見えない鎖 第14話 |
「後悔しないか?」 「愚門だな。後悔などする筈がない。それがお前の願いだというのであれば、俺が受け継ごう。お前の持つそのコードを」 あの日、全てを話した私に、あの男は迷うことなくそう言った。 コードを継承するための手続きは全て終わらせ、後は私が死に、あの男が死ぬことで全ての契約がなされる。 もういつでも好きな時に死ねるのだから、最後の生を楽しむついでに協力しろと、その男は笑いながら言ったのだが。 「何勝手に死んでいるんだこの馬鹿!私はまだ生きているぞ!!」 私は目の前に座る男に、そう怒鳴りつけた。 その男は不愉快そうに眉を寄せると、机をその拳で叩き付けた。 音が軽いのはご愛敬だ。 「うるさい!黙れ!不可抗力だ!!大体お前言ったよな、お前が死んで、その後俺が死ぬ。それでコードが受け継がれると!ならばこの状況は何なんだ!!」 そう。あの時、間違いなくルルーシュは死んだ。 自ら放った凶弾で頭を撃ち抜いて。 威力、発射角度、全て計算の上で放たれた凶弾。 それはルルーシュを即死させるのに十分な物だった。 だが、コードが発現し、ルルーシュは蘇生した。 目覚めたルルーシュは、泣き叫ぶスザクに全身の骨が軋むほどの力で抱きしめられており「殺す気かこの馬鹿!」と、思わずスザクの顔を張り飛ばしていた。・・・まあ、スザクの頬に跡が残っていない上に音もアレだったから、大した威力は無かったのだが。 なんにせよ、目の前で生き返ったルルーシュに、私たちは驚きながらも喜び、銃声が聞こえた気がするという生徒の言葉に、確認してくるとこのクラブハウスにやってきたミレイに血まみれのルルーシュとスザクを見られたりと、あの後はいろいろ大変だった。 ピザの10枚や20枚では割に合わない大変さだった。 「お前が死ぬ必要なんて、俺がお前を殺す必要なんて、無かったんじゃないか!!」 お前を殺す決心をするのに、俺がどれほど悩んだか!! 「私が知るはず無いだろう!私はシスターが自殺し、その後私自身が失血死した時の記憶しかないんだ!てっきり不老不死を押しつける条件だと思うだろう!ああ、悪かったな!数百年勘違いしていて!!」 それにお前、悩んでないだろ!即答してたじゃないか!! 数百年前、これで死ねると笑いながら自らの命を絶ったかつての不老不死者。 その死をこの目で見、彼女がつけた胸の傷による失血死を経て私は蘇生した。 蘇生したばかりの私の目の前には、幸せそうに微笑むシスターの遺体。 だから、コードを相手に移すには、コードを受け取った相手の死と、与えた物の死が必要だと、ずっと思っていたのだ。 だが、真相は違った。条件を満たした時点でようやく死ねると、私が生まれ変わるそのわずかな時間さえ待ちきれなかっただけなのだ。 「・・・まあいい。どちらにせよお前からコードは受け取る予定ではあったんだ。殺さずに受け取れたのだから、まあ、よしとしよう。問題はギアスだな」 コードを受け取った時点でルルーシュのギアスは消えたのだが。 「まさかコードを失うと、再びギアスが現れるなんて思わなかったよ」 今私の両目には暴走状態の愛されるギアスが発現していた。 幸いルルーシュと同じタイプのギアスなので、この時代にはありふれているサングラスで対処可能だ。今つけているのも、あの時スザクがつけていたサングラス。 カレンとスザクがルルーシュの死体に視線が釘付けになっていた時、外が煩くなっている事に気がついた私は窓際に隠れ、鏡を使い外を確認しようとした。そのお陰でこの両眼にギアスがあることに気づけたわけだ。 気づかなければ、カレンとスザク、そしてミレイにギアスを掛けるところだった。 後々ギアス響団に潜り込み、あそこで研究しているはずのコンタクトを奪い取れば問題は無いだろう。いや、こいつに作らせたほうが早いのか? 「まあ、これに関しては考えがあるから、後で協力しろ。それよりコードの話だ。お前はギアスを失った代わりに、精神干渉が使えるようになったはずだ。上手く使えばトラップも仕掛けられる優れ物だし、近くに居る人間を一瞬で昏倒させることも可能。やりようによっては相手の心の中に入り込む事も、反対に自分の心の中に取り込むこともできる。まあ、その辺はいろいろ試してみるといい。だが加減はしろよ?やりすぎれば廃人を作り出すことになるからな。それと例の遺跡を使っての移動も自由にできるし、Cの世界とも交信ができる。肉体的な事で言うなら、運動能力と耐久力も上がったはずだ。体力の回復も驚異的な速さとなっているから、お前の最大の弱点である貧弱さもカバーできるだろう」 運動神経と反射神経は良いのだ。 体力不足がカバーされれば、この男の弱点はほぼなくなる。 その上化け物じみた頭脳。 一人で永遠を生きるには十分だ。 「俺は断じて貧弱ではない!」 「わかったよ、そういう事にしておいてやる」 私はコーヒーを一口すすると、すでに冷めてしまったピザを口にした。 「って、君たち!もう少し僕らにも解るように話してくれないかな!不老不死って何!?コードとかギアスとか、意味分かんないんだけど!ルルーシュが生き返ったのはすっごく嬉しいけど、嫌な予感しかしないよ!!」 互いに睨み合っていた私たちは、ふと、声のするほうへ視線を向けると、そこには茫然とこちらの会話を聞いている者と、解りやすく話せと騒ぐ馬鹿一人。 ああ、そうだった。 ここはクラブハウスで、私たちは今回の件に関わっている者たちと一緒に居たのだったなと、興奮のあまり忘れていた事を私は思い出した。 興奮して周りが見えなくなる、か。 ああ、なんて人間らしいのだろう。 不老不死になったばかりのひよっ子もこの状態を思い出したらしく、しまったと言いたげに顔を歪め、落ち着くためにコーヒーカップを傾けていた。 クラブハウス内にあるそのテーブルには、私とルルーシュ、スザク、ナナリー、ミレイ、カレン、リヴァル、シャーリー、ニーナが座り、傍に咲世子が控えていた。 当然、ルルーシュとスザクは血を洗い流し着替え済み。 その間に私と咲世子で血痕は処分済みだ。 ふむ。 今回の件を簡単に、解りやすくか。 それは得意だ。 「詳しい話は省略すると、私との契約を果たし、ルルーシュは無事に不老不死になった。もう殺しても死ねない体だ。反対に私は死ねる普通の人間に戻れた。以上」 「省略しすぎだ!もっとちゃんと話してよ!」 「煩いぞ枢木スザク。お前にも分かりやすい説明だっただろうが」 喧々囂々と、スザクと言い争っていると、嘆息したルルーシュへ顔を向けたナナリーが口を開いた。 「お兄様、どういう事なのですか?」 不安げに眉を寄せ、そう口にした妹の姿に、このシスコンは素早く反応し、隣の席に座る妹の手を取った。 「ああ、ナナリー。何も心配しなくていいよ。お前は俺が守るから。これは俺が不老不死となっても、何も変わらない」 相変わらず甘ったるい声でそう言う兄の言葉に、妹はますます不安げな表情となった。 「本当に、お兄様は不老不死になったのですか?どうしてそんな!」 「・・・すまないナナリー。愛しているよ」 あくまでも妹にだけは嘘をつかないシスコン男は、質問には答えずそう口にした。 「それで誤魔化そうとしないのルルちゃん!」 「そうだよルルーシュ!ちゃんと説明して!!あーもー、洗脳のせいでそれでなくても訳が分からないのに、これ以上難しい話はしないでよ!簡単に、僕でもわかるように説明して!!」 「そうだぞルルーシュ、お前には俺たちに説明する義務がある!」 「そうよルル。私たちも大変だったんだからね!」 「ルルーシュ君、本当の事、教えてほしいな」 「そうよルルーシュ!男なら全部話して、今回の件の責任とりなさいよ!」 「いや待てカレン、お前一応病弱なんだろう」 「もういいわよそんな設定!めんどくさい!!」 これは長くなりそうだな。 私は後ろに控えていな咲世子に、ピザの追加を頼んだ。 |