歪んだ人形 第7話 |
「どうしたの、ルルーシュ。何かあったの?」 冷静さを欠いたルルーシュの様子に、スザクは眉を寄せ尋ねると、青白い顔でオロオロとしながら「入ってくれ」と促され、案内されるままリビングに足を向けた。 そこにあるソファーには、まるで猫のように体を丸め、右目を抑えて蹲っているロロの姿があった。 右目が痛むのか、苦悶の表情を顔に浮かべ、額には汗が浮かんでいた。 「う・・・ううっ、すざく、さん。痛っ・・・!」」 「ロロ!?どうしたんだい、目が痛むの!?」 スザクは駆け寄る様にロロの傍へ行き、膝をついて視線をロロに合わせたが、その両目はきつく閉じられていて、二人の視線が合う事は無かった。 「ロロは生まれた時から右目の調子が悪いんだ。今朝起きた時から痛いと言っていて、でもロロの目は生まれつきの特殊な病だから、普通の病院に連れていくわけにいかなくて。本国の病院に行くため今飛行機の手配をしていた所なんだ」 同じように膝をつき、苦しそうなロロの髪を優しく梳きながら、ルルーシュは心配だと、代われるなら代わりたいと口にしていた。 自分の命よりも大事な弟の苦しむ姿に、普段は冷静な光を宿すルルーシュの瞳は不安と恐怖に揺れ、眦には今にも零れそうなほど涙が貯まっていた。 その姿は彼らしくなく、パニックを起こす寸前のようにも見える。 「今から飛行機なんてキャンセル待ちになるんじゃないの?いつ本国に行けるか解らないじゃないか。それなら、僕が連れていくよ」 スザクは少しでもルルーシュが安心するよう、その震える肩に手を置き、ゆっくりと穏やかな口調で言った。 「え?スザクが!?」 驚きの声を上げるルルーシュに、スザクは真剣な顔で頷いた。 「僕、今日は2時間目まで授業に出た後、本国に一度戻る予定だったんだ。僕は専用機で移動するから、パスポートの用意さえしてくれれば問題は無いよ」 落ち着かせるよう、その背中をあやすように優しく撫でる。 「だが、軍用機に民間人が乗るなど」 「それはどうにかするよ。こんな時こそ、ラウンズの地位を利用しないとね?とはいっても、連れていけるのは一人だけだから、ルルーシュは連れていけないけど」 定員オーバーになるから、ごめんね。 そういうと、ルルーシュは勢い良く頭を振った。 その勢いで、眦に溜まっていた水滴が頬を流れた。 「俺はいい、向こうには主治医が居るから大丈夫だ。すまないがスザク、ロロを頼む」 縋るような眼差しを向け、スザクの両腕を痛いほどの力を込めて掴んでくるルルーシュに、スザクは安心させるよう笑顔で頷く。 「うん、任せて。それより君、おじさんとおばさんに連絡はしたの?」 「・・・いや、まだだ」 一瞬考えたら後、ルルーシュはそう答えた。 当然だ。 ルルーシュの偽の両親はそもそも存在しない。 親に頼るという思考自体彼にはないのだが、万一のことを考え、ルルーシュから連絡を取らないよう、取れないよう記憶を弄っていた。 連絡しなければと思ってはいても、彼から連絡を取る事はない。 そのことに疑問を抱く前に、スザクは「わかった」と頷いた。 「じゃあ、僕からおばさんに連絡するよ。向こうに何時に着くかとか、どこに迎えに来てほしいとか、話さなきゃいけない事は多いからね」 幼なじみという設定は、こういう時には強い。 昔からの親友であるスザクが、二人の両親の連絡先を知っていても、ルルーシュは疑問に感じないだろう。 スザクはルルーシュを安心させるようににっこりと微笑んだ後、車をこちらに回すから荷物を用意してと伝えてから、クラブハウスを後にした。 ここまでは予定通り。 さすがブラコンのルルーシュだ。 他の人が同じように痛がったら、本当に痛いのか疑うだろうに、ロロの事は一切疑わず、本当に痛むのだと心底心配していた。 今にも泣き出しそうなその姿に、スザクの胸がチクリと痛むほどに。 そして、スザクの事も疑わなかった。 スザクが本国に戻る用事など、本来は無かった。 突然の出国となるため、皇帝直属の部下であり、特殊任務にあたっている人物を大至急見てもらうため、最速で本国に戻れるのは自分だけだと言い包めるつもりだ。 ラウンズ故の移動の早さを利用する。 ロロの右目はギアスの瞳。 右目に異常があると言う事は、ギアスの異常と言う事になる。 だから、ロロは本国に戻った後はギアス響団で検査を受けることになるはずだ。 そして、そこにはキャンセラーと呼ばれるギアスを手に入れたジェレミアが居るはず。 そこでどうにか、ジェレミアと接触する機会を手に入れるのがロロの役目。 こうやって裏から手をまわし、策を練るのは苦手だが、三人集まれば文殊の知恵という言葉がある様に、ロロとヴィレッタ、そしてスザクの三人で知恵を出し合った。 そして、一つの可能性を、見つけた。 この作戦の成否はロロにかかっている。 スザクは政庁に戻り身支度を済ませると、用意したシナリオ通り、皇帝直属の配下が体調不良のため、大至急本国へ送還する旨を空港で待機している部下に伝え、専用機の用意をするよう命令した後、本国への通信回線を開いた。 予想もしなかった人物を視界に収め、C.C.は目を細めた。 そこは、とあるホテルのラウンジ。 人が殆どいないその場所の、一番奥の壁際にC.C.は居た。 C.C.とカレンは今、このホテルに潜伏していて、その事を知るのは卜部だけ。 それをどういう手段かは知らないが突き止め、そのうえ私がC.C.だと言う事さえ知った上でこうして私の前に居るのだ。 いったい何があったのかは分からないが、何やら面白そうな事が起きているなと、口角をあげながら、C.C.は緊張した表情で自分の目の前に座る少女を見つめた。 「あなた、C.C.さんよね?黒の騎士団のゼロの・・・その、愛人、の」 「確かに私はC.C.だ。ただし、愛人ではなく、ゼロの共犯者、のな。それで、私に何のようだ?ミレイ・アッシュフォード」 |