見えない鎖 第3話


教室に入ってきた編入生に、クラスはざわめいた。
当然だ。
そこに居たのはイレブン。
軍属の名誉ブリタニア人。
第3皇子クロヴィス・ラ・ブリタニア殺害の元容疑者。
枢木スザク。

ざわめきの中なされた挨拶。
人の良さそうな笑みと、明るい声。
ああ、幼いころのままだ。

あの日、裁判所へ向かっていたスザクを救出した時。
あの時も、穏やかな話し方をしていた。
幼いころとは違い、大人しくはなっていたが。
だから、スザクの心が荒んでいたわけではないのだ。
俺だから、憎悪と嫌悪の感情を向けられたのだろう。

だが、たとえお前に嫌われていたとしても。
俺はお前には死んで欲しくはないんだ。

お前とナナリーには幸せになってほしい。
ブリタニアの支配から解放された日本で。
お前たちだけでも、幸せに。
生きて、欲しい。

指示された席に着き、座ったスザク。
その様子を窓ガラス越しに見ながらそう願った。




突然、皇族から少年を入学させたいという申し出があった。
名門と呼ばれ、このエリア11で最も安全な学園と呼ばれるここに。
その安全は二人のために作られたもの。
そこに、二人の害となりえる者を入れる訳にはいかなかった。
たとえ、皇族の命令でも。
だって、私たちの主は皇族を敵と思っているのだから。
さて、どうやって断ろうかしら。
おじい様とその相談をする予定だった。
おじい様もそのつもりだった。
危険は、この楽園に入れてはならない。
外敵は、この箱庭に入れてはならない。

だが、渡された資料を見て、私は考えを変えた。
それは先日、クロヴィス殿下の暗殺容疑のかかった少年。
そして、あの二人が愛した少年。
あの二人が今も友と呼ぶ唯一の存在。
心の支えといってもいい者。
枢木スザク。

あのテレビ中継を見たときは驚いた。
非公式ではあっても、死刑宣告された彼。
その後、釈放されたときにどれほど私が喜んだか。
どうすれば彼と接触できるのだろうと考えたか。
その彼が、ここに来る。

ああ、でも。
名誉ブリタニア人とはいえ、軍属の少年。
皇族の暗殺容疑が掛かった疑わしき者。
たった一人の異端の存在。
きっと、彼は辛い思いをするだろう。
それでも。
これは私の夢。
私の願い。
三人が笑いあう、箱庭。
その守護者となること。

だから、彼を迎え入れる。
あの方の傍に。

私はその時の選択を、今はとても後悔しています。




ユーフェミア様には感謝の思いしかなかった。
彼女と出会ったことで、僕はアーサーとも出会えた。
彼女と知り合った事で、僕の無実は証明された。
彼女と話したことで、また学校に通えるようになった。

全ては彼女の優しさ。
さすが、ナナリーの姉だなと思う。
二人とも、穏やかで優しく、暖かい。
あいつと血が繋がっているのは不幸なことだけど。

ブリタニア人の学校。
それも名門と呼ばれる場所なのだという。
そこにたった一人だけ入る敗戦国の人間。
まあ、いろいろやられるだろうな。
それでも、学校に通い、勉強をする。
それだけで十分幸せだ。

そう思っていたのに。
入った教室で見たくもない者を見てしまった。
どうしてここに。
この学年にもいくつかクラスがあるはずなのに。
ああ、でもちゃんとわかってはいるようだ。
一瞬こちらを見た後、視線を外へ移した。
良かった。
見られていると思うだけで、寒気がする。
出来るだけ視界に入れないようにしないと。
幸いこちらの席のほうが前だ。

せっかく楽しみにしていたのに、出鼻をくじかれた。
きっとこれから起きるだろう嫌な事は全部あいつのせいだ。
そうに違いない。あいつはそういう存在だ。
それにしても図太い神経をしている。
トウキョウ政庁にも近いこの場所で普通に学生生活なんて。
いい身分だよまったく。

あの日、テロリストのトラックの前で逃げられた事を僕は心底残念に思った。

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