見えない鎖 第6話


クラブハウスに戻ると、何時もならすでに就寝しているはずの咲世子が起きていた。
スザクとの食事を終え、二人で楽しく折り紙を折りながら雑談していた時、突然ナナリーが体調を崩したのだという。スザクが蒼い顔で咲世子を呼びに行き、咲世子とスザクが二人でナナリーを運び、ベッドに休ませたそうだ。念のためミレイがナナリーの主治医を呼び、今は鎮静剤を打ち、静かに眠っているという。

「一体何があったんだ?念のため食事の内容を確認しても?」
「はい、こちらに使用した材料の残りを用意しております。そしてこちらに本日のレシピも記しております」

食後の体調不良であるなら、まず疑うべきは食材と調理法。
咲世子の事だから間違いは無いはずだが、まず最初に確認はしておきたい。

「すまないな、咲世子さんの事は信じているけど、原因を調べたいんだ」
「解っております。ナナリー様がお飲みになられた紅茶と、直前まで使用されていたカップもそのままにしております」

ルルーシュの性格と、頭の良さを知っているからだろうか。
咲世子は当然だという顔で全て準備をしてくれた。

「有難う、助かるよ。こちらは俺が調べますから、咲世子さんは休んでください」
「いえ、大丈夫です。それでは、ナナリー様の元に居てもよろしいでしょうか?」
「いいのかい、咲世子さん」

その言葉はとても有り難いものだった。
体調が悪いナナリーの傍に、信用できる女性が居てくれるのは心強い。

「はい。私もナナリー様の容体は心配ですし、お医者様は精神的な物だとおっしゃっていましたが、他に理由があるかもしれません。それに、今日はナナリー様が起きられた時、誰かがついていたほうがいいかと思います」
「・・・ありがとう、咲世子さん」
「いえ、それでは失礼いたします」

キッチンから咲世子が退席した後、俺は一度その場を離れた。
食事も、折り紙を折るのも、ダイニングテーブルを使ったと咲世子が言っていた。
万が一、スザクがナナリーに俺と同じような態度を取った時のために、二人には悪いと思ったのだが、このテーブルに盗聴器を仕掛けていたのだ。
テーブルの下のそれを手早く取り外すと、懐に入れていた専用装置に、盗聴器内に入っていたメモリを移し替え、耳にセットした。
食事の時間に起動するようセットされたそれから、二人の明るい声が聞こえてくる。
最初、スザクが嫌悪している理由はブリタニア皇帝の子だからだと考えていたため、ナナリーとスザクが普通に会話をし、それを楽しそうにナナリーが口にした時は驚いた。
ならば、スザクが嫌悪しているのは血筋に関係なく、俺だけなのかもしれない。
そう思い、二人だけで食事をさせることにしたのだ。
自分がいなければ、昔のように楽しく過ごせるのなら二人だけにすればいい。
あの二人が笑うためならば、そこに自分が居なくてもかまわない。
その思いが裏目に出たか。
二人の会話を盗み聞きする趣味はない。
だから、食事を終え、折り紙を始めるところまで早送りした。
そして、二人の間で交わされたあの会話を知ることとなる。
スザクが平然と話しているその内容に、だんだんナナリーの声に怯えと不安が滲んでいくのがわかった。そして、スザクがどう考えているのか、それも分かった。
やはりスザクが嫌悪しているのは俺一人。ナナリーは関係ない。
ナナリーに対しては、昔と変わらない優しいスザクだった。
だが、スザクの言葉は、ナナリーを苦しめた。
原因は、これだ。
やはり、咲世子の用意した食事には何も問題は無く、ナナリーが体調不良を押して無理をしたという訳でもない。
原因は、スザクの言葉。
ナナリーが苦しむ声を耳にすると、胸が苦しくなる。
それでも全てを聞き終えてから、ルルーシュは用意された食材を冷蔵庫内へ戻し、ナナリーが使っていたカップを洗った。
そして、ナナリーの元へ向かう前に、自室へ戻った。
そこには、共にこのクラブハウスへ戻ってきた共犯者が、我が物顔でベッドを占拠していた。すでに半分眠りにおちていたのだろう。煩いと言いたげに、室内へ入ってきた俺に視線を向けてきた。

「C.C.、これを聞いてくれ」
「・・・なんだ。明日じゃ駄目なのか?私は眠い」
「今、聞いてくれ。そして意見が欲しい」

俺は、二人があの会話を始める直前にセットした再生機を、眠そうに体を横たえていたC.C.の耳にはめ、スタートを押した。

「・・・なんだ、悪趣味だなお前。妹が恋人と語らうところを盗聴か?シスコンもここまで来ると気持ちが悪いぞ」
「黙れ。いいから全部聞け」

不愉快そうに眉を寄せながらこちらを見てきたC.C.にそう言った後、俺はパソコンを立ち上げた。調べるのは枢木スザクに関する全データ。シンジュク事変後に関してはすでに調べ済みだが、シンジュク事変前、特に軍に入る前の情報が欲しい。
出来る事なら、俺たちと別れた直後からのあらゆる情報。
手に入らないとは分かっているが、それでも何か痕跡を。
ぶつぶつと、文句を言っていたC.C.は、やがてピタリと口を閉ざし、眠そうだった目が鋭く細められた。そして一字一句聞き洩らさないよう、その声に集中した。
口は悪く、だらしのない女だが、頭はいい。
余計な事を説明しなくても、この女は全てを理解するだろう。
やがて全て聞き終わったのだろう、その機械を耳から外すと、C.C.はそれを投げてよこした。
受け取ったそれの電源を落とし、ポケットに仕舞うと、真剣な表情でこちらを見据えるC.C.に視線を移した。

「・・・で?私に何が聞きたい?お前はこれで何に気づいた?」
「俺以外のギアス能力者に関する情報を全て教えろ。・・・スザクにギアスをかけたのは誰だ」

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