歪んだ人形 第13話


「説明をしろC.C.!一体どういう事だ!!」

予想通り、その美しい顔に怒りを乗せたルルーシュは、目の前に立つC.C.に怒鳴りつけた。
C.C.はふふんと笑いながら踵を返すと、テーブルの上に置かれていたアツアツのピザを1ピース手に取り、手近な椅子に座った。
壁となっていたC.C.が居なくなったことで、彼女の陰に隠れ見えなかった室内の様子が明らかになり、ルルーシュは驚き目を見開いた。
沢山のモニターが置かれたこの部屋には、同じくピザを片手に笑顔で手を振るカレン、そして「うっわぁ、ほんとにアイツC.C.さんに怒鳴ったぜ」と笑うリヴァル。「すごいねC.C.さん、大当たりだよ!」と同じく笑うシャーリー、目に涙を浮かべているミレイ。
そして眉尻を下げ、苦笑しているヴィレッタと、なぜか盛大に涙を流すジェレミア。
ルルーシュの手を握っているのは偽りの弟で、思わずじろりと睨みつければ、びくりと見を縮め、怯えたような視線をルルーシュに向けていた。
カツリと足音を立てルルーシュの傍に寄ってきたのは満面の笑みのスザクで、さっと伸ばされた手はルルーシュの左目を覆っていた。

「その目で話しちゃダメだろ、ルルーシュ」

苦笑しながら告げるその言葉で、自分の左目にギアスが宿っている事を、この現状では皆にギアスをかけてしまう事を悟り、ルルーシュはスザクのその手を乱暴に振り払うと、片目を閉じ、更に念のため自分の手で押さえた状態でスザクを睨みつけた。

「まずは座ろうかルルーシュ。記憶が戻ったばかりで、頭がふらふらするはずだよ?立っているの辛いだろ?」
「スザク、お前どうしてここに」

自分を皇帝に売り払い、帝国最強の騎士ナイトオブラウンズの第七席を手に入れた男がC.C.と共にいる理由。正しい記憶と偽りの記憶で今だ混乱している頭で考えてみても、答えは出なかった。
そして腹立たしいことに、スザクが言ったように経っているのが辛い。頭がふらふらどころかグラグラしていて、吐きそうなぐらい気持ちが悪い。

「だから、まず座ろう。ね?」

にこにこと、機嫌の良さそうな笑みを向けるかつての親友を忌々しげに睨みつけた後、ルルーシュは渋々席に座った。

「ああ、そうだ。ルルーシュ、これを使え」

C.C.がぽいっと投げたそのケースを、隣に座ったスザクがさっと手を伸ばして受け取り、勝手に蓋を開ける。そこにはコンタクトレンズが収まっていた。
色はルルーシュの本来の瞳の色に合わせた紫色。

「何これ?ルルーシュ目が悪かったっけ?しかもカラーコンタクト?」
「そんな理由で私が用意するはずないだろう。ルルーシュ、お前のギアスに関する考察が正しければ、そのコンタクトでお前の力を封じることができるはずだ。まあ、ものは試しだ。だめなら眼帯も用意している。・・・そういえば、お前はコンタクト着けた事は無かったな。自分で出来るか?」
「どうだろうな、鏡は無いのか?」
「ない。仕方ないな、最初は私がつけてやろう。後で鏡の前で練習をしておけ」

ぺろりと指に着いた油をなめながら立ちあがったC.C.に、ルルーシュはあからさまに嫌そうな顔をした。

「お前、そんなピザの油がついた指で触る気か?」
「いちいちうるさい男だな。まったく、誰に似たのやら」

仕方がないなとC.C.は、テーブルに置かれていたウエットティッシュを数枚とると、それで指先を丁寧に拭き取った。その時、ルルーシュの肩をスザクがポンポンと叩いたので視線を向けると、機嫌のいい元親友がこちらに笑顔を向けていた。

「僕が着けてあげるよ。ね、ルルーシュ。こっち見て?」

目を覆う手をどけようと、スザクはルルーシュの手に触れた時、C.C.はいささか乱暴に二人の間にその身をねじ込んだ。スザクは今までの笑顔を一瞬で消し、鋭い目つきでC.C.を睨みつけ、C.C.もまた眇めた目でスザクを見下ろした。

「駄目だ。お前は力加減を間違えて眼球を傷つけかねない。いいから貸せ。私がやる」
「大丈夫だよ。僕がルルーシュを傷つけるはず無いだろ?」
「ルルーシュの額を拳銃で撃ち、更には身分を手に入れるために売り払った男の言葉など信用できるはずないだろう。」

痛いところを突いた言葉に、スザクは思わず顔を強張らせて動きを止め、その隙にC.C.は手早くスザクから箱を奪い返すと、コンタクトを取り出し、慣れた手つきでルルーシュの瞳に装着した。
ぱちぱちと何度か瞬きしたルルーシュに、違和感があるか?と尋ねたが、特に問題はなさそうだったので、C.C.は箱をルルーシュに手渡すと、再び先ほどの席に戻った。
ルルーシュの瞳は両目とも深いアメジストに戻っていて、先ほどの赤い瞳が見間違いだったのではと錯覚してしまう。
だが、コンタクトレンズだけではやはり不安なのか、ルルーシュはすぐにその瞳を閉じ、左目をその手で覆い隠した。

「では、ルルーシュ。試しに枢木スザク何か命じろ」
「スザクは既に使用済みだ。それよりお前、さっきから余計な事を口にしすぎだ」

ギアスと言う言葉や、それに関わる話をどうして平然と口にしているのだと、叱りつけるようにルルーシュは口にしたが、C.C.は今更な反応だと言いたげに嘆息した。

「こういう事態で、こういう状況だ。お前がゼロで、ブリタニアの鬼籍に入っている皇子で、更には絶対遵守のギアスという異能を持っている事も暴露済みだ。まあ、詳しい話は後でしてやるよ。まずはそのコンタクトで無力化できたかを確認させろ。ああ、枢木スザクにかけたお前のギアスは、ジェレミアが手に入れたギアスキャンセラーと言う特殊なギアスで消し去っているから、再びギアスが効く状態のはずだ。お前の記憶が戻ったのもジェレミアのキャンセラーの効果だ。解ったらさっさとやれ」

一方的にしゃべり続けたC.C.を鋭いまなざしで睨みつけた後、ルルーシュはスザクに視線を向けた。そしてその左目を覆う手を下し、力を込める。

「スザク」
「何?ルルーシュ」

にこにこと笑顔で返事をするその様子に、脱力感を感じるのは気のせいだろうか。
そう思いながらルルーシュは絶対の命令を口にする。
かつてはこの男の意思を捻じ曲げる事を拒絶したが、あれだけの事をされたのだ。
そんな躊躇いなどもう無い。

「土下座をして俺に詫びろ!」
「嫌だ、詫びる理由がない」

笑顔のまま即答され、思わずルルーシュの眉根が寄った。

「理由が無いだと?」

ギアスが効かなかったという事は、コンタクトで遮断できたという事。
それをまず喜ぶべきなのだが。
あれだけの事をしておいて理由がないと?
こいつは本気で言ったのか?
しかもすごくいい笑顔で。

「ルルーシュ、その話は後にしろ。今は時間が惜しい」

ギアスが無効化されたのが分かれば十分だ。
思わず激昂しそうになったルルーシュを止めたのはもちろんC.C.。美味しそうにピザを口にしながら、ヴィレッタになにやら指示を出し、そしてヴィレッタはプリントされた用紙をルルーシュに手渡した。
それは人物リスト。
その内容に、ルルーシュは目を細めた。

「これは、俺を監視している人間か?」
「正解だ。さすがだなルルーシュ。皇帝直属の機密情報局のリストだ。この学園内でお前を監視している全員と言っていい。今は全員学園内だ」
「そうか。では行ってくる」
「監視カメラや盗聴器のデータは全てここに保管されている。だから不要な警戒をする必要はないから、さっさと済ませて来い。ロロ、お前はルルーシュと一緒に行け」
「え?・・・うん。わかった」

突然指名されたことで驚いたろろだったが、すぐに表情を消し頷いた。
そんなロロを、ルルーシュは冷めた眼で見つめた。
すでに愛情など欠片も感じないという目だ。

「ちょっと待って、ルルーシュに詳しい説明は?大体どこ行く気なの君!」

だが、これに慌てたのはスザク。
逃さないとでも言うように、ルルーシュの手をガッチリと握った。
ルルーシュは不愉快げに掴まれた腕を見た後、冷たい視線をスザクに向けた。

「決まっている。機密情報局の者たちを無力化させ、万が一にも皇帝に今のこの状況を悟らせないようにする。戻ったらここのデータにも手を入れれば問題無い」

ルルーシュは目を通し終えた資料をテーブルに置き立ち上がった。

「え?」
「説明が必要ならC.C.に聞け。C.C.、他に何かあるか?」
「そうだな、一つだけ確認しておきたい事がある」
「なんだ?」
「お前、ナナリーがマリアンヌの腹にいた頃の事を覚えているか?」
「当然だな」

何を当たり前の事をと言いたげにルルーシュは即答した。
まだ2歳の頃の記憶を当然と言い放つか。
予想通りの答えではあったが、C.C.は苦笑した。

「その当時と、ナナリーが生まれてからの事で、何か違和感を感じた事はないか?」
「違和感だと?」
「そう、妊婦であるマリアンヌの腹と、出てきた赤子に、だ」

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