仮面の名 第5話 |
ルルーシュがあの状態では、もちろん学校になど来れるはずがなかった。 クラブハウスにも戻れず、ナナリーは心配しているんだろうな。と思ったのだが、どうやらメールで連絡を入れたらしく、咲世子に読んでもらう事で二人は連絡を取る事が出来ているようだった。 急な用事で数日離れる事、そして携帯が壊れてしまい通話が不可能となったと書かれていたらしい。いつもは声でやり取りをする二人だが、今まで兄から手紙など貰った事の無かった妹は「お兄様からのメール、凄くうれしいんです」と、喜んでいた。 もしかしたらナナリーの宝ものになるのかもしれない。 既に兄を無くした私も、兄から来ていたメールは今でも大切な宝物だから。 そうやって学生らしい一日を終え、騎士団本部へ戻ってきた私は扇に挨拶をするため、休憩室兼談話室に足を踏み入れ、思わず驚きの声を上げた。 少なくても昨日まではあちこちにゴミが落ち、埃がたまり、煙草の匂いがこびりついていた場所だと言うのに、今はまるでこの場所をアジトにした頃のような綺麗な状態だった。換気がされ、消臭剤も置かれたのか、ほのかにミントの香りがする。 「ああ、カレン。来ていたのか」 額にタオルを巻いた扇が、部屋の奥から姿を現したので、私は小走りで駆け寄った。 「どうしたんですかこれ?大掃除?」 「ああ、これか。いや、原因は玉城なんだ」 「玉城が?」 その言葉で、ああそうだ。今は玉城の中身、ルルーシュだったんだわ。と、この清掃の徹底ぶりに納得した。 「ああ、あまりにも汚すぎるって掃除を始めたんだ。こんな場所にいたら病気になってしまうと言ってな。しかも本格的に掃除を始めたから、流石に見てるわけにはいかないと、皆も手を出し始めて・・・気づいたらここまで綺麗になっていた。最初はこうだったんだよな。短い間によく汚した物だ」 ははは、と明るく笑う扇に、成程、本人に悟らせないような形で自然と手伝わせたのかもしれないわね。あるいは人徳のなせる業か。玉城本人が動いても誰も手伝わなかったかもしれない。でも今の中身はゼロ。自然と体からにじみ出るその指導者の気配に感化された可能性はある。一人が手伝えばまた一人。そうやって気づけば全員総出で大掃除。 「これだけ綺麗だと、気分いいですよね。最近はなんか、空気が淀んでいたというか、正直私はあまりここに居たくは無かったですし」 はっきり言って入口から先は足を踏み入れたくない場所だった。タバコ臭くて男臭くて、正直他の女性も途中から誰もこの部屋には入らなったのだ。反面教師というべきか、それまで雑然としていた女子部屋は、この部屋みたいにしたくないと、綺麗に片づけられている。 「俺もそう思うよ。これからは定期的に掃除をするべきだって考えている」 そうしてくれるとありがたい。私は笑顔で頷いた。 「あ、それで玉城は?」 「今、格納庫に居るはずだ。ラクシャータに呼ばれていたが、何かやらかしたのかな、あいつ」 「雑用でもやらせるつもりなんじゃないですか?私、格納庫行ってきます」 これから倉庫の掃除を手伝いに行くという扇にそう告げ、私は格納庫へ移動した。 格納庫内は、なぜか扉や荷物、NMFに隠れるように何人もの人が居た。 何かあったのかしらと、私は近くにいた吉田に声をかけた。 「吉田さん、どうしたんですこんなところで。掃除中だったんじゃないですか?」 団服を脱ぎ、両腕をまくり額に手ぬぐい。そして手には雑巾という姿の吉田にそう尋ねると、あれを見てみろと指さされ、私はそちらに視線を向けた。 そこに居たのはKMFの前でラクシャータを含む学者達と、藤堂と共になにやら難しそうな話をしている玉城。 って、玉城!? あんた何やってんのよ。玉城はそんなことしないから!それはゼロがやってる事だから!ラクシャータさんも何普通に話してるの!そこは止めてよ藤堂さんも!! 「あれ、玉城だよな?間違いなく玉城だと思うんだけど、なんか今朝からおかしいんだよな。扇たちはイメチェンして、自分を変えている所らしいと言っていたが、変わりすぎじゃないか?」 カレンに気づいたのだろう、杉山が近づいてきてそう言った。 「掃除はまあ、別にいいんだ。ゼロが倒れた今は作戦も無いだろうし、あちこち綺麗になって、なんか気分もいいからな」 「玉城がやらなそうな事ではあるけどな。あいつが一番汚してるだろ」 「まあ、そうだけどさ、もしかして昨日倒れたゼロの傍にいたらしいから、何か思うところがあったんじゃないか?でも、今のあの姿はなぁ」 背筋をぴんと伸ばし、綺麗な姿勢でそこに立ち、身だしなみもきっちり整えられている。それだけでも別人に見えると言うのに、今まで見たことも無いような真剣で、それでいて威厳のある表情で話をし、科学者達も真剣な表情でに受け答えし、頷くのだ。 本当に別人と言っていい。他人の空似で、ゼロが新たに引き込んだ団員で通じるレベルだ。あり得ないわ。ほんとに。 ゼロ:玉城の行動を封じて安心してたけど、こっちも封じなきゃだめじゃないの。 私は杉山と吉田に止められながらも、彼らの元へ足を向けた。 すると、最初に気づいたラクシャータが手を挙げて挨拶をしてきたので、私も笑顔で挨拶を返した。 「おかえり~カレン。学校はどう?」 それはおそらくルルーシュ不在に関してだろうと、私はラクシャータの問いに笑顔で頷いた。 「何も問題ないですね」 「そう、それならよかったわ。で、あの外野に何か言われたのかしら」 「あ~、いえ、言われては無いですけど、怪しまれてるかなーと」 「全く面倒だな。仮面なしで動けるのは楽でいいし、何より本来のあいつらを見れるから有益だと思ったが、俺はさすがに玉城のあの言動は真似できないから、怪しまれているようだな」 それはそうだろう。私は頷いてからはっと気付いた。 「って、言っていいのそれ!?だってほら、ここには」 ラクシャータのチームの学者が居るのだ。 「ああ、うちの連中の話?ゼロの中身と玉城の中身が入れ替わった話はしてるわよ。ゼロの診察は私がするけど、流石にこれは私一人でどうこう出来る問題じゃないわよ」 「そういう事だ。まあ、いい加減面倒だから、全員にばらすのも手かと今は思っている」 ゼロなら絶対にありえないような投げやり気味の発言に、周りの人たちは苦笑していた。その様子から、どうやら今の彼は、ここの人たち相手には普段の彼らしい一面を見せている事が解る。何より表情が見えるのだから、それだけでもゼロの印象はがらりと変わるだろう。 「だがゼロ、それはまだ早計だと思うが」 苦笑しながら藤堂はそう彼を諌めた。 「解っている。だが、こうも皆手を止め、掃除をさぼるのなら、さっさとばらして掃除をさせたほうが効率がいいだろう」 「って、そんな事でばらすとかやめてよね!」 「そんな事だと!?いいかカレン。俺はゼロとして、団員が心身ともに健康に過ごせる環境を整えるべきではないかと、今日痛感した所だ。今日中にすべて清掃するためならば、この奇妙な状況の説明ぐらいなんでも無いだろう!」 あの状況によほど憤慨したのだろう。 綺麗好きだものね、あんた。 だけど。 「まあ、解るわよその気持ち。あの薄汚い場所が綺麗になるのは精神衛生上、非常にいいことだと思うけど、それゼロが率先してやる事なのかしら?」 私は思わず呆れたような口調でそう言った。 「俺がやらずに誰がやる!」 「ああ、うん、そうね。あんたはそうだったわ」 そう言えば、作戦中もゼロが先陣を切る事はよくあるし、嫌がりながらも学園で殆どの仕事を指揮して纏めているのは彼だったわねと、カレンは思わず嘆息した。 皇子様のはずなのに、人を頼ろうとしない性格なのよね。 まあ、だからこそのゼロなんだろうけど。 だけど、アジトの清掃までゼロが指揮する必要など無い。 ってかゼロが掃除の指揮とか、間抜けすぎるからやめてほんとに。 「わかったわ。女性団員は皆この綺麗な状況に大喜びだと思うのよ。だから皆と話をして、男性団員も含め、毎日の掃除当番を決めるわ。それでどう?」 「いいだろう。この件はカレンに一任する」 「お任せください、ゼロ」 |