帽子屋の冒険2  第15話


白の騎士は、青白い壁に囲まれたお城らしき場所の廊下をひたすら走っていました。
窓一つ見当たらないその建物の壁を、白の騎士は何度か蹴破ろうと挑戦しましたが、あまりの固さに失敗し、刃物を使えば切っ先を刺すことは出来ましたが、その程度では意味が無いと、破壊するのは諦めて出口を探しているのです。
白の騎士の馬鹿力を持ってしても破壊できないその不思議な壁は、うっすらと透けており、外の様子が見える気がします。先ほどの大広間では解りませんでしたが、この通路の天井を見上げると、少なくても太陽の位置は解りました。
白の騎士はこんな作りの建物を見たのは初めてで、現在何処にいるかさっぱり解りません。ですが、共にいる者は違ったようでした。

「やはり、氷の城か」

白の騎士のマフラーから顔を出した帽子屋は断言しました。

「氷の城?じゃあここは氷の国なの?」
「ああ、この作りは間違いないだろう。先ほどの広間はおそらく氷雪の間。ならば、次の角を右に曲がれば正門に出られるはずだ。だがおかしいな、衛兵一人居ないとはどういうことだ?氷の王と女王は何処にいったんだ?」
「そうだね、誰にも会わないのはおかしいよね」

このお城で出会ったのは先程の銀髪の青年だけでした。
あのコード能力者がこの城の者達に何かしたのでしょうか?
それを調べたいところですが、今は無事ここから抜け出すことを優先しなければなりません。帽子屋の安全を確保したら必ずこの城に戻って、あの銀髪の男を倒す。そう心に誓い、白の騎士は帽子屋が落ちないよう支えながら、先に進みました。
やがてその通路は広い部屋へ行き当たり、その視界の先に大きな門が見えました。
氷で出来た巨大な門はどうやら正門のようです。
白の騎士は辺りを警戒しながらその門に近づくと、開けられないか押してみました。
ですが、予想通りびくともしません。

「無駄だ、鍵がかかっている。ほら、上を見てみろ」
「あ、ホントだ」

10mほど上、門の丁度中間辺りに、閂が掛けられているのが見えました。
このままではさすがの白の騎士でも開けられません。
あの位置から考えると、巨人族が門番のはずですが、その姿もまた見当たりません。

「帽子屋、ちゃんと捕まっていてね。閂まで駆け上るから」

少し門から離れた白の騎士は、帽子屋にそう言いました。

「帽子屋?君は今、そういったのかな?」

真後ろから、あの声が聞こえてきました。

「・・!しまったっ!」

もう少しで外だと油断してしまい、銀髪の男に背後を取られてしまいました。
急いで戦闘態勢に入ろうとした白の騎士は、突然ガクリと膝が崩れ、床に両手をつきました。どうしたことでしょう。足に力が入りません。

「なかなか油断してくれないから、困ってたんだけど、これでチェックメイトだよ」

近寄る銀髪の男を睨みつけ、白の騎士は腰の剣を抜き、片手で振り払いました。

「往生際が悪いね君は」

白の騎士の動きを予想していた男は、あざ笑うかのように転移し、距離を取りました。 その動きに腹をたてた白の騎士ですが、腕を動かした時全身に力が入り、両足にチクリと痛む箇所があることに気づきました。
その場所に視線を向けると、氷で出来た針のようなものが膝の裏に刺さっていました。

「ああ、よく気づいたね。それで君の足を麻痺させたんだよ」

氷だというのにとても固いその破片を手に取り、白の騎士は両足から抜き取りました。
痛みはありませんが、完全に足がしびれていて、立とうとしても立てそうにありません。

「抜いても2.3分はしびれたままだよ。残念だったね白の騎士。でもさっきは楽しかったよ。僕をあそこまで追い詰めた人間は千年ぶりじゃないかな」

先ほど対峙していた時とは違い、満面の笑みを浮かべた銀髪の男性は、白の騎士の剣先がぎりぎり届かない場所まで近寄ると、白の騎士に合わせてしゃがみました。

「で?さっきから君、独り言を言ってるのは知ってたけど、そういう癖があるだけだと思ってた。でも君今、帽子屋って言ったよね?何、通信機でも持ってる?それとも、ここに居たりするのかな、帽子屋が」

小首を傾げながら聞いてくるその男を睨みつけながら、白の騎士はどう相手を斬り伏せるか考え続けていました。幸い、帽子屋は様子をうかがうため、白の騎士のマフラーの奥深くで、息を殺していて、まだ男には気づかれていませんでした。
そのまま出てこないで。僕が必ず守るから。だから、お願い。そのまま静かにしていて。そう心の中で願うしかありません。

「君にはここに彼がいるように見えるのか?」
「残念ながら。コードの新しい力でもチェシャ猫かV.V.が見つけ出して透明化してるって考えも無くはないけどね。でも、君に助言を与えたのが帽子屋だと考えれば、さっきの反撃は納得できるかな?」
「チェシャ猫、V.V.その上帽子屋か。君は彼らと面識があるのか?」
「V.V.とはあるよ。彼がまだそう名乗る前だけどね。チェシャ猫は神出鬼没の女性だって話は聞いている。帽子屋も噂だけだね」

V.V.はハートの欠片を奪った時に会ったのでしょう。ですがチェシャ猫はともかく、誘拐の対象である帽子屋とも面識は無いというのです。
その内容に白の騎士は眉を寄せました。

「どうして帽子屋を狙う」
「君には関係ないよ白の騎士」

その男は冷たい笑みを浮かべました。

「・・・名前を聞いても?」

相手は白の騎士を知っていますが、こちらは相手の名前を知りません。そのため名を尋ねると、男は苦笑しました。

「ああ、そうだったね、これは失礼。楽しい戦闘のお礼に教えようか。僕はライ。気づいているとは思うけど、コード能力者だ」

氷の国の銀髪の青年ライ。
その名前を帽子屋は知っていました。
最悪だ、まさかあのライとはな。これだけの情報があったというのに、どうして今まで気が付かなかった。・・・この相手では、白の騎士に勝ちはない。すべてを悟った帽子屋はスッと目を細めました。

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