まだ見ぬ明日へ 第97話 |
『こちら壱番隊。クロヴィスとユーフェミアを捕らえました』 ようやく入った報告に安堵の息を漏らした。 政庁に突入して30分。 多くの武官と兵を従え、政庁奥に隠されていた厳重な扉の先に身を隠していたが、最初から二人が隠れるならそこだと読んでいたため、特攻部隊でもある壱番隊が、政庁にたどり着くと同時に速攻でその扉に向けて突撃した。脇目もふらず一直線に攻め込んできた壱番隊相手にろくな抵抗もできず、制圧は一瞬だったという。 死人どころか、黒の騎士団側には怪我人すら出ずに政庁は落ちた。 ・・・これでようやく、次の段階だ。 ゼロは仮面の下で大きく息を吐いた。 最大の難関である皇族二人の拘束と政庁制圧を終えたことで、ゼロは先程の会話にようやく思考を向けることが出来た。先ほどのナオトとカレン、そしてC.C.の会話。 大量殺戮兵器フレイヤ。 それは、かつてナリタで見たショックイメージの光景。 一つはトウキョウ租界、もうひとつの大穴はブリタニアの帝都ペンドラゴンだったのか。まさかあの光景の回答をC.C.が持っていたことには驚いたが、やはりあれは未来のイメージだったのだと再確認した。 詳しい話はすべてが終わってから聞くしか無いが、同じように未来を見た者がブリタニアにいて、自ら預言者と名乗っている事を知った。C.C.の話を信じるなら、枢木の本家で虐殺を行った首謀者。・・・ずっと探していた仇だ。 もし本当に預言者としての力を持っているなら、こうして総督と副総督を捕らえる未来も知っていて、それに対処する策を練っている可能性もある。 ・・・どこに罠が仕掛けられているかわからない。 この状況を一瞬で覆す何かがある可能性がある。 油断はできない。 迅速に行動し、すべてを終わらせる。 これが終われば、ブリタニアとの本格的な戦争が始まるのだから。 「作戦は次の段階に移った、。藤堂、泉」 『了解したゼロ。我々は防衛に回る』 全ての策は伝え終わっている。 ゼロのその言葉で、藤堂は直ぐに部隊を率いて政庁を離れた。 『こちらの準備は終了している』 泉の言葉に、政庁に攻め込んでいた部隊の一部が離れ、それぞれ予定していた場所へ配置される。 これから、防衛戦が始まる。 こちらへの攻撃を防ぎながら、日本各地にあるブリタニア軍基地に攻め込み、全てを制圧し、日本からブリタニア軍を完全に撤退させるのだ。 とは言えクロヴィスとユーフェミアがこちらに落ちた以上、あちらも手を出しにくい。 ユーフェミアだけなら弱かったが、第三皇子クロヴィスは強力なカードだった。 このカードがある以上あちらも大きく動けない。 撤退するのは時間の問題だろう。 彼らが予定通りの行動をとったのを確認し、ゼロは合流したナオトとディートハルトを連れ、政庁内にある通信システムへやって来た。 そこからディートハルトがテレビジャックを行い・・・ようやく、ゼロは宣言した。 「クロヴィス・ラ・ブリタニア、そしてユーフェミア・リ・ブリタニアは我々の捕虜となった。人々よ!今この時、ブリタニアより我々は日本を取り戻したのだ!我々はもうイレブンではない、日本人だ!」 この日 この時 エリア11と呼ばれたブリタニアの属国は消え去り 極東の島国日本が蘇った。 「・・・C.C.」 ゼロの宣言が行われて数分後、予想通りの反応が現れた。 だが、その反応に思わず柳眉を寄せた。 「・・・ああ、解っている。だが、やられたなL.L.」 反応が現れるのは予定通り。 だが、現れたのは最悪の場所だった。 なぜそこに。 いや、すべてを抑えたからこそ、その場所なのか。 どれだけ用意周到に全ての芽を潰し、こちらが有利になるようにと進めても、神相手ではやはり焼け石に水か。神の使徒の力など障害にもならないと言うように、神はあっさりと、逆転の芽を作り出す。 まるでこちらの努力を、策をあざ笑っているようだった。 ようやく書き換えることの出来た未来だったが、神は強制的にシナリオを修正した。 ここで、神のシナリオが修復されれば、日本は再び制圧される。 「チッ!だが、まだ想定内だ、マオ!」 『わかったよ、L.L.』 彼らを乗せた装甲車両は、人知れず戦場を後にした。 「大~成~功~。ご苦労様ジェレミア卿、そして紅蓮の騎士」 いいデータがたくさん手に入ったよぉ。 ロイドが嬉々としてくるくると回転している側には、ジェレミアのサザーランドと、捕縛されたグレンtype-2nd、そしてパイロットであるカレンが後ろ手に縛られ、ジェレミアに拘束された状態でそこに居た。 「ゲフィオンディスターバーを、どうして黒の騎士団が!」 カレンは噛み付くように、ロイドに怒鳴りつけた。 政庁の屋上に到達したとたん、グレンはその動きを停止した。 その状況はカレンもよく知るもので、ブリタニアの技術者ラクシャータの発明だった。 ゲフィオンディスターバー。 流体サクラダイトを使用するあらゆる機体の動きを停止させる罠。 使用されたのは今までに1回、あのナリタ戦でのみ。 そのたった1回の使用で解析されたというのだろうか。 カレンは唇を噛み締めながらヘラヘラと笑う科学者、ロイドを睨みつけた。 きっとこの男が、悪魔の兵器フレイヤを生み出すのだ。 ヘラヘラと笑いながら、億を超える人々を殺すのだ。 ここで、こいつを殺す事が出来れば!! 殺意を宿した瞳に魅入られても、ロイドは飄々とした態度を崩さなかった。 すると、その場にいくつかの足音か近づいてきた。 「ロイドさん、グレンのパイロットは・・・」 先頭を足早に歩いてやってきたのはナオト。 すぐに視界に入った妹の無事な姿を見て、ナオトはほっと息を吐いた。 敵味方に分かれて戦っているとはいえ、妹を守りたいという気持ちは消えることはない。戦場では殺すつもりで攻撃を仕掛けた。そうでなければ勝利を手にすることは出来ないから。でも、カレンを殺さずに捕らえることが出来るなら、それがナオトにとっての最善の道だった。 安堵した顔のナオトの後ろには、ゼロが立っていた。 ディートハルトは諜報を主体とする壱拾弐番隊と共に日本全土に黒の騎士団の勝利を報道し続けているため、あの場で別れた。 今この場に現れたのはゼロとナオトの二人だけ。 それを視界に入れたセシルは、ロイドに近づいた。 そして真剣な表情で手に持っている端末を見せた。 「ロイドさん、動きました」 「ああ、やっぱり動いたかぁ」 予想通りだねえ。と言いたげにロイドは口元に笑みを浮かべ、目を細めた。 「何が動いたというのだ、ロイド」 ゼロが尋ねた。 ナオトも何の話だと、視線をロイドに向ける。 ジェレミアはすっと目を細め、彼らの言葉を待った。 「いえ、実は僕達が作ったギアス遮断機と制御装置には、小型の発信機を取り付けていたんですよ。遮断機はゼロと宝、そして宝の番人が持っていて、制御装置はマオが持っているのは知っていますね?」 それはゼロ、ナオト、ジェレミアも知っている情報だったため、三人は口を開くこと無く頷くにとどめ、ロイドが話を続けるのを待った。 「この反応、宝と宝の番人がどうやら誘拐されたようですねぇ」 あっけらかんと言われた言葉に、ゼロとナオトは息を呑んだ。 それはつまり今生天皇である皇神楽耶が誘拐されたという事。 咲世子がついているうえに戦場から離れているからと油断した。 「・・・っ、ロイド、発信機の情報を渡してくれ。零番隊で救出に向かう。ナオト」 「ああ、政庁の制圧はほぼ終了したから壱番隊と弐番隊も使える。至急手配しよう」 ナオトが通信機に手を添えたのを見て、ロイドはそれを静止した。 「すでにL.L.様が動いています。マオの発信機がその地点に向かっていますから」 「ということは発信機の存在をL.L.も知っていたと」 なぜ自分に教えなかったんだと詰問するような口調でゼロが言った。 「いえ、発信機には気づいていないでしょう。あの御方は、別の方法で奪われたことを知ったのだと思いますよ」 「宝が奪われることは、想定されていた事ですから、私達とは別の発信機を用意していた可能性はあります」 ロイドの言葉に、セシルが補足を付け加えた。 「奪われることが、想定内?」 それはつまり、皇神楽耶という存在をブリタニアに気づかれたということなのだろうか。ならばこの仮面の下もすでに知られているということになる。 いや、推測などしても意味は無い。 日本を奪われてから今日まで守り続けていた宝が奪われた。 それを取り戻さなけれないけない。 今あるのはそれだけだ。 「ロイド、セシル。宝が向かっている場所を教えてくれ。直ぐに部隊を動かす」 「いけませんよぉゼロ。相手はおそらく皇帝直属のギアス部隊でしょう。下手な人間を向かわせればギアスで操られる可能性が高い。同士討ちしちゃいますよぉ」 いつものようなおどけた声音。だが表情は真剣なものだった。 ギアスの能力が絡んでしまえば、味方の駒が一瞬で敵に変わる。 連れて行くのは危険すぎた。 「・・・ならば動けるのは私とロイド、セシルの3人か」 「いえいえ、あとジェレミア卿も無効化出来ますし、あと二人連れて行けますよ」 そういうと、ポケットからペンダントを2つ取り出した。 そのペンダントの先には見慣れた装置が取り付けられており、淡い黄色の光を放っていた。サンフラワーストーンを使用した、ギアス遮断装置。 「この前、L.L.様とC.C.がマオとロロを連れてブリタニアの研究室の一つを襲撃したんですよ。そこに保管されていたサンフラワーストーンで作りました」 マオと行動を共にしているロロには、すでに渡していますよ。 ペンダントを揺らすと、鎖がシャラリと鳴った。 「俺も行く、ゼロ。連れて行ってくれ!」 日本の宝。 日本が日本という名を名乗るために必要な存在。 天皇。 彼女を取り戻さなければ、本当の日本奪還とはいえない。 強い意志を秘めた瞳のナオトをみて、ロイド頷いた。持っていた一つを渡すと、ナオトは直ぐにそのペンダントを首に掛けた。 「カレン・シュタットフェルト嬢、僕の予想通りなら誘拐したのは君の言う預言者だと思うんだよね」 「え?あの人が?そんな卑怯なことするわけ無いじゃない!」 カレンは信じられないと怒鳴った。 その様子だけで、カレンはその預言者を心の底から信頼していることが解る。 「君、一緒に行ってみないかい?フレイヤに関して、君が盲信している預言者が正しいのか、C.C.が正しいのか、その答えが解るかもしれないよ?」 黄色の光を放つそのペンダントをシャラリと鳴らしながら、ロイドは困惑した表情を浮かべている赤毛の少女を冷めた瞳で見つめた。 |