まだ見ぬ明日へ 第96話 |
赤と青の機体が交差する。 流れるように大地を滑走し、スラッシュハーケンを使いビルを駆け上る。 まるで舞い踊るかのように動き回る2騎のKMFは互いに必殺の一撃を繰り出すが、互いに警戒していたため、どちらの攻撃も相手には届くこと無くかわされた。その勢いのままいったん距離を置き、再び交差した。 激しい攻防の合間に、オープンチャンネルで交わされる兄妹の会話が聞こえてくる。 『カレン!退くんだ!』 『退かない!お兄ちゃんこそ退いて!この戦いに意味なんて無いの!お兄ちゃんたちが一時勝利しても、ブリタニアが総力を挙げて潰しに来るだけよ!』 『それでも!俺たちはこれ以上ブリタニアの支配を受けるつもりは無い!!カレン!こっちに来るんだ!』 どちらも悲痛な声音を纏い、互いの耳に届いていた。 互いが互いを説得しながら、刃を向ける。 激しい銃弾の音、金属がぶつかり合うような音が会話の合間に響き渡る。 第7世代KMFによる戦いは、目にも留まらぬ早さという言葉が当てはまる。 他のKMFが加勢する暇のないほどの激しさで、2騎の攻防は続いた。 『お兄ちゃん、黒の騎士団は悪なのよ!存在してはいけないの!』 『ブリタニアにとって、だろう。日本にとっては』 『違う、違うのよお兄ちゃん!黒の騎士団がトウキョウを消し去るのよ!黒の騎士団が作り出す兵器で、トウキョウ疎開に住む数千万の人が死んでしまうのよ!』 その言葉に、キングを回していた手が止まった。 『何を言っているんだカレン!騎士団がどうしてトウキョウを壊滅させるんだ!』 『知らないわよ!でも、ブリタニアにいる預言者様が言ったの!』 手に持っていたキングを、チェスの盤面、白のキングの前に音もなく置いた。 その様子を、黄金の瞳を細めただ見つめていた。 『予言!?そんな胡散臭い話を・・・』 『あの御方の予言は全部当たっているのよ!枢木首相の暗殺も!日本の敗戦も!黒の騎士団の事も!ゼロの事だって全部予言されていた!私も半信半疑だったけど、河口湖のテロも、ナリタでの事も、私は、私だけは事前に教えられていたのよ!』 『な!?』 『全部、全部!当たってるのよ!だからトウキョウ疎開が黒の騎士団の兵器で消滅する事も当たるのよ!私はそんな未来はいや!だから!!』 オープンチャンネルでされていた会話は、聞こうと思えば誰でも聞ける。流れてきたカレンの言葉に、それを聞いていた者達の間に動揺が走った。妄言と言ってもいい内容だが、ナオトの妹らしい深紅の機体のパイロットが真実を話していて、黒の騎士団の設立とゼロのことまで予言されていたとしたら、その預言者が本物で、トウキョウが消滅することになる。偽物なら、ゼロはブリタニアの手の者という可能性が出てくる。 これは良くないなと、動かない男に代わって通信機のスイッチを入れた。 「カレン・シュタットフェルト。いや、紅月カレンと呼ぶべきか?はじめまして、だな。私はC.C.」 L.L.は会話を始めたC.C.を見たが、すぐに視線をオペレーションテーブルに戻した。 C.C.は馬鹿な事はしない。 何か考えがあるなら勝手にやらせておこう。 それがL.L.の判断だった。 『C.C.!?貴女が!?』 カレンが驚きの声を上げた。 このまま攻撃を交わすのは無理だと判断した青と赤の機体は距離を置き、通信機から流れる声に意識を向けた。 「ほう?私を知っているのか?まあいい。おまえ、枢木ゲンブの暗殺も知っていたと言ったな。では、日本が敗戦するより前から、お前に情報を流した者がいるということか。それは、誰だ?」 神の駒。 ブリタニアの白のキング。 おそらくは、C.C.とL.L.が探し続けていた最後のピース。 それをカレンは知っている。 『貴女に教える理由は無いわ』 カレンは警戒するような硬い声音でそう言った。 本物のC.C.かどうか、探るような声だった。 「それもそうか。だが、私の予想通りの人物なら、お前、騙されているぞ?」 『・・・どういう事かしら?』 「枢木ゲンブの暗殺の首謀者が、その予言者だからだ」 C.C.の言葉に動揺したのはカレンとナオトだけでは無かった。 ゼロであるスザクと藤堂もだ。 政庁に向かう足を止めることなく、それでも彼らの会話に耳を傾ける。 『どういうこと?貴女、何を知っているの?』 「嘘にまみれた情報を聞かされたお前よりは、いろいろな事をだ。それにしても、黒の騎士団がフレイヤを産み出す、か。よくもまあそんな事を口にできたものだ。さすがブリタニアというべきか」 その言葉に、カレンが息を飲む音が聞こえた。 『あ、貴女も知っているの!?大量殺戮兵器の事を!』 「ああ、知っているよ。・・・最悪の大量殺戮兵器フレイヤ。トウキョウ疎開に落とされた後、次に被害を受けるのがブリタニアのペンドラゴンだという事もな」 全てシナリオに組み込まれている。 神の遊戯を止めなければ、確定してしまう未来だ。 『え?何よそれ!?ペンドラゴンも!?』 「なんだ、知らないのか?・・・ああ、そうか、お前の預言者は、そこまで知らないか。紅月カレン、残念なお知らせだ。フレイヤを産みだしたのはブリタニアだよ。あれは常にブリタニアの手にある。黒の騎士団が使用するなどありはしないよ」 『そんな話、信じられると?』 「むしろ、お前はよく今までブリタニアの言葉を信じたな。だが、おかげでお前がどうしてブリタニアに着いたのかは解ったよ。”フレイヤを生み出す黒の騎士団を潰すため”だったんだな」 C.C.はようやく長年の謎が解けたとでもいうように晴れやかな声で言った。 この娘は正義感が強い。 ブリタニアの支配は悪だと傍から見ても解るというのに、この娘はそれに従い続けた。だから、気にはなっていたのだ。 『・・・そうよ。数千万人が、痕跡も残さずに消え去る兵器なんて認めない!』 「ならば余計にブリタニアから離れるんだな。あれはブリタニアの兵器だ」 『違うわ、黒の騎士団の兵器よ!』 「馬鹿な娘だ。黒の騎士団が生み出した兵器なら、フレイヤなどという名は付けないさ。戦況を一転させるほどの兵器だ。スサノオやオロチなど、日本の神の名を使う。わざわざ北欧神話から名前を引っ張ってくるような洒落た思考の人間などここにはいないよ。こちらのKMFの名前からも解るだろうに。無頼、月下、雷光、どれも日本の名だ」 『ランスロットがいるじゃない!』 「ブリタニアの技術者が生み出した裏切りの騎士の名か。だが、ランスロット以外は全部日本名だ。大体、取り戻そうとしている日本の首都に攻撃など、するはずがない。あれは、ブリタニアによる攻撃だ」 『でも、ペンドラゴンにも落ちるって言ったじゃない!』 「そうだな。しかもトウキョウ疎開が受けた被害の10倍以上、リミッターを解除した最大出力のフレイヤが落とされ、億を超える民が消滅する。だが、あれを使用したのもブリタニアだ。使ったのは、反皇帝派だ」 『・・・信じられると思うの?』 証拠など出しようがない。 それに、この様子ではカレンは幼いころから洗脳されているようなものだ。 この場で説得するのは不可能だろう。 だが、これでこちらの士気は戻った。 ブリタニアが大量殺戮兵器を作り日本を攻撃する。 そんな未来認めない。 嘘か本当かはこの際関係無い。 ブリタニアを日本から追い出し、日本を守るためにもブリタニアを倒す。 再び勢いを取り戻した濁流が政庁に到着し、ブリタニアの最終防衛ラインと激突した。 その時、オープンチャンネルに新たな声が加わる。 「ナオト、最前線が政庁にたどり着いた。紅蓮は他の者に任せ、お前は合流しろ」 それは、この場にいる共犯者の声。 いつの間にかオペレーションテーブルから移動し、ここから少し離れた通信システムを弄っている男の背中が見えた。 「紅蓮は捕縛する、行け!」 妹の安全を提示すると、ナオトは苦しげに呟いた。 『・・・わかった』 『な!行かせない!』 青の機体が赤の機体を交わしながら政庁へ向かい、赤の機体がそれを追った。 「ジェレミア」 『了解です』 L.L.の声に従い、いつの間にか接近していたジェレミアのサザーランドが紅蓮めがけ攻撃を仕掛けた。死角からの攻撃は、紅蓮の左腕にダメージを与えた。エナジーがバチリと弾けたが、破損するまでには至らず、紅蓮は慌てて回避行動を取った 『な!?』 『紅月カレン、ここで大人しくしていただこう』 『はっ、バカにしてるの?そんなの聞くわけ無いでしょ!邪魔よ!!』 紅蓮はすぐにグレネードランチャーで攻撃を仕掛けたが、ジェレミアは攻撃をものともせずに迫ってきた。 その速さ、なめらかな動き。 普通のサザーランドではない。 見た目は同じだが、第7世代に匹敵する性能を持っていた。 カレンは後退しながらも攻撃を仕掛け続けたが、そのすべてをかわされた。 「このまま全員政庁へか?」 既に通信を切っていたC.C.はそう尋ねた。 ゼロを始めとした黒の騎士団の主力、そして紅蓮が政庁に揃う。 紅蓮がコーネリアの代わりの駒となり得る可能性は未だある。 ならば、紅蓮は政庁から引き離すべきではないのか? 「やるなら一気に、だろう?それに、ここでカレンを抑える事が出来れば、ゼロを捕獲するための駒が全て消える」 ゼロが捕縛されたらゲームオーバー。 再び奇跡的な誤差を生み出せる可能性は低い。 通信を切断し、L.L.は再びオペレーションテーブルへ移動する。 そして携帯電話を取り出すと、目的の場所へコールした。 『はいは~い、そろそろですかあ?』 「ロイド、紅蓮とジェレミアが向かった。そちらは任せる」 『お任せくださいL.L.様』 L.L.の指示に、いつになく真剣な声が返ってきた。 通信を切ったL.L.は再びキングを手にオペレーションテーブルに向かった。 「神根島は封じている。来るとしたら空からか、地上からか」 「動くと思うか?」 「シナリオ通りに進むならな。カレンという駒が消えた以上、何か手を討つはずだ」 ゼロであるスザクを捕らえるために。 |