見えない鎖 第10話 |
ブリタニア国内外で、一つの噂がニュースとして取り上げられた。 それは、黒の騎士団の諜報員が編集し、テレビ局にハッキングして先日エリア11全域に流された信じがたい内容のものについてであった。 あの日、ミレイに話を聞いたカレンは、その時の話を扇に話した。 ゼロと連絡が取れず、こういう情報なら報道関係者に任せるのがいいだろうと団員たちは結論を出し、入団テストだと、ディートハルトにそれらの情報を流した。 ディートハルトはその内容に飛びつき、調べ上げ、そして、流したのだ。 植民地となった国にいる、売国奴と呼ばれている名誉ブリタニア人の兵士達は、ブリタニア軍により徴兵され、その後本国へ渡り、洗脳を受けているのだと。 洗脳の内容は2つ。 ブリタニア皇帝に絶対の忠誠を誓うこと。 その者が一番に思っているものを嫌悪し、憎悪すること。 一番の親友。 一番好きな家族。 一番尊敬する人。 一番好きな国。 とにかく、本人が一番と思うもの全てである。 だからこそ、自分たちの国を滅ぼしたブリタニアの兵士となれるのだと。 彼らの任務の大半は同族殺し。 銃で、ナイフで、時には素手で。 自国の民を制圧し、せん滅する。 それが出来るのは、その心を捻じ曲げられた結果であると、その証拠だという映像とともに流された。 その映像は元々ブリタニア軍に保管されていたものだった。 そこには、銃を構えた兵士と、その兵士の知り合いか、家族かは分からないが、その兵士を良く知っているのだろう人々の姿。 どうしたんだ。 なぜこんな事を。 お前、自分がした事が解っているのか。 と、口にするその姿を視界に入れたその兵士は、憎しみをこめた眼差しと嘲笑を顔に浮かべた後、迷わず引き金を引いた。 その瞬間の映像。 名誉は徴兵ではなく、全て志願兵である。 ブリタニアの考えに賛同した者達である。 そう、言われていた。 だが、その後多くの報道陣が名誉ブリタニア人の兵に取材をし、ある日突然徴兵され、住んでいる場所も引き払われていた事をつきとめていた。 この噂は火種となり、いま各国に飛び火している。 それらは次第に大火となり、国中を燃え上がらせた。 その放送の少し前の事である、インターネットにも同種の内容が流されていた。 そちらは黒の騎士団とは無関係の物であったが、内容はほぼ同じだった。 ミレイはあの日、もしかしたらあの時ニーナが襲われた事件の犯人であるイレブンもまた洗脳を受け、イレブンは凶暴だ、危険な思考の持ち主だ、という印象をブリタニア人に抱かせる役目を持っていた可能性は無いだろうかと、そうニーナに言った。 洗脳が可能であれば。 ブリタニア人に都合のいい事件を起こし、国民感情をあおるのは簡単な事。 あの時の事件も被害者の名前は出されなかったが、いかにイレブンが危険で、卑劣で、下等な存在かをブリタニア人に強く印象づかせる切欠になっていた。 そう、あの事件以降、イレブンに同情的なブリタニア人はその数を急激に減らしていたのだ。 本当に、それが事実だというのであれば。 恐ろしいのはイレブンでは無い、ブリタニアの上層部だ。 ニーナはあらゆる手段でハッキングを試み、軍のデータの一部を抜き出すことに成功した。 そして、その映像を見て愕然とし、痕跡を残さないよう細心の注意を払いながら、それをネット上に流した。 それが今世界各地で流されている、あの映像である。 ミレイの話を聞いた後、シャーリーとリヴァルは出来るだけナナリーの傍に居るようにしていた。ルルーシュは所用で出かけているらしく、もしルルーシュが戻ったら、ルルーシュの傍にも出来るだけ居ることにしたのだ。 自分たちには何もできない。 だけど、もしかしたらスザクが突然やってきて、二人に何かするかもしれない。 二人と顔を合わせたスザクが、またあの怖い顔で二人を傷つけるかもしれない。 力の無い自分たちにできる事は、友人である兄妹を少しでもスザクから守ること。 スザクが学園に居る間は、出来るだけスザクの傍に居て、クラブハウスには近づけないようにする。ルルーシュがもしいれば、ルルーシュにはシャーリー、スザクにはリヴァルと別れて相手をし、互いを離れさせる。 自分にできる事は小さな事だけど、それでも、少しでも二人を守りたい。 それが、洗脳によって捻じ曲げられた結果だというのであればなおさらだ。 箱庭の番人の助手達は、新たな防壁となり、敵の進行を阻み続けた。 爆弾の投下を終えたミレイは、ルーベンに全てを打ち明けた。 最初は信じられないという顔をしていたルーベンだったが、その後咲世子の報告も聞き、自分も動かねばならないと悟った。 一族の者がどう考えていようと、ルーベンとミレイの気持ちは同じ。 あの二人の主が、平凡な人生であれ、幸せに生きる事の出来る環境を整えること。 そして、皇室から守り続けること。 「ルルーシュ様は今どこに?」 「それが解らないんです。おそらくスザク君の事を調べに動いていると思うのですが、あの日以降連絡が取れません」 「そうか、ルルーシュ様の御考えを聞いてからでなければ、大きく動くわけにはいかないな。ミレイ、ルルーシュ様に伝えてほしい。このルーベン・アッシュフォードをいくらでも利用してくださいと」 それはつまり、この学園を追われることになってもかまわない、全てを失っても構わないという意味。私は祖父のその言葉に、力強く頷いた。 ルルーシュの意見を聞いてから動くとは言っても、おじい様はこれから、穏健派、あるいは主義者と呼ばれる者たちに、それとなく今の話を流すだろう。 それは波紋のごとく周りに広がり、多くの者が知ることとなる。 最初は中流階級。 そのうち上流階級にも広がる波紋。 それでなくてもブリタニアの植民地政策にも不審を抱き、徹底した民族主義に眉を寄せている者たちだ。噂を聞いた者たちは、いろいろ調べ始めるに違いない。 種は撒かれた。 この学園の生徒会室という小さな場所に。 その種は芽吹き、やがて大きな花を咲かせ、新たな種を落とす。 これが私からの1手。 |