まだ見ぬ明日へ 第92話


黒の騎士団本部にあるゼロの私室のテーブルには一冊の古びた本が置かれていた。
その本はC.C.がいつも持ち歩いている本で、彼女は暇な時にはそれを開き、懐かしい過去を思い出しているか、彼女らしくない穏やかで優しい表情で文字を追っていた。
その本には栞の代わりに1枚の写真が挟まれていたが、裏返しにされていてどんな写真かは見たことがない。
それがどんな写真なのか、彼女がそんな表情をするなんて一体どんな本なのか気になっていて、彼女が席を立った時にこっそり覗くことにした。今にも壊れそうなほど脆くなった本をゆっくりと開くと、変色した紙にはびっしりとブリタニア語が並んでいた。とても古い本なのにその文字は手書きではなく機械で印字されたものだったので、もしかしたら持ち歩いたことでボロボロになっただけで、比較的新しい本なのかもしれない。
まずは写真をと、裏返っていた写真を手に取りひっくり返す。
そして、そこに映しだされていた内容に声を無くすほど驚いた。

その写真には穏やかな日差しの中、木陰に寄り添う三人の男女が映っていた。
少年が二人、少女が一人。
一本の木の中央に少女。
その左右に少年。
黒髪の少年と飴色の髪の少女は穏やかな表情で眠り、胡桃色の髪の少年が穏やかなまなざしで二人を見ていた。
幸せな一時を切り取ったようなその一枚。
それを見て、僕は呼吸をする事も忘れたように体を硬直させた。
少女は初めて見る顔だった。
いや、でも何処かで見たような、誰かに似ているような気もする。
黒髪の少年はよく知る人物に似ていた。
ただ、自分が知るよりも少し幼さが残った顔立ちをしている。
そして。
・・・もう一人の少年。
それは自分にうり二つだった。
自分と違うのは、自分よりも年上に見えるほど落ち着いていることだろうか。その視線は穏やかで、二人の眠りを守っている今この時が幸せだといっているようだった。
違うのはそれだけ。
それさえなければ、自分の写真だと思えるほどそっくりだった。
でも、僕には身に覚えがない。
この少女は知らない。
誰かに・・・彼の弟に何処か似ているが、知らない人だ。
そして、警戒心の欠片も無く安心しきった表情で眠る彼の、今よりも若い頃の姿など知らない。知る筈がないのだ。

不老不死。
2000年以上生きている相手。
もしこれが彼なら、この写真は2000年以上前の物という事になる。
どういう事だ?
どうしてそこに、僕に似た人物がいるんだ?
それともこの彼も、L.L.ではなく他人の空似なのか?

「のぞき見とはいい趣味だな、ゼロ」

後ろから掛けられた声に、僕は滑稽なほど体をびくりと震わせた。
ゆっくりと振り返ると、そこには表情を消したC.C.が立っていた。
つかつかとこちらに歩み寄ると、僕の手にあった写真を奪い取り、内ポケットにしまう。

「いつもの癖でこの写真をしおりにしていたが、失敗したな」

この写真は私のお気に入りなんだ。
C.C.は何事も無かったかのようにテーブルに置かれていた本を手に取った。今にも壊れそうな本を大切なものを扱うように厚手の袋に収めた後鞄に入れた。

「・・・C.C.、その写真は」
「古い写真だ。お前が生まれるよりずっとずっと前のな」
「最近の写真みたいに綺麗だったけど」
「データで残していたから、最近新しく印刷しなおしたんだよ」
「そんな古いデータを今の機械で?いや、それよりこれがL.L.なら2000年以上前のだろ?そんな技術があるなんて聞いたことがない」

2000年前なら電気がどういうものかさえろくに解明されていなかっただろう。
そんな時代にデータという形で情報を保存する方法があったとは考えられない。
全く信じていないゼロを見て、C.C.は深く息を吐いた。

「・・・この写真は間違いなく2000年以上前のものだ。更に言うなら皇歴より前の正暦、その更に前の物だよ。人の歴史は繰り返される。現代と同程度、あるいはそれ以上の文明を築いていなかったと、どうして言い切れるんだ?」
「そんなに古いものなの!?」

皇暦より前の時代は紀元前ではなく、C.C.は正暦だと言った。そしてそれより前にも文明が発達した時代があったのだという。もしかしたら3000年、4000年という過去の物なのかもしれない。そう言えばこの二人は皇歴が始まる前からと口にはするが、実際に何年生きているのか、どんな時代に産まれたのかを話してくれたことはなかった。

「ああ。この写真はまだL.L.が人であった頃の物だよ。だから少しだけ今より若い。中央にいた少女が、L.L.の最愛の妹だ。アレが溺愛するだけあって可愛いかっただろう?」
「え?ああ、うん。すごく可愛かった」

ふわふわとした長い髪がよく似合う、可愛らしい少女だった。
彼の弟、ロロにどこか似た少女。
だが、問題は二人では無い。
これが2000年以上前の、まだ人であった頃のL.L.とその妹の写真ならば、一緒にいるもう一人の存在が何なのか、一体誰なのか余計に問題だった。C.C.はもういいだろう?と言いたげに部屋を出ていこうとしたので、慌ててその腕を掴んだ。

「もう一人は?」

自分に似すぎているもう一人の方。

「もう一人?」
「僕に似た、もう一人は誰?」

しらばっくれようとするC.C.に食って掛かるように尋ねると、彼女はすっと目を細めた。
その態度から、この話題をさっさと終わらせ、僕に似た人物のことを有耶無耶にするつもりだったのが見て取れた。彼女は暫くの間思案した後、諦めたように口を開いた。

「・・・お前はあいつに瓜二つだ。だから余計にL.L.はお前に肩入れする。お前に幸せをと願ってしまう。この写真に写っている日本人はな、L.L.の幼馴染で親友だった男だ。この兄妹とこの男はとても仲が良くて、三人いればそれだけで幸せだった。この写真はそんな瞬間を、この三人をよく知る女性が映した物だ」

最初は三人とも木によりかかり穏やかに眠っていた。だが、人の気配に気づいた少年が目を覚まし、それが自分もよく知る女性で、穏やかに眠る彼らの写真を取ろうとしている事に気付いて微笑んだ瞬間なのだと言う。
を思い出を話すC.C.の眼差しは穏やかだったが、一瞬でその瞳に冷たい光が宿った。

「あいつにとって大切な者ではあったが、私はこの男が大嫌いだった。この男はな、L.L.を幾度となく裏切った上にあいつを殺した大馬鹿者だ」

そう言うと鞄を肩に掛け、C.C.はドアへ向かった。
自分に似た人物が、L.L.を裏切り殺した。
それはあの胸に残る傷の話ではないだろうか。あの刃渡りの広い鋭利な傷は背中にも残っていて、あの体を刃物で貫いた事を物語っていた。
それを行ったのが自分に似た写真の人物。
幼馴染で親友だった男。
息をのみ、青ざめた顔で驚いているゼロ・・・スザクに、C.C.は「ああそうだ、忘れるところだった」と口にし振り返った。

「そんなことよりゼロ、面白いニュースをやっているぞ。とうとう、行政特区日本という名の張りぼての国が崩れる時が来たようだ」

その言葉に、慌ててテーブルに置いていたゼロの仮面をかぶるとC.C.と共にその部屋を後にした。



あの3人のイラスト好きなんですよね。
ルルーシュとナナリー無防備すぎるしスザクは幸せそうだし。

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