見えない鎖 第11話


「おいルルーシュ、面白い事をやっているぞ?これはお前の指示なのか?」

潜伏先で、ベッドに寝転がりだらだらとテレビのリモコンをいじっていた私は、目にとまったその内容に眉を寄せた後、傍にある机でパソコンを操作していた共犯者にそう尋ねた。
その男は視線をテレビに向けた後、驚き、目を見開いた。
ああ、知らなかったのか。
まあそうだろうな。私は視線をテレビに戻し、その内容を追った。
ここ最近、ルルーシュは私と共に行動をしていた。
今は大きな作戦も無いことから、黒の騎士団にも連絡を入れず、この1週間私と共に枢木スザクの事を洗い出していたのだ。正確には、枢木スザクがどの段階でブリタニアに向かったのかを調べていた。そして、それがどれだけの規模なのか、全ての国で行われていたのか、ブリタニア人に対しても行われていたのか、その全てを調べていたのだが。理由は解らないが、黒の騎士団内にこのタイミングで同じ事を考えた者がいるということだ。
私はテレビに映し出されるそれらの情報に意識を集中させた。
それは、ブリタニアの上層部が行っている洗脳について、黒の騎士団がテレビをハッキングし、流した物だった。ルルーシュはすぐに視線をパソコンに戻すと、情報を集め始めた。テレビの内容は耳で拾い、視線はパソコンへ。同時に複数の思考を練れる男だから、両方を同時に理解することは容易いのだろう。
本当に便利な頭だよ。

「ほう、映像まで。この放送を作った奴は優秀だな」
「編集はたしかに上手い。人に見せる事を考え、どうすれば人の興味を引けるかを良く計算している。だが、その映像はどうやらネットから拾ったもののようだ」
「なんだ。一気に信憑性が落ちたな」

ネットの映像など信用するなんて、無能なのか?褒めた私が馬鹿みたいじゃないか。

「その映像が出た最初の場所を今調べているところだ。・・・だが、これは・・・?」

キーボードを打つ手を止め、ルルーシュは眉を寄せそう呟いた。

「どうした?」
「いや、最初に映像が置かれた場所は見つかった。誰が置いたかは、上手く痕跡を消しているから解らないが、ここに書かれている情報・・・この書き方には、覚えがある」
「ほう?誰だ?」
「ニーナだ」

その男の口から出た予想外の名前に、私は思わず口を開けて呆けてしまった。
ニーナと言ったか?あの生徒会室に居るあのニーナか?誰もいないだろうと、こいつの机で・・・いや、それは忘れる事にしたんだった。あの後ちゃんとあちこち清掃と除菌はしたし、ロックもかけるようにしたから、もう二度と見る事はない。
もちろん念のためナナリーの部屋もしっかりと清掃と除菌をした。
誰か来たからと、慌ててクローゼットに潜り込んだ後見てしまった光景を思い出し、私は眉を寄せた。

「だが、どうしてニーナが?・・・いや待て、あの件を知っているのはナナリーだけ。ナナリーが誰かに相談を?ならばミレイか。ミレイからニーナに話が流れたのか」
「ほう?それでそのニーナがこれを見つけ、流したと。だが、これが本当であれば、枢木スザクがお前を嫌った理由は、お前の素姓には関係なさそうだな」
「そうかもしれないな」
「一番、か。お前はあの男の一番の親友だった。日本という国で、普通であれば一番になるのは同じ日本人の可能性が高い。だから日本人が日本人を嫌悪するという図式が出来上がるわけだが、枢木スザクの場合、親友はブリタニア人だった。一番の友人がお前、ナナリーは二番目。だからナナリーは免れたわけか。だが、これだと枢木スザクが日本人を制圧できる理由にはならないんじゃないか?」
「スザクには師匠がいる。日本人で名を藤堂という。あいつが一番尊敬している人物でもあり、目標でもあった。それに、両親は既に亡くなっているが、従妹がいるからな」
「成程、日本人に対する感情はそちらで補ったか」
「だが困ったな。これではこちらの仕掛けは使えなくなった。別の手を考えるか。C.C.、V.V.の情報に間違いは無いんだな?」
「ああ、間違い無い。だからてっきり、枢木スザクがお前を嫌悪していたのは、V.V.の仕業だと思っていたよ」

弟シャルルを取られると思い、嫉妬故にマリアンヌを殺したV.V.。
だが、V.V.は今だ気づいていない。
本当はマリアンヌを心から愛している事を。
おそらく、初恋。
その感情が何か理解できず、弟を選んだ事を恨み、嫉妬していた。
愛しさ余って憎さ百倍という言葉が正に当てはまる。
そして、マリアンヌに似たルルーシュにも嫉妬し、恨んでいる。
二人の子だから憎む、というのであれば、ナナリーもその対象でなければいけないのだが、V.V.が執拗に恨んでいるのはあくまでもルルーシュ唯一人。それは彼女の血肉を分け与えられ、彼女の容姿を与えられた、男に向ける歪んだ嫉妬。

「今も可能性は0では無いだろう?ならば、俺の最大の弱点であるナナリーに手を出す可能性は十分ある。俺は一度クラブハウスに戻り、状況を確認する」
「では、私は騎士団を見てくるか?例のあの箱も用意出来ている頃だしな」
「ああ、まかせる」

その翌日、私たちは別行動を取った。
あの時はそれが最善手だと、そう思っていたのだ。

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