歪んだ人形 第3話


クラブハウスにあるルルーシュの部屋をノックすると、中から返事が返ってきた。
スザクだと返事をすると、ロックが解除され、扉が開かれた。

「久しぶりだな、スザク。どうしたんだ?もしかして復学するのか?」

学生服を来ている事で察したのだろう。
そう言いながら、あの時と変わらない穏やかで優しい笑顔を向けてきた。
その事に、内心ほっと息を吐く。

「久しぶりだねルルーシュ。明日から復学するから、今日はその手続きに来たんだ。学園に来たら、君に会いたくなて押しかけてきちゃった。ごめんね、迷惑だったかな?」
「まったくお前は。迷惑なはず無いだろう。ほら、入れよ」

にこやかな笑みを浮かべながら、ルルーシュはスザクを部屋野中へ招き入れた。
その部屋はあの頃と何も変わらない彼の私室。
強いて言うなら、この部屋にも監視カメラが設置されていることぐらいだ。
促されるままソファーに座ると、ルルーシュはベッドに腰掛けた。

「やはりラウンズは大変なんだな。随分と疲れた顔をしている」
「えそうかな?でも、しばらくの間エリア11に居ることになったから少しは休めそうだよ」
「ああ、それで復学できるようになったのか。だが、無理はするなよ?お前の仕事はあくまでもナイトオブラウンズ。皇帝の騎士だ。学業よりも体調を回復させる事を優先させたほうがいい」

そう話す彼は、やはり以前と変わらない彼で。
その事にスザクはほっとした。
記憶を書き換えられても、彼は彼のままだ。
本質は何も変わっていない。
だがその考えを、スザクはすぐに改めることとなった。



翌日から学園に復学したスザクは、自分の目を、耳を疑った。
彼らの話通り、学生生活を送るルルーシュはまるで別人のように見えた。
ロロへの態度、そしてスザクへの態度は、あの頃と変わらない。
それは、ジュリアスの時にもその部分に大きな変更をされなかったため、元のルルーシュが残っていただけにすぎなかったのだ。
だから、ロロとスザク以外に対しては、本当にルルーシュなのかと疑うような言動を、彼はしていた。
例えば昨日、移動教室のため廊下を歩いていると、スザクとルルーシュの傍で、生徒が転んでしまい、手に持っていた荷物をばら撒いてしまった。
かつてのルルーシュなら、さり気なく手助けをし、落ちた荷物を拾っただろう。
だが、今は違う。その姿を見て嘲笑い、相手を馬鹿にする。
荷物を拾うどころか、ああ見えなかった。と、わざとそれを踏みつける。
それに対して文句を言えば、何倍もの言葉の刃を相手に浴びせる。
それを茫然と見ていたスザクには穏やかな笑顔で、いくぞ、早く来いよ。と言うのだから、余計にきつい物があった。
当然スザクは手を貸し荷物も拾い、ルルーシュの態度を謝るが、それさえ不愉快だと、ルルーシュは更に言葉の刃を浴びせかける。
もちろん、スザクに対してではない。
スザクがそれに対して怒り、謝るよう促すと、スザクが言うから仕方がないと渋々ながら謝ったが、どうやらその後、謝るなんて不愉快な行動をさせた報いと称し、転んだ生徒に何かを仕掛けたらしい。
そのため、その生徒は今日登校してこなかった。
ルルーシュが何かをしたということはあっという間に教師・生徒に知れ渡り、皆一様に冷たい視線をルルーシュに向けていた。
これが、今の彼を取り巻く日常なのだ。



ルルーシュは、いつもさり気なく誰かを助ける。
あまりにもさり気ないので、気づかれない事の方が多いのだ。
だが、時間と共にそんな彼の優しさに気づく者も増え、その上あれだけ頭がよく美形だというのに、その事を鼻にかける事も無く、面倒見のいい性格も相まって、生徒から人気があったのだ。
そのため行きすぎたシスコン・・・いまはブラコンだが、それさえも理想の兄弟と見られ、口の悪ささえも彼の魅力と捉えられていた。
そんな彼のさり気ない優しさが消え、替わりに意地が悪く、高飛車で冷酷、常に人を見下し嘲笑うという、それまで彼に無かったものが加えられていた。
確かに彼は元々皇族だ。
皇帝が書き換えた記憶の基本となっているのが、皇宮に残っている他の義兄姉だとしたら?それならば、このような態度もあり得るのかもしれない。
実際にラウンズとなってから皇族と関わる事が多くなったが、彼らは常に強者としてそこに立ち、皇帝の騎士にさえ不遜な態度を取り、時には馬鹿にするような言動をする。
ルルーシュとナナリー、そしてユーフェミアという心根の優しい兄妹を見てきたスザクには、彼らの態度は衝撃だった。

ルルーシュ達は皇族の中でも異質な存在だったのだと、今では理解している。
その異質さを理解せず、書き換えたのだとしたら?

ゼロは許せない。
ゼロのやっていた事は、間違いだ。
正しい方法で無ければ意味はない。
でも、これは正しい事なのか?
スザクとロロの事が無ければ、ルルーシュは完全に別人だ。
皇帝は、その記憶を変えることで、ルルーシュの心を、殺したのだ。
完全にルルーシュが死んでいるなら、もう別人なのだと諦めもついたかもしれない。
だが、僅かに残っている本来のルルーシュも確かにそこにあり、別人の彼との落差を目にする度に、スザクの心は冷えていった。

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