仮面の名 第4話

目隠しをした男を囲み、女二人、男一人がそこに立っていた。
ちなみに囲まれているその男は水着着用済みだ。
ここは風呂場。
浴室の中央に座っているのは、本来の俺の体。
ただし今は中身は玉城だ。
どうしてこんな事になったのだろう。
いや、それ以前に男の体を洗うのに、女二人がにこやかに笑いながら参加するのは、どう考えてもおかしいんじゃないだろうか。

「どうしても洗うのか?俺一人で十分だと言っただろう。一人で無理だと言うなら藤堂を呼んでくれ」

今すぐ洗わなければいけないというものでもない。だからそう提案するのだが、すぐに否定されてしまう。

「往生際が悪いぞゼロ」
「男でしょ?いい加減観念しなさいよね」

そう言うと、蛇口を捻り、C.C.は俺の体にシャワーでお湯をかけた。
何なんだろうこれは。新手の拷問だろうか。
何で俺はこの二人に自分の体が洗われるのを見なければいけないんだろう。
まあ、玉城は美女二人に体を洗われるという状況を喜んでいるようだから、良しとするべきなのか?なんだろう、凄く嫌な予感しかしない。
先ほど洗った、今の俺の体でもある玉城の体があまりにも汚すぎたため、先ほど湯船のお湯は全て捨ててしまった。
だから、仕方なく今日はシャワーで済ませることにした。
むしろ今後この体が戻るまでシャワーだけだな。
C.C.がその髪を洗い、カレンが腕を洗い始めたので、仕方ないなと俺は体の前に周り洗い始めた。さっさと洗ってさっさと終わらせよう。それがいい。

「あー、いいねぇ。いや~きもちいいなぁ」
「黙れ」
「その顔と声で、そういう事言わないで」

言いたくは無いが、俺も俺の口からそんな言葉は聞きたくなかった。
なんか、気持ち悪い。
玉城の言葉はばっさりと二人に切り捨てられ、ひでーよお前ら!俺にもしゃべらせろ!と、玉城は騒いだ。体を捻ったりと洗う邪魔までしてくる。いい年してどこの子供だ。

「玉城、暴れるな。おとなしくしていればすぐに終わる」
「なんだよ、前洗ってるのゼロかよ。俺の体で洗われてもな~。あ、そうだ。どうせ下も洗うんだろ?ならさ、カレンかC.C.に」
「俺が洗うにきまってる。何のための水着か解ってるのか?」

女性に洗わせようとしたその言葉を、全て言う前に俺は結論を口にした。
こいつ、今の状況解っているのか?
しかも年頃の・・・まあC.C.はあれだが、見た目は年頃の娘だ。そんな二人に何をさせる気だった?しかも俺の体で。
やはり、今後洗うなら藤堂の手を借りよう。玉城を洗うなど、二人には危険すぎる。俺の体は男だし、中身も男の玉城だ。何かあったら取り返しがつかない。
だが、そんな心配を察したのか、新緑の髪を頭の上で束ねた共犯者はにやりとその顔に笑みを乗せ、こちらを見ていた。

「洗ってやってもいいぞ?お前の体だしな?」
「お前な・・・」
「お、いいねえ。ほら、本人もいいって言ってんだしよ」

C.C.の言葉に、玉城はやったと喜びの声をあげ、そう言ってきた。

「駄目だ。いい加減冗談を言うのをやめて手を動かせC.C.」

思わず低い声でそう睨みつけると、言うと思ったよとC.C.は肩をすくめた。

「つまらん男だな。まあ、玉城の言葉と下卑た笑みで喜ばれても気持ちが悪いだけか。異性に体を、しかも下も全て洗われると言う行為は、この手の話では定番のシチュエーションなんだが。まあ、中身が玉城だとガッカリ感が半端ないしな。お前のイメージがこれ以上崩れないうちに終わらせるか」
「そうしましょ。なんかもう、体はゼロなんだけど、殴りたくなってくるわ。玉城、あんた元に戻ったら一発殴らせてよね」
「そこまで言うかぁ!?暴力はんたーい!大体な、おいC.C.お前、俺の何が気持ち悪言ってんだよ!何がガッカリだって!?おい、聞いてんのかよC.C.!」
「黙れど阿呆が。よし、髪を洗い流すぞ、シャワーをよこせゼロ」

その後はC.C.もカレンも手早く俺の体を洗い、俺の方もどうにか洗い終わり、男に触られるなんて気持ち悪すぎると文句を言う玉城に衣服を着せ、身だしなみを整える事が出来た。そして今、再び椅子にゼロ:玉城はしばりつけられた。

「あーもー疲れた。これを毎日やるわけね」

結構しんどいわねと、明らかに疲れた顔でカレンはソファーに座った。

「今日は助かったよカレン、C.C.。だが、明日からは藤堂に手伝ってもらう。中身は玉城だからな、お前たちに何かあっても困る」

その俺の心配に、二人は噴き出す様に笑った。

「大丈夫よ、体はあんただもの」
「そうだな、体はお前だからな」

うんうんと頷きあう二人に、俺はどういう意味だと思わず睨みつけた。

「なになに?それって体がこれなら、何してもいいってことか!?よっし、男なら期待に答えなきゃな!ほら、さっさとこの紐を解け!」

それを聞いていた玉城は、嬉しそうな声をあげ、そういうと、C.C.とカレンは冷たい視線で玉城を睨みつけた。そして、低く重い声音で口を開いた。

「黙れこのど阿呆が。中身がお前ならお断りだ」
「冗談じゃないわ。そういう意味じゃないわよ。ホントサイテーね玉城」

じゃあどんな意味なんだ、と聞きたいところだったが、いつに無く二人の機嫌が悪く、部屋の空気が冷たくなっていくのを感じたため、俺は口を閉ざし、気分転換に紅茶でも飲もうと用意を始めた。
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