帽子屋の冒険2  第14話


いらいら。
むかむか。
帽子屋はとても腹を立てていました。
狙われていたのは自分なのに、バンダースナッチが生死不明となったのです。
イライラ。
ムカムカ。
帽子屋はとっても怒っていました。
自分が姿を隠しているせいで、白の騎士が危険な目にあっているのです。
自分が姿を見せれば、白の騎士だけでも助かることが出来ます。
それなのに白の騎士は自分がここにいることを言わないだけではなく、コード能力者、それもV.V.に勝てるほどの者を相手に攻撃を仕掛けているのです。
物理攻撃しか出来ない白の騎士に勝機などありません。
いろいろな可能性を、この激しく移動し、飛び回る白の騎士のポケットの中で具合が悪くなりながらもどうにか考えましたが、どう考えてもチェックメイト。打つ手なしです。
だから必死に叫ぶのですが、その声を白の騎士は無視するのです。
このままでは不味いと、どうにかポケットの口までよじ登り、ポタンの隙間から頭をのぞかせ再び叫びました。

「白の騎士!無駄だ!もういいから俺を交渉材料に使え!」
「黙ってて、気が散るから」

ポケットから聞こえた小さな叫び声に、冗談じゃないと白の騎士は、不愉快そうな声をポケットの中にだけ聞こえるように言いました。


いらいら。
むかむか。
白の騎士は腹を立てていました。
狙われているのが大好きな帽子屋だったのです。
イライラ。
ムカムカ。
白の騎士はとても怒っていました。
帽子屋がじたばたと暴れ、自分を差し出せと騒ぐのです。
此処で帽子屋を見捨てて、自分だけ助かれというのです。
冗談じゃないと、あまりにも酷い帽子屋の発言に白の騎士は苛立ち、思わず帽子屋に向かって冷たい言葉を吐いてしまいました。
でも仕方がありません。
どう考えても、勝つのが難しい相手なのです。
全速力で動ける今しか勝機はないのです。

「絶対に勝つ。勝って二人で帰るんだ」

自分に言い聞かせるように、白の騎士はそう言いました。
こうなった白の騎士は絶対に引きません。
白の騎士は空から降り続いているナイフを交わし、床に落ちたナイフを拾うと、それを銀髪の男に投げつけました。
正確な軌道で放たれた鋭い刃。今までその手にある剣しか向けてこなかった白の騎士の戦い方の変化に一瞬驚いた後、素早くコードで転移しました。
ですが、今度はその転移先にナイフが飛んできます。
コードによる移動先を予想するかのようなその攻撃。今まで攻めの一手だった銀髪の男は、とたんに守りに転じなければならなくなりました。
攻撃の手が緩んだ隙に白の騎士は複数のナイフを拾い、まるで予知でもしているかと思えるほど的確にナイフを投げ続けました。
恐ろしいことに、投げたナイフは壁に突き刺さっていきます。一本でも当たれば銀髪の男の負け。攻守が完全に逆転したその状態に、銀髪の男は一瞬混乱し、白の騎士の的よろしく転移することしか出来ませんでしたが、どうにか冷静さを取り戻すと、この建物の外へ転移しました。
しんと静まり返った大広間で、白の騎士は神経を張り巡らせます。
確かに銀髪の男は姿を消しましたが、見られているような気配は消えていません。
ですがこれは、負けるはずだった戦いに産まれた唯一の好機。そう思い、白の騎士はポケットから身を乗り出し、転げ落ちそうになっていた帽子屋をそっと掴み上げると、首にまいていたマフラーの中に押し込みました。
帽子屋はゼェゼェと荒い息を吐いており、白の騎士は帽子屋がいるその場所を軽く抑えながら、警戒を解くこと無く走りだしました。
帽子屋は、この小さな体で、あの金属音の響く中ずっと叫び続けていたのです。それは白の騎士に対する文句ではなく、指示。
ポケットの隙間から銀髪の男の動きを見ていた帽子屋は、コードによる転移に一定の法則とマーキングらしいものがあることに気が付き、白の騎士にナイフを拾わせると、自分が予想した場所に投げさせました。
指示した場所に、寸分違わずナイフを投げた白の騎士の腕はすごいもので、その御蔭でこうして一時相手を引かせることに成功しました。
ですが、これだけの寒さの中で叫んでいたのです。お陰で息が上がり、冷たい空気が体の中いっぱいに入りこんだことで体温が下がり、喉も痛くなりました。
帽子屋はブルブルと身を震わせながら、暖かなマフラーにしがみつきました。

「大丈夫かい?」
「問題ない。急げ、奴が来るまでそう時間はないぞ」
「うん、わかってる」

すこし喉が枯れてしまったようですが、元気そうな帽子屋の様子に安堵し、出しっぱなしだった剣を鞘にしまうと、白の騎士は全速力で走り出しました。

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