まだ見ぬ明日へ 第84話 |
『ほう、お前にこんな性癖があったとは、2000年以上共に過ごしていたが知らなかったぞ?』 盗聴器が拾った声に、スザクはしまったと顔をこわばらせた。 だが、今は授業中。抜け出す事は出来ず、早く休み時間になれと心の中で唱えるしかできない。めったに来ないC.C.が今日に限って来るなんて運が悪いにもほどがある。さっきの騒ぎのせいで休み時間に部屋に戻れなかったことが悔やまれた。 「こんな趣味、あってたまるか!」 いつになく不機嫌な声で言い捨てたL.L.は、いいから解いてくれ。とC.C.に言った。 だが、永遠を生きる魔女はその口元に笑みを作ると、ベッドの端に腰を下ろした。 そして碌に身動きのできないL.L.の頭に手を伸ばすと、そのなめらかな髪を梳いた。 「いい格好だぞ私の魔王。お前の意志ではないということは、枢木スザクの趣味か?お前、こんなことにまで付き合ってやるのか?」 「寝ている間にやられてたんだ」 舌打ちをしながら放たれた言葉に、C.C.はすっと目を細めた。 「まさかお前、また・・・当分は止めろと言っただろう。下手をすれば、また囚われる」 咎めるような口調のC.C.に首を横に振りながら答えた。 「いや、今回は眠っていただけだ。それと、余計な事は話すな。スザクが聞いている」 L.L.の視線の先にある小さな黒いキューブを手に取り、C.C.は目を細めた。 『・・・ほう?盗聴器に拘束か、いい趣味だな?枢木スザク。・・・あまり調子に乗るようなら、L.L.は返してもらう』 受信機から聞こえる不愉快そうなC.C.の言葉に、それだけは勘弁してと、スザクは盗聴器じゃなく通信機にすればよかったと本気で後悔した。 「それよりC.C.、何かあったのか?」 「ああ。行政特区の式典に合わせ、コーネリアが動く」 「来るのか、エリア11に」 L.L.はすっと目を細めた。 シナリオを変えるため、コーネリアは他国へ行くよう裏から手をまわしたのだが、やはりそれは許されなかったということか。 あるいはスザクのように<未来>を知った者がいて、コーネリアを動かしたのか。どちらにせよ何とか減らしたはずの不安要素が戻ってきた。 「ギルフォードとダールトン、そしてグラストンナイツも引き連れてな。ユーフェミアとクロヴィスから得た情報だから間違いはない」 マオを連れ政庁を見張り得た情報。 ならばその情報に間違いはないだろう。 最近は、ユーフェミアとシュナイゼルの通信にも使用した盗聴器も使い情報を集めてはいるが、電話ではなくロイヤルプライベートを使用した回線は盗聴出来ず、こういう重要な情報はやはりマオ頼みになってしまう。 「ほう、戦争でも始めるつもりか?」 コーネリアの持つ最大戦力。それがこの地に集結する。 黒の騎士団が活動を停止したことで、どのテログループも傍観しているらしくあの宣言以降はテロは起きていなかった。もしコーネリアの判断で動いたのだとすれば、その日を狙って大規模なテロがあると読んでいるのだろうか。 「まあ、クロヴィスでは頼りないという事だろう」 なにせ行政特区のトップはユーフェミア。 あの式典の主役なのだ。 イレブンに囲まれた場所にいる愛する妹を守るには、異母弟では頼りない。 「シュナイゼルは動かないか」 L.L.の問いに、C.C.は首を振った。 「何とも言えない。が、神根島の遺跡は封じてきた。これで9日間使用できない」 「式典まであと12日。後1度封じなければならないな」 何があるか解らない以上、最悪を想定して神根島は封印しておきたい。 「それも私がやるから安心しろ」 「ああ、任せる」 「それにしても、本来5日後に成立するはずだった特区が12日後か。1週間しかというべきか、1週間もというべきか。どちらにせよ予定より7日ずれ込んだな。この事で何か影響が出ると思うか?」 今までどれほど歴史に介入しても大きな式典の日程が変更される事はなく、これが初めてのことだった。だから予想がつかずC.C.はL.L.の反応を伺った。 「さあな。どちらにせよ、全ての決着をつけるときは近い・・・C.C.、いい加減にしろ。どこを触っている。俺はこれを解けと言ったんだ」 「別にいいじゃないか減るものでなし」 さわさわと、楽しげに手を動かすC.C.を、顔を真っ赤にさせて睨みつけながらL.L.は怒鳴った。最初は髪だったから特に文句は言わなかったが、だんだん我慢が出来なくなってきていた。 「減るかどうかの問題では無い!・・・っ!C.C.!」 「って、何してるんだよ君たちは!」 L.L.が怒鳴りつけると同時に勢いよく開いた部ドアの向こうには、珍しく息を切らせたスザクの姿があった。どうやら休み時間となり、全力で走ってきたようだ。 「なんだもう来たのか。盗聴器で聞いていたのなら、ここは遠慮する場面じゃないのか?」 不敵に笑うC.C.は、L.L.を撫でまわしていた手を離し腕の拘束を解き始めた。 「君たちって何だ、たちって!俺が何をした!」 顔を赤らめ涙目になりながら訴えてくるL.L.に一瞬くらりと目眩を覚えたが、それは気のせいだ、相手は男だぞと自分に言い聞かせ、スザクはすたすたとベッド脇に移動すると体に掛けていた毛布を捲り、足の拘束に手を伸ばした。 音だけではよく解らなかったがかなり足掻いていたらしく、その足首は赤くなり皮膚も擦り切れていた。 「ごめんねL.L.。元々休み時間には外しに来るつもりだったけど、まさかC.C.が来るとは思わなかったんだ」 「私だったからまだ良かっただろう?これがL.L.を狙う輩だったら美味しく頂かれている所だぞ?」 抵抗など全く出来ないからな。 その言葉にスザクは目を見開きC.C.を見た。 C.C.は少しは考えろと言う視線でスザクを睨みつけていた。 関係者以外がここに来る。その可能性は考えてなかった。ロックをしたし、この部屋のセキュリティは以前より高くした。クラブハウス内へは自分たちと生徒会メンバーは入れないようにしたため、気が緩んでいた。こうしてC.C.でさえあっさり入り込めるのだから、過信はしていけない。スザクはL.L.に向かいごめんなさい、二度としませんと深々と頭を下げ謝った。 「・・・もういい。だが、次はないからな」 痛む手首をさすりながら、L.L.はようやく解放され体を起こした。 |