歪んだ人形 第8話


ミレイの目の前に座るのは、不遜な態度の美少女。
新緑色の流れる髪と、不思議な輝きを宿した黄金の瞳をもつその人物は、面白い物を見つけた猫のような視線でミレイを見つめた。
あの情報が正しいのであれば、ルルーシュが変わってしまった理由を彼女なら知っている。
だからこそ、私は私の持てるすべての力で彼女を探し、見つけ出したのだ。
落ち着け、冷静になれと自分に言い聞かせながら、ミレイは口を開いた。

「私を御存じなのですか?」
「ああ、知っているとも。アッシュフォード学園生徒会長で、学園の名物とも言えるお祭り人間。ああ、かつての箱庭の番人と言うべきか」

本当にミレイをよく知っているのだと言うその言葉に、思わず背筋がぞくりとしたが、その中に聞き流せない言葉が混じっていた。

「かつての箱庭の番人?何の話?」
「記憶をいじられ、守るべきものを忘れ、本来であればアッシュフォードの宝を守るために作られた堅固な要塞であり、やさしさに溢れた箱庭を奪われ、利用されている哀れな元番人、それがお前とルーベンだよ」
「・・・何のことか、全く解らないんだけど」

謎かけ?いったいこの言葉に何の意味があるの?ミレイは老獪な魔女の言葉に惑わされないよう、必死に思考を巡らせていた。よほど険しい表情をしていたのか、C.C.は苦笑し、解りにくかったか?と言った。

「謎かけでも何でもないぞ?アッシュフォード学園は、元々ある人物を守るために建設された箱庭で、お前はその者たちを守り、楽しませるために祭りまで催していた。だが、その箱庭はブラックリベリオンの後奪われ、今は逆の目的で使われている。守るための箱庭が、強固な牢獄に。あいつにとっての人質に。なぜあの学園が全面バリアフリーかわかるか?いたるところに点字は貼られているか解るか?その人物の一人に重度の障害があったからだ」
「な、何よそれ?私そんな話知らないわよ!?」

確かにあの学園は、全面バリアフリーだった。
普通の学園では考えられないその設備。
だが、あの学園に障害のある者などいない。
どうしてわざわざバリアフリーに?いたるところに張られた点字はなんのため?そういう生徒が来てもいいように?違う、そんな理由では無かったはずだ。

「知らないと?違うなミレイ。お前は知っていた。だが、その記憶は今は無い。日本に来た理由すら、お前は忘れてしまったのだろう?」

日本に来た理由?理由?何か理由があると言うの?
つまり、私もまたルルーシュのように記憶を、心をいじられたと?
そう言いたいのだろうか、目の前の少女は。

「どうして貴女が、そこまで知っているの?」
「決まっている、私がC.C.だからだ」

にやりと口角を上げながら放たれた言葉に、ミレイはますます困惑した。

「私の記憶が作りかえられていると、そういう意味だと受け取っても?」
「さっきからそう言っているだろう?ついでに言うなら、生徒会メンバー全員だ。つまり、ブラックリベリオン以降学園にとどまった者全員だな。面白いだろう?記憶をいじられたものだけがあの学園に残っているんだ」

そのC.C.の言葉に、ミレイは言葉を詰まらせた。全員、記憶を?
シャーリーもリヴァルも記憶を?いったい何を私たちは奪われたの?

「そんなことよりも、何か私に用があるのだろう?それも急ぎのな。何があった?お前の知る情報を全て話せ」

先ほどまでのからかうような表情から一変、真剣なまなざしでC.C.はミレイを見据えた



ピピッという機械音の後、巨大なその装置が動きだし、円柱の穴からベッドがゆっくりと外へ移動してきた。
そのベッドに横になっていたのはロロ。
両目を閉じていたロロは、白衣を着た老齢な研究員に目を開けるよう促されると、その薄い紫の瞳をゆっくりと開いた。

「で、どんな感じ?右目イカレちゃった?」

楽しげな口調で話しているのはV.V.。
研究員の話では、その実年齢は60を超えているという人物を見つめながら、ロロはゆっくりとベッドから降りた。

「いえ、特に異常は見られません。ギアスも正常です。今のところ暴走の兆候は見られないため、ギアスの能力が上がるとき特有の痛みでは無いと思われます。可能性があるとすれば、疲労によりギアスの宿る右目と、それに関わる神経に負荷がかかり痛み始めたのかと。ですが今は落ち着き、痛みは無いようです」

仮病なのだから、当然の結果だなとロロは内心思いながらも、その報告を神妙な顔で聞いていた。
だが、V.V.は明らかにつまらないと言いたげな表情で、あ、そうなんだ。と口にして、すぐにここを立ち去った。

「とはいえ、ロロ。万が一暴走した場合は」
「解っています。僕の心臓が停止たままになるので、僕は死にます」
「解っているならいい。皇帝陛下直々の特殊任務だ。任務を遂行するまで暴走させないようにな」

それはつまり、任務が終わりさえすれば死んでも構わないという意味。
ロロは感情を乗せない顔で、解っていますと口にした。
ここではギアスの研究のためのモルモットにすぎない。
優しい声をかけてくれる大人など、存在しない。
そういえば、今ここに居る子供の中で最高年齢は自分だったなと、ロロは思い至った。
自分より年上だった同胞はどこに行ったのだろうか。
今のロロのように特殊任務についているのか、あるいは。
明日、枢木スザクが日本に戻る時一緒に戻るよう命じられたロロは、暗い表情でその部屋を後にした。

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