歪んだ人形 第6話


ロロの血液検査の結果。
それはスザクの予想通りの物だった。

「DNA鑑定は時間がかかるから、まだルルーシュの兄弟かは解っていないけど、これだけ皇族の特徴がある血液なら、直系の可能性が高いそうだよ」

降嫁し、何代にもわたり皇族の血が薄れた物ではなく、とても強い特徴を示しているという事。それこそルルーシュに匹敵するほど。
その言葉に、ロロは嬉しいような、憎々しいような複雑な表情を浮かべていた。

「これでまた可能性は上がった。君がナナリーと双子の可能性が」
「だが、それなら母親であるマリアンヌ様や、それこそルルーシュがおかしいと騒ぐんじゃないか?双子のはずだったのにと」
「そこで記憶の書き換えだろ?最初から一人だったと、医者も含め書き換えてしまえば問題ない」
「ああ、そうか」

記憶を書き換えれば、どんな事も可能で、どんな過去も無かった事にできるのだ。
卑怯な手だと思う。
どんな悪事も全て消し去り、あるいは人に押し付けられるのだから。
あれだけ堂々と弱肉強食を謳い、人を見下したところがある皇帝だと言うのに、信奉者が多く、周りにいる者たちは正に忠臣。その命を皇帝に捧げた人物ばかりだ。
もしかしたら彼らもまた、そう作りかえられているのかもしれない。

「もしそうだとしたら、僕は本当は・・・本当に兄さんの弟かもしれないのに、響団の実験体にされていたってこと?」
「そういう事だね。さて、問題はここからだ。どうにかして記憶を戻す方法は無いかな」

そのスザクの言葉に、二人は驚きスザクを見た。

「兄さんの記憶を戻すつもり!?」
「枢木卿、あくまでも私たちはルルーシュを囮に、C.C.を捕獲するためにこうしてここに居るんだから、それは拙いだろう」

今こうして、こんな話をしている事だって、皇帝に知られてしまえば反逆罪に問われかねない。それだけ危険な橋を渡っているのだ。
この機密情報局のトップであるスザクとヴィレッタ、そしてロロだからこそ、この盗聴器も監視カメラも無い場所から彼らを一時追い出す事は出来るが、既に2度目なのだから怪しまれかねない状態なのだ。それこそ強制送還され、今までの記憶を操作された上で皇帝の人形にされかねない。

「ん~、ルルーシュのもだけど、ヴィレッタの記憶も戻したいと思う。もしかしたら、本当に機情のメンバーも書き換えられているかもしれないし、僕も書き換えられている可能性はある。いや、ここの話だけじゃないね。皇帝の関係者全員、記憶を作り替えられているかもしれないよ。どうせなら、全部解除したくない?」

全員が正常になったら、陛下の周りは大混乱。暴動も起きるかもね。
完全に開き直ったのか、軽く話すその内容に、ヴィレッタとロロは思わず頭を抱えた。

「ルルーシュの記憶が戻れば、ロロの事も解るかもしれないしね」

ロロはハッとし、勢いよく顔を上げた。
愛する家族が居るのであれば、どうしても思い出したいと願っているヴィレッタ。
愛情を注いでくれる存在が、本当の兄かもしれないと希望を抱いているロロ。
確かに二人は皇帝に忠誠を誓っているが、その思いも本当に自分の意思かはもう分からない。何より、奪われたものがあるのなら、取り戻したい。
二人は真剣な表情でスザクを見つめ、スザクはそれを同意と捉え、口を開いた。

「響団でそういう研究はされてないのかな?」
「・・・実は、ヴィレッタの前の上司であるジェレミア卿の事なんですが」
「ああ、ナリタで戦死されたジェレミア卿か」

懐かしいなと、ヴィレッタは頷いた。

「ジェレミア卿は生きています。響団で研究素材として」
「なっ!?」

その言葉に、ヴィレッタとスザクは目を見開き驚きの声を上げた。

「響団で、試験管のような大きな装置に入っている姿を僕は見ています。なんでも、ジェレミア卿に、C.C.の遺伝子を組み込んでみたという話でした。研究名はコードR。クロヴィス殿下が進めていた、不老不死解明の研究を引き継いだものだとか」

死んだとされた上司の生存。
それはつまり、今まで戦死とされた者たちもまた、ブリタニアの実験材料として選ばれ、死んだ事にされた可能性がある、ということだった。
確かにあの頃のジェレミアは扱いに困っただろう。
名誉を挽回するために命令違反も犯し暴走していた。
だが、そのおかげでコーネリアを救う事が出来たのもまた事実なのだが。
だが、それでも不要という烙印を押され、実験の道具とされたのだろうか。

「人工的に埋め込まれた因子の影響で、ジェレミア卿には普通とは違うギアスが現れました。それをV.V.はキャンセラーと呼んでいました。もしかしたらギアスを無効化するのかもしれない」
「V.V.!?待って、V.V.もギアス響団の関係者なのか!?」

予想もしなかった名前が出た事でスザクは動揺した。
その名前は、あの日会ったあの奇妙な少年の名前だから。

「枢木卿、V.V.を知っているんですか?関係者と言うか、響団のトップである響主ですよ?僕のギアスもV.V.が引き出した物です」
「V.V.がギアスを?V.V.はブラックリベリオンで僕にギアスの事と、ルルーシュがユフィを操ったんだと教えてくれて・・・ちょっと待って、僕、いいように操られてないか!?」

つまりV.V.は、ルルーシュのような人物を生み出す根源。
その上、非人道的な人体実験までしている。
そんな人物の言葉を鵜呑みにし、信じたなんて。

「V.V.は、絶対に嘘はつかないと口にしますけど、僕から見ればV.V.の言葉は嘘だらけですよ。自分に都合の悪い事はすぐにもみ消すから気づかれないだけで・・・」

何度も嘘を吐かれたことがあるのか、眉を寄せ、嫌な過去を思い出すかのような遠い目をしていた。
嘘だらけの人物。
やはりあの話も嘘の可能性があるということだ。

「となると、枢木卿が以前話していた、ユーフェミア様がルルーシュに操られたのではないという仮説は・・・」
「可能性が高くなったんじゃないかな?不用になればジェレミア卿のように実験材料にされ、あるいはルルーシュのように、記憶を書き換え意にままに操り、ユフィのように暴動を起こさせ捨て駒にする。僕たちもいつそんな扱いをされるか解らないという事か」

あくまでも、可能性の話だけど。
スザクはそう付け加えた後、椅子に深く腰掛け、天井を仰いだ。



翌日、教室にルルーシュの姿が無かったため、スザクは休み時間に教室を抜け出すと、クラブハウスへ向かった。
チャイムを鳴らすと、出てきたのはルルーシュで、その顔は心配と不安で押しつぶされそうな、そんな疲れた切った姿だった。
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