帽子屋の冒険2  第18話


「そう、チェックメイトだ。白の騎士も諦めてくれないかな」

悠然とした笑みを浮かべ、狂王は片手を伸ばしました。

「さあ、帽子屋をこちらへ」

白の騎士は嫌だとつぶやくと、剣を鞘に戻し、帽子屋を両手で包むように持ちました。

そして狂王と距離を取るため、ゆっくりと後ろに下がります。

「往生際が悪いな。唯時間が無駄に過ぎるだけなんだけど?」
「そう、ただ時間が無駄にすぎるだけだ。言っただろう?チェックメイトだと」

その手の隙間から無理やりその顔を出した帽子屋は、そう白の騎士に告げた後、狂王に視線を向けました。
白の騎士も解っていました。
ろくに動かない足。
相手はコード能力者。
どうあがいても勝てません。
チェックエイト。

「・・・っ!嫌だ!絶対に嫌だ!君を渡すなんて、嫌だ!!」

嫌だ、嫌だと白の騎士は首を振りました。
帽子屋は、子供のように駄々をこねる白の騎士に柔らかく微笑みかけます。

「白の騎士、今までよく頑張った。だからこその、チェックメイト。もう終わりだ、狂王」

ゼロモードの、あの低い声と悪役じみた笑みを浮かべた帽子屋に、狂王は眉を寄せました。

「・・・どういう意味かな?」

ここに来てようやく、あっさりと負けを認めた帽子屋に、何かがおかしいと警戒し低い声で狂王は訪ねました。

その時です。

何やら奇怪な音が遠くから響いてきました。
ぶるるん、ぶるるん、ぶるるん、と機械の音を真似た男性の声にも聞こえます。

「なんだ?この場所には僕達しか居ないはずなのに?」

狂王が訝しげに眉を寄せた時、その音の主はこの場所にたどり着きました。
そして、それは奇怪な叫び声を上げました。

「理解は幸せっ!ギア~~~~ス!」

そう言いながら何やらポーズを取り始めます。

「キャンセラー!!」

ビシッとポーズを取ったその人物は、その視線を帽子屋に向けました。

「オレンジビーム!!!!」

そう叫んだと同時に、その顔の左半分を覆うマスクが開き、その下に隠れていた瞳が現れました。そして、その瞳からオレンジ色の光が一直線に帽子屋に向かって飛んでいきます。
このオレンジ色の光と奇妙な雄叫びに、白の騎士は覚えがありました。
そう、あの日、自分もこの光を浴びたのです。
それはつまり。

「フハハハハハハハ!やっと!やっと戻れたぞ!よくやったジャバウォック!!よくこの場所を突き止めた!」

小人化していた帽子屋は、みるみるうちに白の騎士と変わらない身長の、元の姿へと戻りました。そのロイヤルパープルの瞳を細め、その顔に悪役じみたゼロモードの笑みを浮かべています。

「帽子屋!」

白の騎士が驚きと喜びに満ちた笑みで名を呼んだので、帽子屋は白の騎士に視線を向けると口角を上げました。

「帽子屋様、お久しぶりでございました。ようやく!今日!貴方様を戻すことが出来ましたでございます!」

感涙を流し、奇妙な動きをしながらジャバウオックは喜びの声を上げます。

「ジャバウオック!?どうして此処に!どうやって入ったんだ」

この氷の城は厳重に施錠されていたため、外部から侵入できないはずでした。
動揺し、うろたえている狂王の姿に、ゼロはフハハハハハと高笑いを上げました。

「この程度の城、ドードーがいれば忍び込むことなどたやすい!」

その声に答えたのは、狂王の真後ろにいた影です。

「その通りでございます」

狂王の影と同化し、その気配を消していたドードーは、当然だと答えました。
気配なく真後ろにいたドードーに驚き、狂王は距離を取ろうと飛び退り、その場を移動します。

「っ!?何で転移できないんだっ!!」

安全な場所に逃げようとコードを発動させましたが、狂王は転移することが出来ませんでした。

「知らないのか?コードはコードで封印できる。場所がわかればお前の力を無効化することは容易い。そうだろう、チェシャ猫」

不敵に笑う帽子屋の言葉に「当然だろう?」と女性の声が返事をします。声の方を見ると、白の騎士の後ろから、するりとチェシャ猫が姿を現しました。

「なっ!チェシャ猫!?どういうことだ?何で此処に!?」

今まで王者の笑みを浮かべ、悠然と白の騎士を追い詰めていた狂王は、完全に取り乱し、顔をみるみる青ざめました。
そこに再び、フハハハハハハと高笑いが響きます。

「なに、簡単な話だ。コードギアス・キャンセラーが発動したその瞬間、この周辺に張り巡らされていた狂王の封印もまた解除された。だからこそ、チェシャ猫はここにいる」

コードの封印がなければ、チェシャ猫は元に戻った帽子屋の居所がわかります。

「そういうことだ。ああ、バンダースナッチは無事だぞ?ちゃんとお前からの伝言を伝えてくれた」
「ああ、わかっているさ。だからこそ、今がある」

ニヤリと笑いながら、チェシャ猫は帽子屋を庇うように、その斜め前にたちました。

「・・・伝言?」

スッと目を細めた狂王はそう訪ねてきました。

「そう、伝言だ。私はバンダースナッチと万が一はぐれた時のために、伝言を頼んでいた。雪の国はフェイク。犯人は氷の国にいる。だからジャバウオックとドードーは共に氷の国に入り、コードによる封印の気配を探るよう命じた。俺が知るかぎり氷の国にギアスユーザーはいなかったからな。いるとすればお前と、お前がその力を与えたものだけ。だからこの国であれば、コードギアスの気配を嫌うジャバウォックは迷うこと無くこの場所を見つけ出せる」

そして、嫌いなその気配を消し去るため、身のうちに秘めたその力を開放するのです。その瞬間、白の騎士へのマーキングは消えてしまいましたが、契約者である帽子屋の居場所がわかり、チェシャ猫はこの場へやって来て、狂王のコードを封じたのです。

「そんな手で!」

ひとまずチェシャ猫の視線から離れようと、狂王が足を動かし始めましたが、帽子屋はその美しい顔に残酷な笑みを浮かべました。

「言っただろう?チェックメイトだ」

その瞬間。
この広間に無数の兵士が現れました。
左には赤の王と女王、そして赤の軍。
右には白の王と女王、そして白の軍。
狂王の背後にハートの王と女王そしてハートの軍。
そして正面。
白の騎士の後ろには不思議の国の住人たち。
ハートの王の前にはV.V.が立ち、狂王をチェシャ猫とV.V.で挟む形となりました。

「狂王。貴方の目的は知らないけど、大人しく裁きを受けなさい」
「我が兄、V.V.を傷つけ、今度は帽子屋と、その弟子バンダースナッチを傷つけた。その罪償ってもらおう」

ハートの女王とハートの王のその言葉を合図に、兵は動き出しました。
皆その手に武器を持ち、狂王を取り囲みました。



うちのハートの女王は「首をちょん切るわよ」はいいません。何度か言わせようとしたけど、前回同様挫折。言わせるの難しいセリフだよね・・・。

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