まだ見ぬ明日へ 第95話 |
「始まったな。日本人による決起、ブラックリベリオンが」 オペレーションテーブルを覗き見ながらC.C.は感情の見えない声で呟いた。 とうとう始まってしまった、日本とブリタニアの戦争が。 結局、この戦いの原因は行政特区で起こる理不尽な殺戮。 恨みの対象は、ユーフェミア。 シナリオに多少変更はあれど、大きな変化は無かったという事か。 これだけ策を練り、あらゆる不安要素を排除しても、多くの命は奪われた。 どれほど藻掻き、足掻いた所で泥沼から這い出すことは叶わないか。 「物事の根幹となる部分は変わらなかったが、誤差は生まれた」 オペレーションテーブルの前に座り、全ての流れをじっと見つめている男が呟いた。 C.C.とL.L.がいるのは、ブリタニアの装甲車両だった。 以前、黒の騎士団アジトとして使用していた車両より一回りほど大きなここ乗り物は、移動しながら作戦会議も行えるよう、各種通信設備も兼ね備えていた。今の黒の騎士団にはこの手の乗り物は無いため、さきほど現地調達したものだった。床に残っているブリタニア軍人の血の跡を気にする様子もなく、L.L.は静かに息を吐いた。 「そう、誤差。今までの小さな誤差が積み重なり、とうとう大きな誤差を生み出した。これは最初で最後の、好機だろう」 この装甲車は黒の騎士団の旗を掲げて、前線からやや離れた場所を移動していた。マオが運転し、ロロが隣で警戒をしながら、目的の場所を目指す。 指示を出すゼロやナオト、藤堂たちの声を聞きながら、L.L.は手にある黒のキングをくるくると指先で回しながら戦況の把握に努めていた。 C.C.はそんな様子を見ながら、すっと目を細める。 「その誤差に付け入るか。現段階で、日本の開放は可能だと思うか?」 日本が開放されれば、連鎖的に全てのエリアの開放も可能となる。 ユーフェミアの死が回避されたことで、最悪の兵器は産まれない。 植民地を失ったブリタニアは国力を弱め、各国はブリタニアへ攻め込むだろう。 その時、ようやく世界は神の遊戯から解放されるのだ。 このくだらないシナリオを破綻させ、絶望でしかない未来を変える。 そのために、今まで歴史に介入し続けてきたのだから。 「忘れたか?俺は不可能を可能にする男だ」 L.L.は不敵に笑いながらC.C.を見た。 「ああ、忘れたよ。なにせ私たちは神に連敗中だからな。不可能は不可能なのだと痛感し続けている所だよ」 呆れたようにC.C.は言った。 「それを言われると、否定は難しいな」 L.L.は自嘲し、視線をオペレーションテーブルに戻した。 モニターにもなっているテーブルには、刻一刻と変化する戦況が映しだされている。 今まで神に勝てたことなど無い。 僅かな誤差は過去にいくども生み出せたが、どれも誤差で終わった。 だが、今回の誤差は致命的な物だ。 何せブリタニアは、コーネリアとグラストンナイツという強力な駒を今日この日に用意できなかったのだから。 それだけで、十分に勝機がある。 「終わらせるぞC.C.」 「わかっているさ。全て終わらせて、共に眠りにつこう。今度こそ、目覚める事の無い眠りにな」 C.C.はL.L.の背に回り、その痩身を柔らかく抱きしめた。 日本各地で黒の騎士団に続けと暴動が起き、人々の群れがトウキョウ政庁へ向けて押し掛けた。ブリタニア軍はトウキョウ疎開外縁にKMFを大量に配置し、そこから先への侵入を防いだ。 だが、ここにコーネリアはいない。 シュナイゼルもいない。 指揮を取るのは総督であるクロヴィスだった。 L.L.が事前に仕掛けていたエリア13での暴動。そちらにコーネリアは掛かりきりとなっていて、今日、この時、この場所に立つ事は出来なかったのだ。 代わりの駒として配置される可能性が最も高かったシュナイゼルもまた、エリア15での内乱とテロに掛り切りになっていてここにはいない。 だからこそ、行政特区もあの程度の警備しか配置されなかった。 人々の意思を、黒の騎士団を甘く見たから。 コーネリアとその部下がいないのであれば、訓練を積んだ黒の騎士団の戦力と、各地から集まってくる人々の力で、十分トウキョウ政庁は落とせる。 日本各地のブリタニア軍からの増援に対しての防衛策は泉に授けている。 攻めにゼロ、ナオト、藤堂が集中し、その後の防衛の下準備を泉が行う。彼らの能力を最大限生かした布陣が組まれ、まるで最初からそう定められていたかのように激流は目指す場所へと迷うことなく流れ続けた。 L.L.とC.C.が作戦に関わる必要もないほどの激しい流れ。 その流れに乗る者たちは、時代の変換期に自分たちがいる事を理解し、全身に鳥肌が立つほどの興奮を覚えた。 勝てる、ブリタニアに。 気分が高揚し、士気は上がり続ける。 だが、異様ともいえるその空気の最中にあっても、ナオトは酷く冷静だった。 今までにないぐらい頭の中がクリアになっていくのを感じ、視野が広がっていた。 ・・・とうとう戦争が始まった。 今までとは違い、これからはブリタニア本国や各エリアからの攻撃も想定される。 ブリタニアという国が倒れない限り続く戦争。 日本を本当の意味で解放するため、ブリタニアという国を倒す。 「・・・これはその第一歩」 気負うでも焦るでもなく、確認するように呟いた。 ふと視線を遠くへ向けると、ブリタニア基地から来た援軍が視界に入り目を細めた。 やっときたか。 ナオトは両目を閉じ、肺の中に溜まっていた重苦しい空気を吐き出した後、顔を上げ、通信回線をひらき力強い声で宣言した。 「ゼロ、このまま一気に政庁へ向かってくれ。増援部隊はこちらで引き受ける」 『解った、任せよう。ただし、無理はするな』 「解っている。だが、あの部隊は俺が相手をしなければならない」 ゼロは一瞬言葉を詰まらせた後、ナオトの言葉の意味を理解したのだろう、了承の意を示した。ナオトはゼロの判断に小さく感謝の言葉を返した。 再び視線を増援部隊にむける。最初はちいさな点のようにしか見えなかったが、いまはKMFのモニターではっきりとその姿を確認できる。 増援部隊を率いてきたのは、あの真紅の機体だった。 |