まだ見ぬ明日へ 第86話


行政特区日本。
突貫工事で進められたハリボテの特区ではあるがそれでもどうにか形を成し、式典会場には日本人という名を取り戻すために100万人のイレブンがが集まった。
開会が宣言される瞬間を報道陣は今か今かとカメラを構えて待ち、スザク達もまた黒の騎士団のアジトでその様子モニター越しに見つめていた。
コーネリアとクロヴィスが全軍を上げ警備をしているから問題はないはずなのだが、テロが起きないとも限らない。
L.L.とC.C.はマオとロロを連れ、朝から特区付近で常に周辺のチェックをし、黒の騎士団のKMFに関してはいつでも動けるよう準備をしていた。
行政特区の会場の外に設置された大型モニターの周りには、会場に入りきれなかったイレブンが集まっている。未来への期待からその顔には明るい笑みが浮かび、若干浮かれたような活気のある声があちらこちらから聞こえてくる。
彼らから少し離れた場所からそのモニターを見上げ、L.L.はポツリとつぶやいた。

「結局俺達がどうあがこうと、こうして全ての駒がここに集まった訳だ。・・・だが、最強の駒はアジトに、そして最悪の駒はここにある」
「ああ。これをあちらが覆すとなると、最悪の駒の代わりを用意しなければならない。最強の代わりはあの娘だからな」

モニターには警備にあたるKMFが映し出されていた。
その中には凛とした佇まいで、他のKMFパイロットと共に後方に控えている深紅のパイロットスーツを身に纏ったカレンがいた。

「マオ、何か変化はあるか?」

C.C.の背に隠れるように身を縮めている銀髪の青年に声をかけると、首を横に振って何もないという意思を示された。
煩いほどの雑音。人の心の中の声を聴き続けているマオの顔から血の気が引いて真っ青だった。これだけの人間の声が聴こえるのだから、気が狂いそうになるほどの苦しみだろう。だが、可哀想ではあるがいまはマオのギアスに頼るほかない。

「でも兄さん、僕には解らないよ。兄さんはユーフェミアを守りたいんだよね?死なせたくはないんだ。でも、兄さんの気持ちはわかるけど、ユーフェミアの生死はそんなに大事な事なの?」

L.L.の腕をつかみ、ロロは首を傾げながら尋ねた。

「・・・俺にも解らない。彼女が生き、行政特区が成立することで何かが変わるのか、何も変わらないのか。・・・いや、変わらない可能性は大きいだろうな」
「ほう、何も変わらないと?」

C.C.はモニターから隣に立つL.L.へと視線を動かした。

「行政特区は長くは持たない。崩壊した行政特区が原因で、ユーフェミアの名は汚れるだろう。無力な姫、お飾りの皇女、口だけの為政者、名ばかりの副総督。民を憐れむ事に酔う偽善者。彼女を称する名はいくらでも出てくる。その上、今はユーフェミアの周りだけとはいえ、嘘吐き皇女と呼ばれている。行政特区の失敗は決定事項。早いか遅いかだけにすぎない。汚名は血に濡れるか濡れないかだけだ」

だが、命を奪い奪われ、虐殺皇女と呼ばれないだけいいのかもしれない。
これからの人生、常にまわりから嘲笑されたとしても。

「だが、そこが変われば未来が変わる可能性がある。切り崩すための切欠を作れる可能性が」
「枢木ゲンブのようにか?あの結果、スザクとカグヤの立ち位置が変わったからな。何より神の手駒が不足する、か。ユーフェミアの死で神が手に入れる駒はスザク、コーネリア、ニーナ。ユーフェミアを溺愛し、心酔している者たちだ。とはいえスザクは勝手に切り離された気もするが」
「あれは予想外だったな。ユーフェミアがやりすぎたのだろう。だが、まだコーネリアが、何よりニーナが残っている」

今のスザクはユーフェミアを敬愛するどころか嫌悪している節がある。あれだけしつこく纏わりつかれ、カグヤを危険にさらしたことで、愛憎が逆転したのかもしれない。
だが、ブリタニア側の最強最悪の駒、ニーナがまだ残っている。

「最悪の大量殺戮兵器フレイヤ。全てを消し去り無に帰す悪魔を生み出す狂気の母、地獄の聖母ニーナ。だが、ニーナのプログラムは弄ったのだろう?それに神の戯れか、ニーナに加担するはずだったロイドはこちら側だ」

ニーナが生徒会室に置かれたパソコンで核融合のプログラムとシミュレーションをしている事は知っていた。だからそちらを弄り、彼女の望む反応が現れないようにしているのだ。これはただの時間稼ぎでしかないが、少なくても現段階では彼女にフレイヤを生み出す知識はない。そして協力者となる科学者もいない。唯の学生の遊戯の範囲を出ていない。

「ああ。だが、可能性はゼロでは無い」
「確かにそうだな。別のパソコンを使えば嘘はばれるか」

あくまでも処理をしたのは生徒会室の物のみ。他のパソコンで同じ事を行えば、きっと彼女の望む結果を示すだろう。
寮で生活する彼女の自室にパソコンがないからこそ吐ける嘘。

「・・・嘘か。俺たちも、この世界も嘘だらけだ。嘘の時代、嘘の歴史、嘘の未来。俺が望んだのはこんな世界ではなかったのに」

嘘のない世界は否定したが、嘘だらけの世界を望んだわけではない。
明日のない未来など、誰が望むか。

「だが、嘘のない世界などこれ以上の地獄だろう?神が何を願い、なぜこんな遊戯を続けるのかは知らないが、いい加減私は終わらせたい」

何せ2000年以上付き合わされているのだから。

「解っている。この遊戯の末に手に入れる神の願いが何かは知らないが、これ以上好きにはさせない、させてたまるか」

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