帽子屋の冒険2  第10話


「くそっ!まだ効果範囲を出ないのか!?」
「あぁ、もう隠れててよね帽子屋ぁ!落ちそうで怖いからさ!」

隙を見て監禁されていた建物を抜けだした二人ですが、、外の兵に紛れ探索しているふりをしながら、針葉樹林に足を踏み入れた途端に制止の声を掛けられてしまいました。あの暖炉のある通路で気絶させた兵が目を覚まし、ギアスで逃げたのではなく兵に紛れていることが知られてしまい、すぐに大広間に集まることになったのです。
その場はひとまず、帽子屋が教えた敬礼をしてから返事をし、一緒に屋敷へ向かうふりをして、相手が気を許した隙に針葉樹林に飛び込みました。
後ろからついてきていないことに気がついた兵が声を上げ、それからこの追いかけっこが始まったのです。
必死に走るバンダースナッチと、兵士たちは針葉樹林の中を走り続けます。
残念なことに、あれからだいぶ走っているというのに、未だバンダースナッチのギアスは使用できません。その事に、帽子屋はいらだちを募らせていました。
帽子屋は激しく上下するバンダースナッチの肩に乗り、そのマフラーにしがみつきながら、後ろから迫ってくる兵を伺います。ハッキリ言って上下に降られているので非常に気持ちが悪いのですが、ただ隠れているなんて帽子屋には出来ません。

「相手はどれだけ広い範囲で封印をしたんだ!」

ギアス能力者がギアスの封印を掛ける場合は、対象に直接かけなければなりませんが、コード能力者は指定した範囲内を一定期間封印することが出来るのです。
チェシャ猫とV.V.がバンダースナッチに使った空間封印はせいぜい100mでしたが、その範囲はとっくに超えていました。それなのに、未だにギアスで転移は出来ません。

「二人より強力な能力者ということか、あるいは範囲を広げる方法があるのか?くそ、情報が足りない!バンダースナッチ、左からくるぞ!今だ、右に曲がれ!」
「わかった!」

帽子屋の言葉に反応し、バンダースナッチが身を翻し右に曲がると、勢いをつけて飛びかかってきた兵士二人はもんどりを撃って転がりました。

「よし、いいぞバンダースナッチ、次は左に曲がれ」
「わかった!」

バンダースナッチは帽子屋の指示に従い、林の中を縦横無尽に走り回りました。
兵の数は減りませんが、どうにか逃げまわり続けていると、針葉樹林から抜け、突然視界が広がりました。
そして。

「うわぁぁぁぁっ!?」
「ほわぁぁぁぁぁっ!!」

突然バンダースナッチの足元の雪が崩れ、その体が落下していきました。

「崖だ帽子屋!」

開けた視界、その10mほど下には流れの早い川。

「川だと!?くそっ」

この凍えるような寒さで川。それは死を連想させるものです。
その数瞬後、大きな水音が辺りに響き渡りました。



5・6・7・8
白の騎士は数を数えながら走っていました。
13・14・15
数が増えると同時に何かがドサリと倒れる音が辺りに響きます。
19・20

「っと、ホントに喧嘩っ早いなあ。ちょっと通りかかっただけなのに」

国境を目指して走っていた白の騎士は、国境付近で人の気配のする場所を目指して進んでいたのですが、なんとなく目にした屋敷に近づいた所、突然私兵らしきものたちに襲われ、反射的に打ち倒していたのです。
その数はとうとう20人を超えました。軽い当て身なのですぐに目をさますはずですが、この寒い中倒れている者達は風邪をひくかもしれません。でも、確認もせず急に襲ってきた相手が悪いよね。と、白の騎士には罪悪感など欠片もありませんでした。
ですが、さすがに次々現れる兵に面倒だなと内心思いながら走っていると、新たな兵が姿を表します。

「うわ、また来た。ちょっと、しつこいよ君達」

21・22・・・・・23・・・あれ?

「って待った今の人っ」

ふと掠めた香りに白の騎士はその足を止め、今打ち倒した兵に駆け寄りました。
兵が手にしていた長い棒。その先端に、あの嫌いな匂いがしたのです。
倒れ伏すその兵から奪い取ったその棒の匂いを嗅ぐと、間違いなくバンダースナッチの匂いがしました。

「え?まさかここにいるの?」

驚きの声を上げた白の騎士は、スッと目を細めました。

「なんだ、手加減しなくてよかったんじゃないか。この棒でバンダースナッチを殴ったのかな?まさか帽子屋に当たってないよね?」

帽子屋を誘拐した犯人なら、万死に値する。この兵から匂いがしたのだから、目指すべき場所はあの建物だなと目的地を見つけた白の騎士は、その気配をすっと消すと周りの風景と同化しました。
幸い今の白の騎士の衣装は全身白。雪景色に溶けこむその色のお陰で、白の騎士を追ってきた兵の目を眩ませることが出来るのです。
気配を殺しながら建物に近づくと、兵が慌ただしく建物の外へ出て行くのが見えました。

「僕を探しているのかな?まあ、そこから人が居なくなってくれるのは有り難いけど・・」

警戒し、辺りを伺われているこの状況はあまり良いとはいえないなと、白の騎士は嘆息しました。これはもう、さっさと突入し、帽子屋を取り戻したほうが良さそうだと思ったその時です。

「おい!見つけたぞ!北の針葉樹林だ!やはり奴はギアスで逃げていなかったんだ!」
「いそげ!ギアス使いを逃したら面倒だ!」

そう叫ぶ兵の声が聞こえました。
北の針葉樹林。
兵士が向かっていく方向は、白の騎士がいた場所とは逆方向でした。
つまり、兵がこうして警戒し慌ただしく動いている理由は白の騎士ではなく、ギアス使いという呼び方から、バンダースナッチが逃げたのだと判断した白の騎士は、気配を消すことを止め、兵士の後に続いて北の針葉樹林目がけて駈け出しました。

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