まだ見ぬ明日へ 第99話


「・・・ゼロ様」

咲世子の言葉に、緊張しながらも皇帝、そして皇妃と対峙していた神楽耶は、僅かに表情を柔らかくした。ゼロはスザク。彼が来た以上、もう恐れるものなど無い。

「ゼロ!?」

ミレイは驚きの声を上げた。まさかこの不可思議な場所に黒の騎士団が乱入してくるとは思わなかったからだ。

「あ、カレン!!」

赤毛の見知った女性を見かけ、シャーリーはガチガチに緊張させていた身体から力を抜いた。

「黒の騎士団!?」

見知ったカレンだけならまだしも黒の騎士団がここに来た。リヴァルは自分が皆を守らねばと、咄嗟に両手を広げ女性陣をその背にかばった。

「カレンちゃん!?」

ニーナは驚きの表情を浮かべながらも、その凛とした佇まいに思わず見惚れた。
そう、先ほどの一陣の風は人間が起こしたもの。

漆黒の衣装と黒い仮面の男ゼロ。
青藍のパイロットスーツを身に纏った紅月ナオト。
深紅のパイロットスーツを身に纏ったカレン・シュタットフェルト。

一瞬でギアス兵を沈めた三人に、シャルルは眉を寄せ、元皇帝の騎士、ナイトオブラウンズ・ナイトオブ・シックスでもあったマリアンヌは、シャルルの前に立つように移動した。 ゼロもまたカグヤと咲世子の前に立ち、ナオトとカレンは生徒会メンバーを守るようにその前に立った。
そんな彼らの後ろから複数の足音がした。
その足音の中には、先ほど「神楽耶だけではなく玄武も殺すのが目的だった」と言っていた声の主も含まれていて、その声の主はざわめきが収まる頃を見計らい、再び話し始めた。

「ブリタニアの貴族階級を与える替わりに、日本を裏切るよう裏取引するはずだった愚かな男。それが枢木玄武のはずなのに、玄武は裏取引には興味を示さず、ブリタニアとの和平交渉を押し進めた。その姿は日本国内でも高く評価されていくし、どう煽ってもブリタニアに戦争を仕掛けてくる気配がない。その上予定では開戦前に自害するはずだったのになかなか死ぬ気配もない。だから、殺した」

不愉快そうに顔を歪めながらそう語るのは銀髪に長身の男マオ。

「ホントに薄汚い心だね。僕、お前たちは大嫌いだよ」

大げさに両腕を広げながら、吐き捨てるようにマオは言った。

「世迷い言を。そのような嘘を並べて、儂らの動揺を誘うつもりか?」

ゆっくりと歩みを進めていたマオは足を止め、上げていた手を降ろした。

「嘘はそっちだろ?言っておくけどね、僕に嘘は意味が無いよ」

そう言いながらサングラスを下ろす。
その両目は赤く、その瞳の中にはギアスの紋章が浮かび上がっていた。

「まさかギアス!?」

マリアンヌは驚きの声を上げた。

「ギアス?ふむ、ギアス部隊から裏切り者がでたか」
「いえ、逃げ出した者も、裏切ったものもいないわ。あの日失踪した者の中にも、この男はいないわ」

初めて見る顔だというマリアンヌの言葉に、シャルルはすっと目を細めた。

「ギアス嚮団と僕は関係ないよ。僕のギアスは君達が扱う紛い物とは違う。ちゃんと正規の方法で授けられた王の力だからね。僕のギアスは人の心を暴く。隠し事をしようとしても無駄だよ」
「人の心を暴くギアス・・・正規の手続きで王の力を手に入れた・・・?」

マリアンヌは不思議なものを見る顔で呟いた。

「ああ、なるほどねぇ、ふ~ん」

そういうことだったのかぁ。
マオは面白そうに目を細め、皇帝とマリアンヌを見つめた。

「なにか面白い情報でも聞こえたんですか?マオさん」

その声に振り向くと、ジュリアスの弟がそこにいた。

「ロロ!?」

シャーリーが驚きの声を上げた。

「なんでロロまで!?」

リヴァルも目を瞬かせながら、この状況に平然としているロロに視線を向けた。
その視線を受けながらも、ロロは皇帝と皇妃から目を離すこと無く歩いた。
そのロロに続いてこの場に足を踏み入れたのはロイド・セシル・ジェレミア。
そして。

「ラクシャータさん!?」

カレンは、ここにいないはずの上司に目を瞬かせた。

「はぁいカレン。どうやら無事みたいね?」
「まさか、ラクシャータさんも捕まったんですか?」
「貴女を追いかけてここまできたのよ。そしたらプリン伯爵がいるじゃない。だから話を聞いて一緒に来たわけ。まさか陛下と皇妃までいるとは思わなかったわぁ」

キセルを手に持ち、ラクシャータは皇帝と皇妃に一礼した。

「ラクシャータ、貴女まさか黒の騎士団に内通を?」

ラクシャータと一緒に来たのは黒の騎士団だと判断したマリアンヌは、鋭い視線とキツイ声音で言った。
だが、ラクシャータは苦笑しながら首を振った。

「いいえ皇妃様。こちらの二人、ロイド・アスプルンドとセシル・クルーミーと最後に会ったのは日本と戦争をする前。先ほど外で会うまでは連絡もしてないわ」

皇族に対して使う言葉遣いではないが、皇帝も皇妃もその事以上にラクシャータが口にした名前の方に意識が向いたようだった

「ロイドとセシルですって?」

マリアンヌはヘラヘラとした長身の男と、その男の側に立つ女性に目を向けた。

「あれぇ?僕のことをご存知なんですかぁ?」

へらっとした笑みを浮かべ、ロイドが尋ねた。
ロイドの態度に不愉快そうに眉を寄せたマリアンヌは、瞳を眇めた。

「貴方達はエリア11での戦争前に行方不明になったと聞いています」

この二人に関しては、7年経ったことですでに死亡扱いにもなっていた。

「まあ、そうでしょうねぇ。僕の大事なパーツが日本にいるから、戦争のドサクサに紛れて行方不明ってことにしたんですよぉ」

意外とバレないものなんですねぇ。
悪びれもせずそういう男に、皇帝と皇妃は眉を寄せた。

「貴方達が生きていたということは・・・まさかあのランスロット2騎は貴方達が作ったの?貴方達、自分が何をしているか解っているのかしら?」
「何って解りませんかぁ?ブリタニアという国を壊すための最強の騎士、僕のランスロットを誠心誠意真心込めて制作したんですよぉ」

当然でしょ?と、にっこにこと笑いながらオーバーリアクションも混じえていったので、皇帝と皇妃は馬鹿にされていると判断したらしく、その顔に激しい怒りを乗せた。 一般人である生徒会メンバーはその圧倒的な威圧感に、知らず体を震わせ身を縮め、ニーナは腰を抜かし座り込んでいた。

「ロイドさん、あまり挑発しないで下さい」

セシルがロイドの襟首をがしりと掴むと、借りてきた猫のようにロイドは首をすくめ「ごめんなさいごめんなさい」と謝りだした。

「なんて愚かな。シャルルがどれほど崇高な存在か解らないなんて」

見下すような視線で放たれたマリアンヌの言葉に、こらえきれないと言いたげに笑い声があたりに響いた。

「崇高な存在だと?シャルルがか?笑わせるなマリアンヌ。お前もシャルルも唯の愚か者だ」

その声の主は、見慣れぬ黒衣を身に纏ったC.C.だった。

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