歪んだ人形 第5話


「・・・枢木卿、兄さんは・・・ルルーシュは、その・・・」

本来であれば授業を受けている時間。
ロロは、複雑な表情でスザクの前に立っていた。
豹変と言ってもいいルルーシュの変化。
それを目の当たりにしたせいで、いつになく動揺しているようだ。

「・・・ルルーシュは・・・彼は、毒舌家ではあるけれど優しい人なんだよ。だから今の、人を傷つけて笑うようなルルーシュは、完全に別人と言っていい。凄いねギアスは。本人は記憶を弄られた事すら気づいていないんだから」

機密情報局の地下施設で、スザクは先ほどの映像を確認しながらそう言った。
ギアスを知らない者にはこの映像を見せる訳にはいかないため、ヴィレッタ、ロロ、スザク以外は今この部屋から出されていた。
この記録も残しておく訳にはいかない。

「知ってると思うけど、生徒会のメンバーも全員記憶を弄られている。でも、そんなことに誰も気づいていない。もしかしたら僕も何か書き換えられているのかもしれないね。ここに居る機情の構成員も、ロロも、ヴィレッタも、全員」

データを削除し終えた僕は、二人に振り返りながらそういった。

「そんな事は無いだろう?私たちは陛下の直属の」
「だからこそ、可能性があるんじゃないのかな?皇帝のギアスはルルーシュと違い何度も上書き出来るから、何かある度に書き換えられていてもおかしくはないし、もしかしたらルルーシュのように完全に別人にされているかもしれない。・・・そして行政特区の真相も・・・陛下のギアスかもしれない」

シャーリーとリヴァルの言葉で行き着いた可能性。
あんなことが出来るのは、ルルーシュだけではないという事実。

「だが、あれはルルーシュのギアスだと聞いているが」
「真実は解らないよ。陛下のギアスでも可能なんだって、今のルルーシュを見ていればわかる。完全に別人だよ」
「枢木卿、何が言いたいんですか?これ以上陛下に対してあらぬ疑いをかけるなら、僕は陛下に報告しますよ」
「・・・ねえロロ。君も考えてみたらどうだ?君は両親が居ない孤児だったね。でも、それって本当なのかな?」
「・・・え?」
「君の髪の色、そしてその髪質。本当にナナリーそっくりだね。ルルーシュの話ではナナリーは薄い紫色の瞳だと言う。その点も同じだ」
「・・・そうみたいですね。だから僕が選ばれた」
「凄い偶然だよね?皇帝直属の部下で、しかもギアス持ち。そんな君がナナリーとよく似た容姿なんだから。・・・本当に、双子でもおかしくないほど、そっくりだ」
「・・・枢木卿、まさか・・・いや、さすがにそれは無いだろう?考えすぎだ」

ヴィレッタはスザクが何を言いたいのか気付いたが、あり得ないと否定した。

「どうして?実子であるルルーシュにこれだけの事をしているんですから、あり得るんじゃないかな?実はロロはナナリーの双子の兄あるいは弟だって言う可能性がね」
「え!?」

予想外のその言葉に、ロロは驚き目を見開いた。

「双子は悪とされる事がある。もしかしたらブリタニアの皇室はその考えがあるのかもしれない。だから、周りの人間の記憶を改竄し、双子の片割れを最初から居なかった事にし、ギアス響団に入れた。ルルーシュは男だから、女のナナリーが残された可能性はあると思うよ?ルル、ナナ、ロロ。名前に同じ文字を連続して使うのも共通してる」
「そ、そんな、何ですかその出来の悪い三文小説みたいな話は。あり得ませんよ僕が皇族だなんて」
「年も同じだよね。あのナナリーを溺愛しているルルーシュが、いくら似ているからと身内でも無い君に疑いを抱く事無く、今までいられたのかな。もしかしたら、何処かで実の弟だと感じていたんじゃないかな」
「枢木卿!!」

ロロは、いい加減にしろと言いたげに立ち上がり、怒鳴りつけた。
その両目は水の膜に覆われており、今にも泣きそうに見えた。
ありもしない夢を見せるなと、全身で訴えるその様子に、スザクは口をつぐんだ。

「もし、気になるのであれば血液検査をすればいいんじゃないか?皇族の血液は特殊らしくてな、輸血でさえ普通の血は使えないと聞いている。だから万が一のため、ルルーシュには献血で貢献すれば単位を一つやるからと言いくるめ、その血液を定期的に抜いて保存しているじゃないか」

それは初めて聞く話で、スザクは驚いてヴィレッタを見た。

「そうなんですか?」
「ああ。なんだ知らなかったのか?」
「ええ。それじゃあ、ルルーシュの血を預けている病院で検査をしてもらえば、ロロが皇族か解るってことですよね」
「そうなるな。ロロ、連絡をしておくから、今から行ってきたらどうだ?」
「え?いえ、そんな、あり得ませんから。僕があの人の・・・本当の、弟だなんて」

泣きそうな表情で俯くロロに、ヴィレッタは眉根を寄せた。

「それならいいが・・・」
「やけに協力的だね。何か思うところがあるの?」

妙にロロを気遣うヴィレッタに、スザクは不思議そうに声をかけた。

「あ、いや。大したことではないんだ・・・多分」
「多分?」
「枢木卿が今言った、もしかしたら私たちも何か忘れているかもしれないという言葉に引っかかるものがあってな」
「どんな?」

スザクはすっと目を細め、真剣な表情でヴィレッタを見た。

「いや、前から私には兄弟が居たような気がしていたんだ。ロロを見ていると、余計そんな気がしてな。妹か弟か、居た気がするんだ。その子たちのためにも、地位を手に入れてお金を・・・ああ、いや、あり得ない話なんだ。私は一人っ子だからな」

ヴィレッタは忘れてくれと呟いた。
だが、その内容にスザクは眉根を寄せた。

「・・・僕が一兵卒だった頃、純血派の人間の話題はよく登っていた。なにせ僕たちを虫けらのように見下し、捨て駒にするので注意した方がいいという理由でね。軍人でも珍しい女性で、しかも純血派。だから貴方の事は余計話題に上っていた」
「・・・そうだったのか」

どんな話のネタにされていたんだと、嫌そうな顔でヴィレッタは呟いた。

「名誉ブリタニア人となり軍に入ったとしても、ブリタニア人を嫌うものは多かった。だから当然純血派はその対象にもなっていた。・・・貴女以外は」
「・・・私以外?どういう事だ」
「ヴィレッタが、階級意識が高く爵位を求めるのは、貧しい環境で育ち、姉と言う立場から幼い弟と妹を養っていて、少しでも彼らが楽に暮らせるようにしたいからだと聞きました。若いのに女手一つで兄弟を守る人を、嫌う理由はありません」

それは今ヴィレッタが口にした事を肯定するような内容だった。

「・・・なっ!枢木卿、作り話をするならもう少し」
「作り話ではないし、疑うのであれば当時僕のいた部隊の名誉ブリタニア人に聞いてみればいい。だけど、これで解った。ヴィレッタ、貴女もまた身内に関する記憶を消されているんだ」

スザクは眉間の皺をますます深くし、そう断言した。

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