見えない鎖 第7話


目の前に座る男は、机からソファーへと移動すると、優雅にその足を組んだ。
そしてベッドに身を起こし、座る私をじっと見据えた。

「スザク?ほう、お前の妹の男は、枢木スザクなのか?」

今聞いたのは二人の男女の会話。
女はこの男の最愛の妹。
男はこの男の親友という事か。
幼いころ共にあった3人目の子供。
このタイミングで再会するとはな。

「茶化すな。質問に答えろ」
「お前、これをギアスだと断言する理由は何だ?単にお前が心底嫌われているだけじゃないのか?これだけでギアスが原因だとする理由がわからないな」
「確かに、俺もギアスを知らなければ、軍による洗脳を疑うところだ。だが、人の心を操るギアスの存在を疑うほうが洗脳よりも可能性が高いと思うが」
「洗脳か。枢木スザクがお前を嫌う理由は無いから、嫌うのは誰かがその心を書き換えたからだと?お前、シスコンだけじゃなかったのか」

シスコンフィルター並みの親友フィルターが存在していて、枢木スザクはこいつの溺愛対象になっているのか?
・・・ああ、ありえるな。しかも過去は美化されるから、悪化している可能性は大だ。

「言っている意味がわからないが、俺が疑っているのはそんな理由からではない」
「では何だ?」
「スザクが俺を嫌うのは構わない。恨む事も構わない。何せ俺はあいつの息子だからな。その覚悟はある。だから、ナナリーと仲良く過ごしてくれるのであれば、俺には何も問題はない」
「ほう?自分が嫌われる事はどうでもいいと?」

相変わらず、自分は蚊帳の外か。
どうしてあの二人からこんな自己犠牲精神しか無い奴が生まれたんだろうな。
私は、面白い物を見るかのように、目を細め、目の前の男を見た。

「ああ、スザクがそう望むのであれば、俺はスザクと関わるつもりもない」

この発言で、やはり親友フィルターがあるなと、私は確信した。
スザクの幸せのためなら、自分の願いや思いなど、綺麗さっぱり切り捨てるだろう。
ナナリーの幸せのために自分を捨て、世界を変えようとするような奴だ。
それぐらい容易い。
なにせ、最終的にこいつの考える<ナナリーの幸せな世界>の中に、この男は存在していないのだからな。本当に、変わった男だよ。

「では何だ」
「聞かなければわからないか?お前も気づいたはずだぞ、スザクの異様さに」
「・・・否定はしない。確かに何かがおかしいな、この男は」
「ナナリーをこれだけ心配しておきながら、ナナリーの変化に途中一切気づいていない。おかしいだろう!ナナリーがここまで怯えているんだぞ!!スザクなら絶対に気づくはずなのに!!」

ああ、ナナリー、かわいそうに。

「まて、そこなのか!?そこじゃないだろう!?」

こいつの判断基準はあくまでも妹なのか!?
シスコン、恐るべし!

「何を言う!ここが一番重要だろうが!!」
「もういい黙れシスコン!」

こいつとナナリーに関する話をしていると非常に疲れる。だから、一時それは保留だ。

「枢木スザクは、お前を心底嫌っている。ここは何も問題はない。私が気になっているのは、こいつは自分以外の人間も、ルルーシュを嫌って当然、嫌悪して当然という発言をしていることだ」
「・・・ああ、そう言えばそんな感じだったな」
「いや、まずはそこに気づけ!」
「気づいてはいるが、そんなことより大事な事が」
「これが一番大事だ!枢木スザクを変えた犯人を見つけるヒントがあるとすればこっちだろう!」

シスコンもたいがいにしろ!!
ナナリーが絡むと、どうもこいつはその無駄にいい頭を無駄な思考へと走らせる傾向がある。軌道修正すのは非常に大変だ。

「・・・確かに、犯人にたどり着くためならば、お前の言う事のほうが重要なのかもしれないが、だがしかし」
「しかしもかかしも無い!・・・もういい。ギアスの可能性があるかというならば、あるな」
「誰だ!誰がこんな!」
「わからん」
「何!?」

ソファーから立ちあがり、今にも掴みかかって来そうなルルーシュを、片手を上げることで制止させる。こいつ、いつもの冷静さをどこに忘れてきたんだ。非常に迷惑だ、今すぐ取りに戻れと言いたい気分になってきた。

「可能性があると言っただけで、知っていると言ったわけではないだろう」
「ならば、その可能性を全て俺に話せ」
「断る」
「C.C.!!」
「さしあたって、枢木スザクの動向は、お前の生死と目的に関係なさそうだしな」
「それは言外に、関係があったなら、話せるだけの情報をお前は持っている、と言っている気がするのだが」

そういうところだけは冷静に気付くのか。面倒な男だ。

「気のせいじゃないか?」
「お前っ!・・・俺の生死と目的に関係ないと言ったが、それは違う、間違っているぞC.C.」
「何?」
「俺の望む世界。それはナナリーが幸せに暮らせる世界だ」
「それは耳にたこができるほど聞いた。というか聞き飽きた」
「そして、その世界にスザクの存在は必要不可欠!」
「なんだと!?」

予想外の言葉に、思わず私は声を荒げてしまった。
私のその反応に気を良くしたルルーシュは口角をあげ、自信満々に言った。

「なぜならば!ナナリーを任せられる男は、スザクだけだからだ!」

成程、シスコンフィルターと親友フィルター効果で、親友スザク以外ナナリーはやれないと。それはあれか?7年前からスザクの嫁に行かせることを決めていたのか?
それとも、嫁までは考えてないのか?
ああ、考えてないな。任せられる、だからな。

「おい待て、ナナリーの意思はどうするんだ」
「問題ない。相手はスザクだぞ。ナナリーが拒むはずはない」
「・・・スザクの意思はどうなる」
「C.C.!ナナリーを拒む男がこの世に居ると思うのか!!」

あー、これは駄目かもしれんな。
いろいろこの男は終わっている。
だが、そうか、と私は質問をすることにした。

「もしだ。お前に私の知る全てを話す条件として、私の願いを叶えろと言えば、お前は従うのか?」
「それは、ギアスの契約で言っていた願いとは別か?」
「いや、同じだ」
「なら構わない。俺に叶えられるものであれば、従おう」
「地獄を生きることになるぞ」
「どの道死んだら行く先は地獄。ならば地獄を拒む意味はない」
「お前は私を殺せるか?」
「・・・今死なれるのは困る。それに・・・ちょっと待て、お前の願いは死ぬ事なのか」

ああ、しまった。
つい口を滑らせてしまった。
この無駄に頭のいい男は、今の会話で全て気づいてしまったようだった。

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