見えない鎖 第15話


熱々のピザを頬張りながら、私はじっと共犯者を見た。
その共犯者は、私の視線を受けた後、面倒だと言いたげにため息を吐いた。

「スザク、お前はC.C.と会った日のことを覚えているか?」
「え?ああ、うん。なんとなくだけど、毒ガスって言われてたカプセルに入ってたよね?」

複数のギアスの影響で、スザクの記憶はかなり曖昧な状態だった。
特にギアスが発動している間、つまりルルーシュと接触している間の記憶は、空覚えな状態だった。

「そうだ。シンジュク事変の時、毒ガスとブリタニア軍が呼んでいた物の中身が彼女だ。それを目撃した俺をテロリストとして始末するつもりだった事は覚えているか?」

そのルルーシュの話に、周りはえ?と驚きの声を上げた。
当然だ。シンジュク事変において沢山の人々が死んだ原因は毒ガスだ。
だが、その毒ガスが、私。
それでは話が合わなくなる。

「それは覚えてる。あの場に来た親衛隊に僕は銃を渡され、君をテロリストとして射殺するよう命じられたからね」

その内容に、再び周りは息を呑んだ。

「そうだな。だが、突然テロリストのトラックが爆発し、俺とC.C.はその隙に逃げ出した。だが、地上に出たところで再び親衛隊に見つかった」
「ええ!?怪我は・・・してないよね。よかった。よく逃げられたね」

良かったと、安堵するその表情は優しく、完全にギアスの呪縛から開放されたことを物語っていた。

「俺はあの時、再びテロリストとして射殺されるところだった。だが、C.C.が俺の身代わりとなり、銃弾を受け、死んだ。そして再び、銃口が俺に向けられた。そう、本来なら俺はあの日シンジュクで死んでいた」
「だが、蘇生した私が契約を持ちかけた。生き延びたければ、私の願いを叶えろと。契約は成立し、ルルーシュは力を得た。王の力、それがギアス。その力で、ルルーシュは生き残った。私の願いは死ぬこと。この不老不死の力を誰かにに押し付け、永遠の終りを手にれること。そして、契約はなされた」
「C.C.は只の人間に戻り、俺は不老不死となった。それだけだ」

二人で話した内容に、皆困惑している中、もうこれ以上詳しく話すつもりはないという意思表示も兼ね、ピザを一口食べた。
だが、私はその時ピザを口にしていたことを後悔することとなる。

「うーん、つまりC.C.のお陰でルルーシュは死なずに済んで、今はもう不老不死なんだね?まあ、それは後で詳しくまた聞くとして、ルルーシュ。そのギアスって力があるからって危ないことをしたら駄目だろ」
「・・・何の話かわからないんだが」

わたしも、そのルルーシュの反論には同意だった。
死んだことで言うなら、こいつに非はないはずだ。多分。

「ゼロのことだよ。君がブリタニアを大っ嫌いだっていうのは知ってるけど、ゼロは駄目だよ、危険すぎる」

その言葉に驚いた私は、思わずピザを喉につまらせた。
激しく咳込む私を介抱したのは咲世子。
ルルーシュは完全に硬直しているし、カレンは驚きスザクを見つめて口を開いている。
ああ、カレンには今回V.V.捕獲の協力をしてもらうため、ルルーシュには悪いがゼロ=ルルーシュということとギアスに関してはバラしている。
他のものは、え?え?何の話?ゼロが?という感じで、硬直するルルーシュと、説教を続けるスザクを見つめていた。 ごくごくと、水を飲み、一息ついてから、硬直するルルーシュを無視して、私はスザクに尋ねた。

「・・・ルルーシュが、ゼロだと?」
「ルルーシュがゼロだよ。ってか、ルルーシュ以外あり得ないじゃないか。考え方もルルーシュそのままだし、あんな危険を犯して僕を助けに来る人なんて、六家にだっていないよ。ルルーシュ一人なら、どうすべきか迷うかもしれない。だけど、ナナリーが一言、どうにかなりませんかって言ったら、迷わず動くからね」

なるほど、ルルーシュの性格をよく知っている。
一緒にいた時間は短かかったはずなのにな。
ナナリーは、自分の発言を思い出したのだろう、あ、と声を上げていた。
やっぱりね、と言いたげな視線をスザクはルルーシュに向け、ルルーシュは視線を逸らした。

「でもそうなると、クロヴィス殿下を殺したのはルルちゃん・・・よね」

そのミレイの言葉に、ルルーシュは答えず、替わりに口を開いたのはスザクだった。

「それは仕方がないことだと思う。ルルーシュを殺そうと動いてたのは殿下の親衛隊だし、人体実験の被験体である彼女のことを隠蔽し、すべての罪をテロリスト・・・あの場所にいたルルーシュに、罪を押し付けるためだけに、シンジュクゲットーに住んでいた日本人を皆殺しにするよう命令を出していたんだ。毒ガスなんて最初から無かったんだよ。あれは全部、僕達名誉を含めたブリタニアの軍人が行った虐殺だ。報道された内容は、全部嘘なんだよ。その中心にルルーシュはいた。・・・どんなに危険でも、そんな虐殺、ルルーシュは止にいくに決まってる。たとえ皇族殺しの罪を背負ってでも」

シンジュクゲットーの大量死は、テロリストが散布した毒ガスによるもの。
それさえも、嘘。
ブリタニアに忠誠を誓う名誉ブリタニア人の兵士たち。
それも、嘘。

「・・・ある人に昔聞いたんだけど、クロヴィス殿下は虫でさえ、可愛そうだと言って殺せないほど優しい人だったそうだよ。その殿下が平然と虐殺命令を出したということは、皇族である殿下でさえ、洗脳を受けていた可能性が高いということじゃないのかな。洗脳が解けて、自分が命じた虐殺を知れば、殿下は苦しんだと思う」

その可能性には、私もルルーシュも行き着いていた。
だから、ルルーシュは今まで以上にブリタニアを憎んでいる。
いや、洗脳を、ギアスを使い記憶を書き換えた皇帝を恨んでいる。
この手で殺した兄のためにも必ず倒すと、再び心に誓うほど。
だから、たとえゼロだと周りに知られても、ナナリーに止められても、もう止まらない。
不老不死となった以上、同じ時を生きられない愛する者のためにも皇帝という歪みを正すだろう。
不老不死から開放されたが、私だけはお前のそばにいるよ。
この生命とこのギアス、上手く使うといい。
私のその視線に気がついたルルーシュは、済まないと言いたげに目を伏せた。
暗く、重くなった空気の中、スザクは再び口を開いた。

「僕はこんな方法で世界を支配し、侵略戦争を続ける皇帝を許せない」

だから。
その緑の目は静かにルルーシュを見つめていた。

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