な事ばかり話しやがって」

L.L.は苦虫をかみつぶすような表情で、そう呟いた。

「お連れくださいL.L.様」

お願いいたします。
頭を下げそういうジェレミアの声には、絶対に引く気配はなく、このまま置いていってもついて来そうだなと、L.L.は深いため息をついた

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