歪んだ人形 第14話 |
C.C.がこの状況でどうでもいい問答をするはずがない。 ならば真剣に考えるべきだろう。 そう判断し、ルルーシュはしばし考え込んだ。 ナナリーを宿した母と、そして生まれてきたナナリーか。 2歳の頃の記憶まで遡り、ルルーシュはすっと目を細めた。 「強いて言うならば、メイドの言葉だな」 「ほう、どんな?」 その年齢の記憶など普通無いはずだが、この男は覚えているのかと、C.C.は面白そうに口角を上げた。 「メイドたちは母のお腹を見て、あの大きさなら間違いなく二人は居るはずだと、そう噂していた。だが生まれたのはナナリー1人。だから、もしかしたら双子ではないかと楽しみにしていた俺は、1人だった事を少し残念に思ったものだ」 その言葉に、周りが息を呑んだのが解り、これが何だと言うんだと言いたげにルルーシュは眉根を寄せた。 まだ言葉などろくに理解していないだろう幼子。 たとえ理解していても、物心がつく前の記憶など残らないだろう。 そう思ったからこそ、ルルーシュの記憶までは書き換えなかったのだ。 「クククククっ成る程な。やってくれたな、シャルル。・・・枢木スザク、お前の勘はなかなかのものだった」 「ほんとだね。自分でもびっくりしたよ」 「勘だと?いい加減説明しろC.C.」 ジェレミアとロロは泣きそうな、そして他の者は驚きと喜びをその顔に浮かべていて、今の話の内容で、どうして皆がそんな反応になるのかルルーシュには全く理解できなかった。そんな中C.C.は一人ぱちぱちと適当な拍手をルルーシュに送った。 「おめでとうルルーシュ。お前の妹ナナリーは双子だったんだよ。同じ日に生まれた弟を忌子とし、ギアスの実験に使用していた。生まれたのはナナリー1人だと、関係者の記憶を書き換えてな」 「な!?」 記憶の書き換え、それは皇帝のギアス。 双子、弟。その単語にルルーシュはまさかと、ロロを見た。 整形したのではと疑いたくなるほど妹によく似た偽りの弟の、泣きそうな、それでいて歓喜に満ちたその表情。 まさか、そういう事なのか!? 「気づいたか?ロロは偽りの弟ではなく、お前の同腹の弟でおそらく間違いはないだろう。DNA検査をしなければ、確定はしないが」 「ロロが・・・俺の?」 ナナリーの場所を奪った、偽りの弟では無く? 生まれてすぐに皇帝に奪われた、俺の本当の弟だと!? 「兄さん・・・っ、兄さん!!」 涙をこぼしながら抱きついてきた弟を、茫然と見つめながら、ルルーシュはしばし思案した後、ロロをギュッと抱きしめた。 「あの男っ!!どこまで俺たちをっ!どれだけ奪えば気が済むんだ!!ロロ、すまない。俺はっ!」 短い時間とはいえ、ナナリーの居場所を奪ったお前を恨んで、憎んでしまった。 全てを奪われていたのはお前だと言うのに。 「ううん、兄さんは何も悪くない。僕嬉しいんだ。兄さんは、本当に僕の兄さんだったんだっ!」 喜びに震える弟の髪を優しく梳きながら、ルルーシュは胸の内に沸いた憎しみと怒りをどうにか抑えると、視線をC.C.に向けた。 「・・・C.C.、後でお前の知りえる情報を全て俺に教えろ」 「ああ、教えてやるよ」 すっと表情を消した共犯者に、ならばいいと、ルルーシュは自分に抱きつき泣き続ける弟の頭を撫でた。そして、いつも妹に、そしてこの1年この弟に向けていた慈愛に満ちた兄の顔と声でロロに話しかけた。 「ロロ、お前はここに居るんだ。上に行くのは俺だけで十分だから」 「だっ、だめだよ兄さん。上にいる連中は僕たちの行動を怪しんでいるかもしれない。僕が一緒ならギアスでどうにでもできるから」 「そうか、ギアスの研究と言う事は、お前もギアスを持っているのか。ならば、尚更お前はここに居るんだ。これ以上ギアスは使ってはいけないよ」 「でも!」 「まあ、ルルーシュに一理あるな。ロロのギアスは、暴走すれば即ロロの命は尽きる。ならば、ほら、お前を裏切った元友人を連れていけばいい。そのぐらい役には立つだろう?」 元友人と言う言葉に、ルルーシュはそこにいるのが当たり前という顔で隣に居るスザクを見た。 「元って付けないでくれないかな。ねえルルーシュ、ひどいと思わない?」 僕たちはずっと友達だよ! そう文句を言いながら不愉快気に眉根を寄せるその男に、いら立ちが募るのは仕方のない事だと思う。 ルルーシュはそのいら立ちを隠すことなく、スザクを睨みつけた。 「ひどいのはどっちだ。・・・まあいい。スザクを連れて行って問題無いという事だな」 確認するように、ルルーシュはC.C.を見ると、くだらない質問をするなと言いたげに、C.C.は目を細めた。 「でなければ、そんな裏切り属性二重人格男をお前の護衛に着けるはず無いだろう?学園内にある監視カメラの映像はここで確認できるから、いざとなったら助けに行ってやるよ」 C.C.はひらひらと手を振りながら、もう片手で新たなピザを1ピース手に取ったので、ルルーシュは踵を返すと、その部屋を後にした。 「ちょっと、待ってよルルーシュ!」 何も言わず歩き出したルルーシュを追ってスザクも部屋を後にした。 |