仮面の名 第7話

私は、いつになく気前のいい共犯者が用意したピザを噛みながら目の前の男を見た。
普段であれば、この顔を見て食べるピザは絶品なのだが、いかんせん中身は玉城だ。そのおかげでピザの味もガクリと落ちた。
いや、顔は相変わらず美形なのだが、その表情とか、言動が許せないレベルだった。
イライラは募る一方だが、ちゃんと見張っていれば明日も3食ピザにしてくれるという共犯者の言葉に従い、私は出来るだけその中身を意識しないよう努めた。
努めたのだが。

「おい!いい加減無視すんなよな!!一人で上手そうにピザ食いやがって!俺にもよこせ!!」

流石の私でもそろそろ限界を感じていた。

「煩い、黙れ。昼はちゃんと食わせてやったんだから、夕食まで待ったらどうだ」

思わず視線だけを向け、重低音でそう告げると、ゼロ:玉城は、う。と声を詰まらせた。

「何言ってんだよ!ずりーじゃねーか!一人でLサイズ全部食うなよな!しかもそれ新製品だろ!俺にも試食させろ!」
「ど阿呆。その体はゼロの物だ。お前の感覚でバクバク食うな」

太ったらどうするんだと言外に告げ、私はその男から視線をそらし気分を少しでも向上させるため、ピザをパクリと口に入れた。

「何するにもゼロゼロゼロゼロって、ゼロの事しか考えてねーのか!ああ、そうだよな。お前愛人だもんな。いいんだぜ?俺が相手をしても」

何を想像したのかは考えたくもないが、あの顔で下卑た笑みを浮かべた。

「黙れと言ったのが聞こえないのか?その顔で、その口で、下卑た事をこれ以上言うようなら、睡眠薬で強制的に眠らせるぞ。それこそ、元に戻るまでずっとな。ああ、その方がいいな。その体はゼロの物だ。眠るそいつも観賞するには最適だからな」
「俺の人権を無視すんなよな!大体男の寝顔見て何が楽しいんだよ!お前ら目が腐ってんじゃねーか?ゼロが美形なのは解ったけどよ、過大評価しすぎだろ」
「毎日のように女性から告白され、稀にではあるが男からも告白される奴だぞ。ラブレターなんて、それこそ漫画に出てくるような量を実際に貰ってるんだ。女装をすれば絶世の美女と言われ、一般人でありながらアイドル並みのファンや隠れ親衛隊まで存在する。過大評価など冗談ではない。むしろゼロは自信を過小評価しすぎているんだ」

私の話に、ゼロ:玉城は驚き、口をポカンと開けた。

「はあ?なんだそれ?モッテモテじゃねーか!冗談だろ!?」
「本当さ。まさにモッテモテだな。そんな男の体に入っているんだ。ゼロの事を好きな奴らから見れば、羨ましい状況なんだぞ、お前」

そう考えれば、入れ替わったのが玉城でよかったと見るべきか。
これでこいつの事が好きな連中だったら、目も当てられない事になってただろう。

「俺は嬉しくねーよ。こんな縛り付けられていて、トイレも自由に行けねーんだぜ?」
「馬鹿だなお前。そういう時は、お前の変態エロ思考で乗り切ればいいだろう」
「変態エロ思考ってなんだよ!」

変な言い方するなと、ゼロ:玉城は怒鳴ってくるので、私は手に持っていたピザを皿に戻し、ゼロ:玉城に体を向け、腕を組んだ。

「お前、怒るのをやめて一度よく考えてみろ。私という美女に監禁され、食事も私が手ずから食べさせているんだ。拘束したままだからな、用を足す際も私が補助している。更にはカレンという美女も加わり、入浴さえ自分の手を動かさなくていいんだぞ?ほら、第三者視点で想像してみろ。お前がよく読む雑誌のような状況にならないか?」
「・・・・!!!おお!そう言えばそうだよな!監禁物か~。俺がってのは気に入らないが、まあ、ありだよなこういうのもな。確かにお前もカレンも美人だしな~」

にやにやと、あいつが絶対しないような下卑た笑みを再びその顔に乗せ、玉城はそう口にした。そんな笑みでも美人は美人なんだが、中身が玉城の時点で食欲が失せる。
中身があいつで同じ笑みと発言なら…まあ、ありだな。
そうだ、私も想像しよう。
これはルルーシュだ。
うん、そう考えれば可愛く見えてくるかもしれない。
どうにか自分の怒りを抑えながら、妄想の世界に浸る愚かな男を横目にC.C.はすでに冷めてしまったピザを口に入れた。
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