歪んだ人形 第11話


以前目にした時とは違い、しっかりとした意思を宿した瞳で、ジェレミアはロロを見つめていた。ロロは周りの様子をうかがった後、口元に笑みを浮かべ、話しかけた。

「はじめまして。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの弟役をしているロロです」
「初めてお目にかかる。して、その弟役が私に何か用事でも?」

訝しげな表情を浮かべたジェレミアは、目を細めて尋ねた。

「貴方のギアスはキャンセラーと聞きました。それは、どのような物なのですか?」
「我がギアスは、全てのギアスを無効化するものだ」

その言葉を聞き、ロロはジェレミアの周辺にギアスを発動した。
次の瞬間、ジェレミアの顔左半分を覆っている仮面が反応し、隠されていた左目が現れた。それと同時にロロのギアスは無効化される。

「・・・何のつもりだ」
「どのようなものか知りたかっただけです。今、僕のギアスは確かに無効化されました。それは、例えばルルーシュの絶対遵守のギアスも無効化できるのですか?」
「可能だ。このギアス響団内に居るギアスユーザーすべての能力を無効化し、確認は済ませている」

その言葉に、ロロは笑みを深めた。
よかった。
そう言っているようにも思え、ジェレミアは眉を寄せた。

「ちなみに、今のこの会話を聞いている人はいますか?」
「盗聴器の類は確認できない。ギアスで隠れている者や、聞いている者もいない。居れば私のギアスキャンセラーが反応するからな。いったい何を私に聞きたいのだ?」
「・・・ジェレミア卿、お願いがあります」

ロロは真剣な表情で、ジェレミアにそう告げた。



「ほほう、それは予想以上だな。あの坊や、記憶が戻ったら間違いなく憤慨するぞ?俺をよくもいいように操ってくれたとな。人形のように思い通りに動く俺を見て楽しかったかとでも言うか?なんにせよ、よくもそこまで弄ってくれたものだな。まさかあいつが、暴力的になるなんて、想像もしてなかったぞ?」

場所を変えようと言うC.C.の言葉に従い向かった部屋は、いろいろと散らかっているいわば汚部屋ともいうべき場所で、ミレイは思わず顔をひきつらせた。ベッドの上で寝そべっていたカレンは、突然のミレイの来訪に驚き、さすがに恥ずかしくなったのか衣服を着替え、床やベッドの上に散らばるゴミを片付け始めた。
そんな姿を横目で見つつ、ミレイは現在のルルーシュに関する話をした。
そして、自分の知りうる情報のすべてをC.C.に伝え終えた。

「って、そこまでやられて、あいつ大丈夫なわけ?完全に別人じゃない!」

粗方片づけ・・・というか、ベッドの下に詰め込んだだけともいうが、ある程度目的を達したカレンは、ミレイの話に困惑と怒りをその顔に浮かべていた。 病弱だったはずのカレンしか見ていなかったミレイは、その少し乱暴でガサツな反応に一瞬驚いたが、以前彼女の部屋へ行ったときに、そう言えば場違いなダンベルがあったなと思いだした。つまりこれが素。本来のカレンなのだと納得した。

「完全に別人だな。スザクとロロに対してだけ、本来のルルーシュに戻ってはいるようだが・・・。それと、全っ然、大丈夫ではないぞ?歪められた記憶は、徐々に本来の記憶を蝕む。早く元に戻さなければ、あいつ自身の精神に異常をきたしかねない。まったく、愚かだよシャルル、どう考えてもやり過ぎだ」
「シャルルって、貴女、相手は皇帝なのよ!?」

あまりにも当たり前のように皇帝をファーストネームで呼ぶC.C.に、ミレイは慌ててそういうと、C.C.は何だそんなことかと、苦笑した。

「私は昔からあいつをそう呼んでいる。いまさら変えるつもりも、理由も無い。さて、どうするか。そこまで捻じ曲げられている以上、私でどこまでその封印を解けるか。中途半端に戻してしまえば、それこそルルーシュが壊れる」

そう、完全ではないが、ある程度ならC.C.のコードで呼び戻せるのだが。
本来のその心は、作り出された凶暴な心に打ち勝てるだろうか。
難しいなと、C.C.は嘆息した。
危険過ぎる賭けをするつもりはない。

「え?C.C.あなた、ルルーシュにかかってるギアス、解けるの?解けるならまず会長にかかってるギアスを解きなさいよ!」
「そう簡単な話ではない。あいつは私の共犯者で、ギアスの契約により私とあいつは繋がっている。それを利用し、ギアスの効かない私の力を流しこむことで、ある程度無効化できる。だが、そこまで歪められていると、確実にルルーシュを戻せる、とは言い切れない」

当然自分と繋がりの無いミレイのギアスなど解けない。
そう言いながら、C.C.はすでに冷めたピザをパクリと口にした。

「じゃあどうするの?このまま放っておくっていうの!?」

C.C.なら解決の糸口があるかもしれない。そう思っているカレンとミレイは、平然とした態度のままのC.C.の姿に思わずいら立ちを覚えていた。

「放っておくわけがないだろう?さて、どうしたものか。こういうときにルルーシュのあの無駄にいい頭脳が羨ましくなるな」

すっと目を細めながらC.C.は思案した。
そして、ふと気がついた。
それは今更な話ではあるが、とても重要な話だった。

「ミレイ。そう言えば、どうして私を探したんだ?黒の騎士団の私をだ。ルルーシュからどうして私に行き着いた?というか、お前、ルルーシュが黒の騎士団とどういう関係か解ってるのか?」

C.C.のその問に、ミレイは居住まいを正した。

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