見えない鎖 第12話


目の前に居るのは、幼い少年。
金髪の床にまで届く長い髪、年齢に不相応な不敵な笑み、その瞳に宿るのは狂気。
一目で悟った。この少年がV.V.だと。
コードを宿した不老不死者。
皇帝の、兄。
母、マリアンヌを殺害した犯人。
ナナリーの足を打ち抜いた犯人。
俺の、敵。

C.C.の言う通り、全身で言っている。
俺が憎いと。
俺を恨むと。
俺に苦しませたいと。
俺を殺したいと。
その姿を見たいと、そう訴えている。
初めて会った叔父。
関わりなど、今まで持っていなかった。
それなのに、これだけの憎悪を向けられるのだ。
ただ、母の子だというだけで。
ただ、母に似ているというだけで。

V.V.が連れていた人物も、同じく憎悪をこめた目で見てきた。
暗く淀んだ狂気の瞳。
次機会があれば、必ず仕留めると、そういっていた。
そして、その機会が訪れた。
その口が笑みを浮かべているのは、それを実行できるからだろう。
俺を憎悪し
俺を嫌悪し
俺を殺す
そう全身で訴えていた。

それは、かつての友人、枢木スザク。
俺の初めての友達。

二人が共に居るという事は、やはりスザクの洗脳にV.V.が関わっていた証拠。
それほど、俺が憎いか。
歪んだ友を見て苦しむ俺を
友の手で甚振られる俺を見られるのはそれほど楽しい事か。
笑みを絶やさず居るV.V.を思わず睨みつけた。

その瞬間、V.V.は心底楽しげに笑い出した。
それを見たかったのだと言いたげに。
V.V.は楽しそうに命じた。

殺せ、と。

楽に死なせるな。
時間をかけて、ゆっくりと。
猫が鼠を甚振る様に。
藻掻き、苦しませろと。
死より辛い責め苦を与えろと。
笑いながらそう命じる。
時間はたっぷりある。
あと3時間は誰もこの建物には入ってこない。
狂気に歪むその瞳は、爛々と輝き
憎悪に歪むその顔は、醜悪だった

その命令に、かつての友は答える。
イエス・ユアハイネス。
お任せください。
そして楽しげに、口元に笑みを浮かべた。
あの、向日葵のような明るい笑みではない。
暗く淀んだ、悲しい笑み。
その目元を覆っているのはサングラス。
当然、俺のギアス対策のための物だ。

スザクにギアスは効かない。
V.V.にギアスは効かない。
スザクは殺せない。
V.V.は死なない。

打つ手なしだ。

既に逃げ道も塞がれた。
今ここに居るのはこの三人だけ。
クラブハウスの、俺の部屋。
C.C.と別行動などとるのでは無かった。
いや、俺の傍にC.C.が居ない事を確認してから来たのか。
どの道、過去の事など悔やんでも意味はない。

今はこのクラブハウスには誰もいない。
いや、居なくてよかった。
この現場を見た者は、おそらく全員殺されるから。

すまないC.C.、約束は守れなかった。
お前との契約は果たせない。
それが心残りだ。

すまないナナリー、お前を守れなかった。
お前に幸せな世界を与えたかった。
お前に優しい世界を与えたかった。
それだけが、俺の望み。
それだけが、生きる理由だった。
ミレイ、ナナリーを頼む。

一歩、スザクはゆっくりと前に出た。
口元に笑みを浮かべながら。
どう甚振ろうかと、考えながら。
そんな歪められた姿を見るのは辛い。

すまないスザク、お前を救えなかった。
すまないスザク、お前が歪んだ原因は俺だ。
俺が、お前を苦しめた。
お前が俺の友だったから。

だからせめて。

俺はゆっくりと懐に手を入れた。
スザクは一瞬警戒したが、相手はルルーシュ。
たとえ拳銃を向けてきても、避ける自信がある。
何も問題は無いと、判断し、一歩また前に出た。
懐から出されたのは、予想通りの拳銃。

「拳銃で僕は止められないよ」

口元に笑みを浮かべ、スザクはそう言った。

「止まるとは、思っていないさ」

俺は引き金に指をかけた。
スザクは警戒するよう足を止め
いつでも避けられるよう身構えた。

ありがとう、スザク
お前のおかげで、俺達兄妹は救われた。
俺達に、笑顔を取り戻してくれたから。
今でもお前は、俺の大切な友人だよ。

「ゲームオーバーだ。さようなら、スザク」

俺の血で、お前の手を汚させるわけにはいかない。
だから迷うことなく、その引き金を引いた。

11話
13話