歪んだ人形 第9話 |
黄昏の間。 ラウンズの中ではスザクのみが立ち入りを許されたその場所に、皇帝とスザクは黒いマントを纏った者たちと共に居た。 「ルルーシュの記憶をとな?」 シャルルは眉根を寄せ、スザクにそう尋ねると、膝をつき、臣下の礼を取ったまま、スザクは顔を上げることなく、淡々とした声音で自らの意見を述べていた。 「はい。学園にてルルーシュと接触して解りました。今のルルーシュは別人です。ナナリーの記憶はロロに変えられ、自分に関する記憶はそのままだったため、自分とロロに関しては以前とさほど違いは感じられませんが、それ以外の者に対しては、本来ルルーシュであれば取るはずの無い行動を取っています」 スザクの言葉に、皇帝はしばしの間空を見上げた後、口を開いた。 「ふむ。報告通りに書き換えたのだが、何処かに手違いでもあったか」 報告通りに。 やはり元に戻したのではなく、消したものはそのままに、間違った情報を元に上書きしただけなのか。 「ルルーシュの性格は複雑です。非常に分かりにくいのですが、根底にあるのは優しさでした。だからこそ多くの者に慕われていたのです。ですが今のルルーシュには優しさはありません。そのため、今は多くの者に嫌われ、恨まれています。ですから、彼と親しかった友人の中には、ブラックリベリオンで別人と入れ替わったのではないかと、口にする者もいました」 「ほう」 そのスザクの報告に、皇帝は眉をピクリと動かした。 「今のままでは、もし黒の騎士団のカレンやC.C.がルルーシュを見つけても、ルルーシュの変装をした別人で、自分たちをおびき寄せようとしている、と考えるでしょう」 「それほどまでに違うと?」 「はい。自分とロロに対する本来の彼の態度が無ければ、自分もあのルルーシュは偽物だと判断したでしょう。これはジュリアス・キングスレイとする際に消され、その後書き直された記憶の影響だと思われます。もしルルーシュをこのまま餌とするのであれば、一度陛下のギアスを全て解き、その上でゼロ、そして家族や身分に関する記憶を書き換えるべきです」 「それは出来ん」 きっぱりとした口調で言われたその言葉に、スザクはハッとなり、顔を上げた。 「ロロのようなギアスならともかく、ルルーシュや儂の持つギアスは一度かかってしまえば解除など出来ん。必要であれば、ルルーシュの記憶を再び書き換えるまでよ」 今度はお前の情報も加え、より正確に作ればいい。 皇帝は、なんでもないことのように言った。 「つまり、ルルーシュは、17年間生きてきたルルーシュは、もう戻っては来ないという事ですか?つまり、死んだと」 「何を言う。死んでなどおらん。記憶を書き換えたからと言って、あやつが死んだわけではない」 悠然と笑いながら放たれた言葉に、スザクは何も解っていないんだとそう思った。 「お言葉ですが、先ほど自分が報告した通り、今のルルーシュは別人です。17年生きてきたルルーシュとは、全く別の人間なのです」 「性格が多少変わったところで、あ奴はあ奴よ」 「ルルーシュは無意味に誰かを傷つける事はありませんでした。ましてや暴力など。ゼロとして、テロリストとしてある時はともかく、本来のルルーシュであれば暴力を否定するのです。そのルルーシュが、いまは笑いながら、楽しそうに暴力をふるうのです。かつての友人を見下しながら、暴力を。多少ではありませんよ陛下。ルルーシュの本質も含め、完全に歪められています。今の彼はルルーシュではありません。陛下のギアスで生み出された別人です」 スザクのその言葉に、皇帝は眉根を寄せた。 「全くの別人、か。あ奴の体ではあるが、あ奴自身は死んだも同じと」 そこまで口にすると、皇帝はにやりと口元に笑みを浮かべた。 楽しげなその様子に、スザクは再び顔を下げた。見ていられない。<これ以上見ていれば、間違いなく殺意を抱いてしまう。 「どこもまでも軟弱な奴よ。ずっと死んでいるのと同じではあったが、とうとう精神まで死におったか」 楽しげなその言葉にスザクは思わず唇をかんだ。顔をあげて居なくてよかった。今あげれば、間違いなく睨みつけていただろう。 「・・・今のままでは餌になりません。解除する方法は・・・何か可能性はありませんか?せめて彼本来の感情だけでも戻す方法があれば」 「・・・ふむ、考えておこう。今のままでは餌として役に立たない事は、よくわかった。だが、それならば早くにC.C.を捉えられるよう、手を打つ事だな」 「C.C.をですか?彼女はギアスを解けるのですか?」 スザクは再び顔をあげ、皇帝の得意げに笑うその顔を見つめた。 「そういう意味ではない。なあ、マリアンヌよ」 マリアンヌ? 思わずスザクが眉を寄せたその時、かつりと後方に足音が聞こえた。 「ええ、C.C.が戻れば、全ての問題は解決されわ。ルルーシュの本来の意思とも再び対話できるようになるから大丈夫よ」 突然後ろから掛けられた女性の声に、スザクは顔をそちらに向けた。 そこに立っていたのは、ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイムだった。 |