歪んだ人形 第12話


黒の騎士団とルルーシュの関係。
テロリストと、学生。
彼の思考はゼロに近い。
つまり弱肉強食を嫌い、弱者を守ろうとする。
カレンでさえ黒の騎士団だったのだ。
ある時期から外出の増えた彼もまた。そうミレイは結論を出していた。

「ルルーシュは主義者だったわ。だからカレンと同じく黒の騎士団に所属していたんだと、私は思っている」
「・・・そうか。では、どうしてそこから私に?そもそも私の名をどうやって知った?」

そうC.C.が口にすると、ミレイはバッグから何やら紙を取り出し、C.C.に手渡した。
それは幾重にも折りたたまれた一枚の白い紙。そこには手書きでびっしりと文字が書かれていた。見慣れない文字。それにC.C.はさっと目を通した。

「これは、誰が?」

目は文章を追いながらC.C.はそう尋ねた。

「ヴィレッタ先生。仕事を頼む振りをして、私に握らせたの。その手紙によると、学園内には監視カメラや盗聴器があるみたいなのよね。リヴァルとシャーリー以外は敵だと思えって書いてあったの。貴女を探すのに、あの二人にも協力してもらったのよ」

もちろん話は学園の外、ファーストフード店の一番奥の席だから気づかれてないわ。


「ヴィレッタ?軍の人間がなぜこんな事を?」
「軍?先生は軍人なの!?」
「ヴィレッタ・ヌゥは軍人だ。元はクロヴィスの、その後コーネリアの部下となり、今は皇帝直属機密情報局に所属していて、今の任務はあの学園でルルーシュを見張る事。早い話、スザクの部下だな」

淡々と語られるその内容にミレイは目を見開いて驚き、カレンを見た。

「何度もKMFで戦ってるから間違いないわよ。純血派の軍人で、スザクがクロヴィス殺害容疑をかけられた時、護送していた軍人の中に彼女もいるから、過去の映像調べてみるといいかも」

頷きながら語るカレンの言葉に、ええ!?と思わずミレイは声を上げた。
確かに引き締まった体はしているが、それは体育の教師だからだと思っていた。
まさか軍人だなんて、しかもブリタニアの!?
もしかして嵌められたのかしら?今頃このホテルを軍が取り囲んでいる可能性もあるんじゃないかしら?ミレイはさっと顔色を悪くし、きょろきょろとあたりを伺った。
その時、全てを読み終えたC.C.はそのメモ用紙を折りたたみながら、無表情のままその用紙をミレイに返した。

「成程な。過程は解らないが、スザクとロロ、そしてヴィレッタはルルーシュの記憶を戻そうとしている。そしてルルーシュだけではなく、ヴィレッタの記憶も書き換えられている可能性が高いようだな。ロロがナナリーの双子の兄、あるいは弟の可能性ありか。残念なことに、ルルーシュがマリアンヌの腹に居た時には訪ねた事があるが、ナナリーの時は会いに行ってないからな。双子だったかどうか、私には解らない。だが、可能性はあると思うぞ。言われてみれば確かに、ロロはナナリーにそっくりだ。似すぎていると言っていい。あの子はな、V.V.が連れてきたんだ。拾ったと言ってな」
「V.V.って、誰?」
「シャルルの双子の兄だ。ブリタニアの皇室では双子は忌子されていてな。本来ならシャルルは生まれてすぐ命を奪われるか、教会に入れられるはずだったのだが、あれの母親がそれを拒んでな。二人とも母の手元で育てられた。かつて起きた血の紋章事件、あれも双子を育てたからだと当時騒がれたものだ。だから、その後生まれた双子は必ず弟、あるいは妹の命を奪った。・・・となるとロロは弟か。殺すぐらいならと、響団へ連れて行ったか。あり得る話だ」
「ってC.C.、なんでそんな事まで知ってるのよ!?それにあんた、皇帝の関係者なの!?」
「ルルーシュとナナリーの母、マリアンヌが殺害されるまで、私はブリタニアに居た。シャルルの研究機関であるギアス響団の響主としてな。その後日本に送られたルルーシュとナナリーを追って、この日本に来た。・・・だから見ていたんだよ全てを。ルルーシュが生まれる前からずっとな」

そう口元に笑みを浮かべるのは、自分より若く見える少女。
ルルーシュが生まれる前と言うなら、こんなに若いはずはない。

「・・・貴女・・・何者なの?」

ミレイは真剣な表情で、じっとC.C.を見据えた。

「私はC.C.。自分が何者かも忘れてしまった、愚かな魔女さ」




「ロロ、そんなに引っ張るなよ」
「もう、そう思うなら急いでよ兄さん。皆待ってるよ?」

苦笑を浮かべるルルーシュの手を、笑顔のロロが引っ張っていた。
目指すは図書室
ロロが昨日戻ってきたため、この前ロロに失礼なことを言ったお詫びと、目に何も異常がなく無事に戻ってきた事を祝いたいと、ミレイが言ってきたのだ。
ルルーシュとしてはめんどくさいし、別に他人に祝って欲しいなど微塵も思わないのだが、ロロがこれだけ喜んでいるのなら少しは付き合うかと、ロロの手に引かれるまま歩いていた。
だが、図書室で祝いだと?
図書室とは本来静かに本を読み、あるいは勉強をするための場。
あの馬鹿どもはそんなことも解らないのか。
思わず目を細めてしまい、慌ててルルーシュは頭を振った。
駄目だ。
今はそんなことより、ロロの回復を喜ばなければ。
ロロに連れられた先は図書室の奥、本棚に囲まれた行き止まり。

「ロロ?」
「兄さん、すぐだからね」

なんでこんな場所にと言いたげな兄の視線を受け、ロロはいたずらっ子の笑みをむけた。そして、ギミックを動かすと、書棚が音もたてず動き出した。
ポッカリと口を開いたその場所にあったのは、エレベーターだった。

「なん・・だ、これは」
「すぐ解るよ。ほら、いそいで。誰かに見られちゃうよ」

ロロに手をひかれながら、ルルーシュはそのエレベーターに乗った。
慣れた動作でエレベーターを操作しにっこり微笑むロロに、思わず強張った笑みを向けてしまう。
こんな場所、俺は知らない。
この下に、地下施設など無いはずだ。
頭の中の学園の見取り図を何度も確認するが、そもそもごく普通の学園施設ならば図書室に隠し通路を置く理由が思いつかない。
階下に降りたエレベーターから降りると、ロロは正面に見える扉にに向かった。
迷うことのない足取りのロロを不思議に思いながらも、ルルーシュは歩みを進めた。
そして。

「おかえり、私の魔王」

新緑の髪の魔女に迎えられ、ルルーシュは全てを思い出した。

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