まだ見ぬ明日へ 第71話


「どの道、周囲に監視カメラが設置されている。隠れてこそこそ移動しても無駄だ。正面から行くぞ」
「イエス・マイロード」

車で堂々と行くのであれば、暑苦しいコートなど着る必要はないと、L.L.はさっさとコートを片付け、ジェレミアに命令した。
漆黒のコートを身に纏い顔まで隠した不審者よりも、車で強襲をかけるほうが目立つ。何より涼しい上に歩く必要もないから、無駄な体力を使わなくてすむ。
さて、あの洞窟へ侵入した後、まずは旅行者を装い、相手の出方を伺うか。
綿密な作戦を立ててから潜入したかったが、駒も武器も、何より時間が足りなかった。
それに、監視カメラや警報類を黙らせるため外部からハッキングという手を使いたくても、ノートパソコンのバッテリーと車のガソリンの残量を考えれば不可能。こんなことならガソリンを後1つ2つ積んでくるんだったな。
あと問題があるとすればジェレミアだが、もし俺たちの存在に気づきコードに関する対策を取っているのであれば、ジェレミアが共に来たことは好機となるだろう。悪くはない流れだ。
ゆっくりと車は洞窟へ向かい、薄暗いその入り口にさしかかった頃、洞窟の奥から警報が聞こえた。
思わずスピードを緩めたジェレミアに、L.L.は何事も無いような声音で命令した。

「気にせず進め」
「イエス・マイロード」

最初は自然な造りの洞窟だったが、先に進むにつれ壁や床が人工物になり、人工の光が周囲を明るく照らし出していた。
警戒を示す赤いランプが至る所で光り、侵入者が入り込んだ事を告げている。
だが、何かがおかしかった。

「妙だな。これだけ派手な警報を鳴らしているのに、誰も出てこないだと?」

監視の目も無く、誰かが制止することもない。何より誰一人この場に姿を現さなかった。不審者であるはずのL.L.たちは、何の障害も無く車を走らせ続けた。
すぐに数名ここにやってくるかと思ったが、読みが外れたか。となると、奥で待ち構えているのか?そうなるとまた面倒だな。
奥へ奥へと進むと、広く長い通路から、巨大な空洞に出た。そこには多くのビルのような建物が乱立しており、かつて居住区であったことを示していた。そんな遺跡が目の前に現れても尚、誰一人この場に現れなかった。
あのトラックの運転手さえ来ない。
KMFを警戒したが、煩くなる警報以外音は一切しなかった。
何かがおかしい。これは、異常だ。何か起きたのか?
とはいえここで立ち止まる時間も惜しい。
L.L.は眉を寄せ、ジェレミアに先に進むよう促した。
既に廃れたこの遺跡に、電気と照明、そしてこの警報装置が設置されている時点でここを使用する者がいるはずなのに、誰もいない。
これからここに拠点を構える予定だったのか?あのトラックはその下準備中だとでも?それにしては人もいないし、警報だけ生きている事はおかしい。何より先ほどの運転手たちはどこに?
居住区の遺跡の奥にたどり着くと、そこには2台のトラックが置かれていた。
間違いなく先ほど見たトラックだった。
向こうから見えない位置に車を停車させると、L.L.とジェレミアは足音を殺し、そのトラックへ近づいた。
そして、トラックの向こう側の光景を目の当たりにし、思わず息をのんだ。
トラックの陰に隠れて見えなかったその場所には、一面の血の海があったのだ。
老若男女さまざまな人間がそこに倒れ伏し、トラックを運転してきた者たちも、その手に銃器を持ったまま倒れ伏していた。
その中には研究員らしき者、ここの警備にあたっていた者も見え、この遺跡に居た全員がここで殺されている事は明白だった。
だが、なぜ?
自分たちとほぼ同時に誰かが強襲をかけたのか?
警報はその時に?だが、誰一人争った形跡がないのはなぜだ?
そして見る限り、全員鋭利な刃物で殺害されている。
切られているのは喉。全員同じだ。それ以外の外傷は確認できない。

「これは一体・・・!」

ジェレミアはL.L.を背に庇うように立ち、辺りを見回した。
L.L.もまたこの異常事態に眉を寄せ、困惑する頭をどうにか動かしながらこの状況の理由を探っていた。
鳴り響く警報がうるさく、赤い点滅が目を刺激する。

「一先ずこの警報を切る。おそらくあの部屋が監視室だろう」

この遺跡内で唯一といっていい真新しい建物が奥にあり、そこを目指そうと口にした時、警報が止んだ。
突然訪れた静寂に、L.L.とジェレミアは警戒を強めた。だが、人の動く気配はない。

「・・・少なくともあの監視室には誰かがいる。気を抜くな」
「L.L.様は私の後ろに。必ずお守りいたします」

緊張した声音でジェレミアはそう告げ、銃口を監視室に向けた時、静寂の中にカチャリ、という音がやけに大きく辺りに響き、監視室のある建物の扉がゆっくりと開いた。






「君が予定より早く戻ってきた事も、二人とも無事だった事も、すっごく嬉しいんだけど、もう一回!納得いく説明をしてくれないかな!?」
「これ以上何をどう説明しろというんだ」

激昂するスザクを前に、L.L.はその柳眉をよせ、困惑した表情でスザクを見た。
いや、これはスザクに困惑しているのではなく、その隣にいる人物に困惑しているのだと、スザクは見ていた。それなのに、それなのに!

「彼が、君の弟ってどういう事なのさ!」

L.L.の左腕に抱きついて、幸せそうににこにこと笑っていた少年は、指をさしながら怒鳴りつけてくるスザクに冷たい視線を向けた。

「どうもこうも無いです。兄さんは僕の兄さんですから。それ以外にどう説明しろというんですか?」

スザクより薄い茶色の癖っ毛、柔らかい眼差しのベビーフェイス。何処かスザクと近しい物をもったその少年は、冷たい眼差しから一転、きらきらとした目で「ねえ、兄さん?」とL.L.を見た。
そのL.L.はいまだに半分フリーズ中らしく、本当に困ったという顔をずっとしているのだ。ジェレミアの話では、これでも大分解凍されているというのだから、長い道中ほぼフリーズ状態だった事は想像にたやすい。ここで別れたのが一昨日の昼。
その間に兄弟が出来ましたと言われて、はいそうですかとはとても言えない。

「L.L.、君何か弱みでも握られたの?君の弟にするのを条件に出されたとか!?」
「いや、それはだな・・・」

L.L.は今だ頭が働いていないので、上手いごまかしも出来ず、口ごもっていて、それが余計に本当の兄弟では無いのだという証拠としてスザクには感じられた。
だから、口にしたのだ。

「兄弟のはず無いだろ?全っ然似てないし、本当に血のつながった兄弟なら君がこんなに困るはずがない!!」

その言葉に、少年は顔をこわばらせ、L.L.も目を見開いてスザクを見た。少年の反応から、やはり血のつながりが無いのだと解ったが、どうしてL.L.まで驚いたのだろう。

「なっ!スザクお前、俺とロロが似てないと言うのか!?」

そして今のショックでようやくフリーズから立ち直ったらしいL.L.はその美しい顔に怒りを乗せ、スザクを怒鳴りつけた。

「え?は!?ちょ、そこ怒る所!?似てないだろ君たちどう見ても!!」
「兄さん・・・ごめんね、僕兄さんに似てなくて・・・」

涙目になりながら激昂するL.L.を上目づかいで見たロロに、あ、これは完全に計算ずくでの表情だとスザク以下全員は悟ったが、L.L.は気づかなかったようだ。

「何を言うんだロロ!兄弟全てが似ているわけではないだろう。それにお前は俺の、俺だけの弟なんだ。血の繋がりなど関係無い!」

あ、血が繋がっていない事をさらっと認めたよL.L.・・・そう思いながら、突然ロロを抱きしめたL.L.に思わずスザクは顔をひきつらせた。

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