まだ見ぬ明日へ 第73話


10分ほど経った頃、奥の部屋のドアが開いた。中から出てきたのは疲れた表情のL.L.と、泣いて目を真っ赤にはらせたロロだった。顔を洗いにロロが離れて行ったので、スザクはすぐにL.L.に歩み寄った。

「大丈夫?一回休んだ方がいいんじゃないかな?また倒れちゃうよ?」
「ああ、大丈夫だ。さっきはすまなかったな、取り乱した」
「ううん、気にしないで。まず座ろうか?顔色悪いよ」

ほら、こっち来て。
今にも倒れそうなほど青白い顔をしていたL.L.の手を引いて椅子に座らせた。
大人しくそれに従うL.L.は本当に疲れきっていて、咲世子が出した温かい紅茶をゆっくりと口に含んだ。

「まず、皆に話しておく事がある。・・・ロロはギアスを持っている」

彼らの会話の内容からそれは容易に想像できたため、誰も驚きはしなかった。

「だが、ロロのギアスは、響団でも欠陥品と呼ばれるもので、その力を使っている間、ロロの心臓は停止してしまう。だから、ロロはギアスを持ってはいるが、緊急時以外その力を使わせる事はない」
「心臓が?それって、使い続けたら死ぬってこと?」
「そう言う事です」

突然真横から殺気の籠った声がかかり、スザクはぎょっとし、反射的に攻撃を仕掛けながら振り返った。だが、スザクのこぶしは空を切り、その場所には誰もいなかった。
間違いなく誰かがいたはずなのにと、スザクは驚き息を呑んだ。

「ロロ!やめないか!!」
「でも兄さん。見てもらった方が解りやすいでしょ?」

次に聞こえてきたのはL.L.の隣に座るカグヤの真後ろだった。突然背後に現れた人の気配。それも恐ろしいほどの殺気を纏った存在に、カグヤは体をこわばらせ、小さな悲鳴を上げた。
カグヤの発達した聴覚でさえロロの接近に気付けなかった。
スザクは気配すら感じられなかった。これは一体!?
次の瞬間ロロはそこから姿を消した。
カチャリと音がした方を見ると、L.L.の正面の席でロロは紅茶を傾けていた。
まるで狐につままれたような感覚。何だこれは。
スザクのような不可視のギアスか?それにしては移動が速すぎる。

「・・・ロロ、使うなと言っているだろう」
「大丈夫だよ兄さん。このぐらいならまだ平気だから」
「だからと言って、無駄に使うな。万が一暴走したら」
「その時は僕の心臓も停止し続けるね。それは嫌だから、出来るだけ使わないよ、兄さん」

せっかく兄さんと再会出来たんだから。
内容にそぐわないほど穏やかに笑いながらロロは紅茶をまた一口含んだ。
その笑顔は、心の底から幸せだと言っているようにも見えた。

「L.L.、彼のギアスは?」
「空間停止だ。正確にはロロの停止空間にいるもの全員の体感時間が止まる。本当に時間が止まっているわけではなく、範囲にいる者の体や思考が完全に停止するんだ」
「空間の停止・・・」
「スザクさんには理解しにくいか。じゃあ、こうして見せればわかりやすいかな?」

ロロはそういうと、すっとその視線をカグヤへ向けた。
その瞬間、カグヤと咲世子は動きを止めた。

「え!?カグヤ?咲世子?」

呼びかけても何も反応せず、瞬きすらしない。
咲世子はカグヤを守るよう、動く途中でその体を止めていた。不自然な体制だと言うのに、微動だにしない。
重力すら無視したその体制。

「これが僕のギアスです。ギアスの効かない兄さんと、キャンセラーを持つジェレミア卿には先ほどからスザクさんの事も、こう見えていたんですよ」

苦しげに息を吐きながら告げるロロに、スザクは目を見張った。明らかに顔色が悪い。心臓部分を苦しげに抑えていて、L.L.がすぐに解くように言うと、ロロはその空間を解除した。それと同時にカグヤと咲世子は再び動きだした。
そのことにほっと息をつくと、カチャリと音が鳴り、見ると平然とした表情で紅茶を傾けているロロがそこにいた。
何事も無いかのように装ってはいるが、先ほどまで確かに苦しんでいた。その姿に、ああ、確かに兄弟だなとスザクは妙に納得した。苦しむ姿を隠し、平静を装うなんて。
そんな所、一番似たら駄目だろうに。

「よく解ったよ。じゃあ、L.L.もロロも一度休もうか。二人とも顔色が悪すぎるよ。咲世子さん、部屋に余裕あったよね?」
「はい。すぐにロロ様のお部屋を用意します」
「僕は平気です。お気づかいなく」
「駄目だよ。無理をしているのは見て解る。L.L.も、ほら立って。また起きれなくなったらどうするのさ。君はそれでなくてもよく寝込むんだから、休んで」

L.L.の腕を引いて立たせようとするスザクの言葉に、ロロは勢いよく顔を上げた。

「え?寝込むって、兄さん大丈夫!?前はそんな事無かったのに」

自分の事はどうでもよさげなのに、他人の事には反応する。そこもよく似ている。

「何でもないよロロ。スザクは大げさなんだ。それに俺はこれからロロを日本に入国させる準備をしなければならないから、休んでなどいられない」

偽造パスポートなど、ロロをここから出国させ、エリア11に入国させるものを用意しなければならないと、L.L.は端末を開いた。

「予定が早まったから、俺たちの出国手続きもしなければな」

帰りで気を抜いて発見されたら意味が無い。行きより帰りのほうが神経を使わなければならないのだから、その手配も指示も全て出し直さなければならない。
それでもまず1度仮眠をとスザクは言おうとしたのだが、絶対に休まないからなという顔で、じろりと睨まれた。こうなったL.L.は絶対引かないなとスザクは小さく息を吐いた。

「わかったよ。じゃあ、予定より早く戻るんだから、帰ったら暫くベッドから出ない事。もちろん外出も禁止だよ」
「・・・スザク」
「駄目。これは決定だからね」
「そうですわね。御声も大分疲れてますから、その決定には賛成ですわ」

カグヤにまでそう言われ、ロロとジェレミア、咲世子もスザクに賛成してしまうと、L.L.はそれ以上拒否する事は出来ず、渋々ながら承諾することになった。あちらに戻ったら理由をつけて抜け出せばいいだけだ。そう考えていたのだが、全員なんとなくそのことは察していたため、どんな理由があろうとベッドから出る理由に頷いたら駄目だよ。というスザクの目配せだけで全員頷いた。



「それにしても、ロロとこうして会えると思わなかったからな。解っていれば別の偽名を名乗ったというのに」

碌に食事もしていなかったという話をロロがしたため、急遽咲世子が用意した早めの夕食の席で、L.L.はそう呟いた。

「偽名?兄さんL.L.以外に何て名乗ってるの?」
「ジュリアス・キングスレイだ」
「ジュリアス?僕の知らない名前だね」
「そうか、知らないのか。ならいいが」
「それってつまり、僕が知っててもおかしくない名前なの?」
「どうだろうな。だが俺の弟で通すならロロ・キングスレイか。合わないな」
「ホントだね。兄さんの偽名で言うなら、スペイサーのほうがまだ合ったかな?でも、偽名を使うならどうしてランペルージを名乗って無いの?」

兄さんの偽名といえば、やっぱりランペルージなんじゃないの?
小首をかしげながら尋ねるその仕草は可愛いのだが、再び爆弾を落としてくれた弟に、思わずL.L.は目を閉じた。

「え?」
「ランペルージ、を?」

カグヤとスザクが驚きの声と共にL.L.を見た。これはロロに話しそびれていたなとL.L.はため息をついた。

「カグヤとスザクがランペルージを名乗っていたからな。偶然とはいえ同じ性を俺が名乗るのはおかしいだろう?」

L.L.には数多くの偽名がある。その中にランペルージがあるのはおかしくはないのだが、今までその話題が一度も出なかったことにどうしてなんだろうと、スザクは眉を寄せた。

「え?二人とも日本人なのに?」
「日系という設定なんだよ。お前がまたランペルージを名乗りたいと言うならそう作るが、どうする?」

その場合は、スザクとカグヤの血縁という設定になるが。
ロロも童顔だから、ルルーシュと兄弟よりスザクとカグヤの従兄としたほうがしっくり来るかもしれないし、二人の設定をより深く出来るかもしれないと、L.L.が考え始めたため、ロロは慌ててかぶりを降った。

「僕は兄さんと同じ名前がいいから、キングスレイでいいよ」

ランペルージには愛着があるし、キングスレイはあわないけど、兄さんと一緒がいい。ニッコリと笑顔でいうロロに、L.L.も笑顔を返した。

「そうか。じゃあ決定だ」

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