仮面の名 第3話 |
私が手に持ってきたのは団服と靴、そして下着類。 剃刀とクリーム、歯磨きセットとブラシも持ってきた。 これらは全て新品。 衣服のサイズは玉城の物。 それらをC.C.に渡すと、ノックもせずにC.C.は脱衣所にそれらを置き、今まで玉城が身につけていた衣服を入れたゴミ袋を持って出てきた。 「・・・そこまでする?」 「お前は耐えられるのか?中身はあの、ゼロだぞ?ゼロに薄汚れて洗濯をいつしたか解らん衣服を着せたいか?私はごめんだ。玉城の衣服など臭くて着せられるか!」 この服も洗うなんて御免だ。全部捨ててやる。 「あー、うん。そうね。中身はあのゼロだものね。私もいやかな~」 ルルーシュに玉城の服?それを洗って着せる?うん、無理。 「っておめーら!ひどくねーか!?俺は病原菌扱いか!?」 汚い言葉で怒鳴り散らす、椅子に縛られた男を見て私とC.C.は同時にため息をついた。ちなみに今私が席をはずしていた間にゼロの衣装は脱がされ、黒のスラックスに白のシャツという、彼らしい衣服に戻っていた・・・のだが。 「残念すぎる・・・何この残念なイケメン。あり得ないわ。ゼロのイメージが崩れるレベルじゃないわよ。あいつのイメージまで崩れるわ」 玉城が良くする不愉快そうな表情をその美しい顔に浮かべながら、口汚い言葉を発するので、彼の美形度は驚くほど下がっていた。こんな姿、彼の隠れ親衛隊が見たら号泣するに違いない。まあ、美人は美人なんだけど、なんかホントいろいろガッカリする。 本来のルルーシュを見ているから余計かもしれない。 「不潔なのは間違いないぞ。風呂に入ってだいぶ経つというのに、あいつは出てこないだろう?体が妙にかゆいから皮膚に異常でもあるのかと最初訝しんでいたが、お前ここ数日風呂に入って無かっただろう」 なんか臭うと思ったんだと、C.C.は不愉快そうに眉を寄せてそうゼロ:玉城に言った。その言葉を聞いて、私は思わず顔をしかめてしまい、ゼロ:玉城は、忙しかったんだとか、昨日は疲れて眠ってしまったんだとか、終いには数日ぐらい死なねーよ!とか言っていて、私たちはますます眉を寄せた。 「駄目、無理だわ。もう、元に戻るまでこっちはこのまま監禁でいいんじゃないかしら?」 「そのつもりだ。こんな状態で表になど出せるか。もしこれがお前や私、せめて藤堂なら、暫く表の生活に戻って、体調不良の振りをしてくれと頼むが、こいつでは無理だ」 「そうよね。そう言えばラクシャータさんと藤堂さんは?」 「扇が様子を見に来たから、二人に任せた。あの二人が言えば扇も納得するだろう。幸いゼロの頭脳は健在だから、黒の騎士団のゼロには何も問題は無い」 「ああそうか、ゼロの変声機つかって通信でやり取りすればいいのか」 「それもあるが、ゼロに玉城の体のまま、あの衣装を着せるのも手だと思うぞ?ああ、サイズに問題はあるから、急ぎ玉城に合わせて作成することになるが」 「あー、なるほどね。じゃあゼロに関しては大丈夫そうね」 私が軽くそう口にすると、玉城はどこが大丈夫なんだと、怒鳴ってきた。ああ、だめ。ほんとその言葉遣いとかやめてほしい。その顔と体でそれは犯罪だわ。 「お前たち、何をそんなに騒いでいるんだ。いくらこの部屋が高い防音性能を誇っていても、外に聞かれる恐れがあるんだぞ」 ようやく風呂からあがってきたルルーシュは、そう注意しながら部屋に入ってきた。 その姿を見て、私とC.C.は思わずポカンと口を開けた。 「ほほう、変わるものだな」 「うわー、玉城って結構いい男だったのね。知らなかったわ」 無精髭はすべて剃り、身だしなみもきっちり整えてから出てきたその姿に、私たちは関心の声を上げた。中身が違うとここまで変わるというのか。 背筋を伸ばし、綺麗に歩くその姿も正にゼロ。 気品や風格といったものを嫌でも感じられた。 その顔も凛々しく、精悍な顔立ちに見えるのだから驚くしかない。 歩き方や姿勢でこんなに変わるなんて、私も真似しようかしら。 「なんか頼りになるぞ!ってオーラが全身から出ている気がするわね」 「確かにな。中身が玉城になるとあれだけ残念な状態になるが、中身がゼロだと、これだけ頼もしげになるのか」 「何の話だ一体。それより玉城、お前ちゃんと風呂に入れ!」 私達の言葉に眉を寄せた後、ルルーシュはゼロ:玉城に文句を言った。 「失礼だな、俺だって風呂ぐらい入ってるぞ!まあ、この前入ったのは・・・多分3日前ぐらいだけどよ」 「3日ってお前な!垢だらけだったぞこの体!!爪も切って無いし、耳も掃除してなかっただろう!歯も碌に磨けてなかったぞ!どうして平気でいられるんだお前は!」 ああ、思い出しただけでも寒気がする! 自分の体を抱くようにして腕をさする玉城:ゼロの様子に、私もC.C.も顔を引き攣らせた。お願いだからそれ以上言わないで、想像したくないから! 仮面をかぶっているゼロは冷静沈着だが、本来の彼はこういう感じだ。仮面を外しているせいか、素の彼が出ていて、ゼロ:玉城はルルーシュに感情があること自体に驚いたのか、思わず「悪かった!今度からちゃんとする!」と、謝った。 良かった。玉城と入れ替わったのが私じゃなくて。 ほんと、ご愁傷様。ある意味潔癖症と言えるルルーシュだから、今の自分の体とはいえ、この反応、正直触りたくないレベルだったのかもしれない。 「・・・まあいい、もう汚れは綺麗に落とせたからな。藤堂とラクシャータはどうした?」 「扇や他の団員の説明のため出て行った。で、こっちの体はどうする?お前の顔を見られたら困ると言うのもあるが、玉城に任せたら、その体みたいに汚れるぞ?それなら、目隠しをし、誰かが洗った方がいいんじゃないか?」 その言葉に、確かに自分の体も間違いなく汚れたままになるだろうと、あからさまに嫌そうな表情となったが、やはり体は玉城だが中身はルルーシュだ。同じ体だと言うのに、どことなくかっこよく見えるから不思議だ。 「仕方ない。俺が風呂に入れるか」 「お前一人では難しいだろう。手伝ってやるよ」 「お前な、仮にも女なんだから、男の入浴の手伝いなどしようとするな」 「いいじゃないかべつに。私は恥ずかしくないぞ」 「恥ずかしいのは、お前じゃなく俺と玉城だろう。大体、目隠しなどいらない、鏡を外せば事足りる」 「駄目だ」 「駄目よ」 ルルーシュのその言葉に、女性二人は揃って否定の声を上げた。 「・・・理由は何だ二人とも」 「お前は自分を解っていない。いや、男というものを解っていない」 「玉城と二人きりなんて危険すぎるわよ」 「意味が解らないのだが」 「そうだそうだ!何で俺が目隠ししなきゃいけねーンだよ!男の体を見ても問題ないだろーが!鏡がなきゃ顔だって見れねーし」 「いいから黙ってろ、ガッカリ美人」 「黙っててよ残念イケメン」 「はあ!?お前らいいかげんにしろよな!馬鹿にしてんのか!ってかゼロはそんなに美形なのかよ!見せろよ俺に!」 「なんだその呼び方。それ以前に美人は男に向ける言葉じゃないだろう」 そんな男二人の言葉など、女二人は聞く気も無く。 「ああ、カレン。いい考えがある。確か水中作戦用に水着があったな」 「あ、そうね。男物、持ってくるわ。そうすれば私たちで洗えるものね」 ルルーシュの制止の声を無視し、私は水着を取りに部屋を出た。 |