仮面の名 第8話

そこはゼロの私室。
部屋の中央には椅子に縛られ、私服にマントに仮面という異様な格好をした男。
その右横に新緑の髪の美少女が立ち、左横に深紅の髪の美少女が立っていた。
扇は思わずなんだこれは。と驚き口をポカンと開けてしまった。
その少し離れた後方に、ゼロの執務用の机に座り、パソコンを軽快に叩く人物。
普段であれば、役立たず、やられ役、口だけ男の代名詞と言える男が、まるでこの部屋の主のようにそこにいた。
本来の彼であれば絶対に見せないような鋭いまなざしと真剣な表情で、何やらひたすらに打ち込んでいる。だが、元来不器用な男の指は思う通りに動かないらしく、苛立たしげな声と舌打ちを数度上げていた。
この部屋には他にも、藤堂と四聖剣もいた。
何がどうなっているのかさっぱり解っていない扇は、ポカンとした表情のまま周りの様子を唯見ていた。
暫く後、ラクシャータと化学班が部屋に入ってくると、今まで規則的に叩かれていたキーボードの音がピタリと止んだ。

「全員集まったようだな」
「私たちで最後ってことかしら?で、扇と四聖剣が居るってことは、彼らにも話したの?」
「いや、これからだ。ラクシャータ達も座ってくれ」

まるで本当にこの部屋の主のように受け答えした男・・・玉城に、扇と四聖剣は目と耳を疑った。

「あら?こっちのゼロはどうしたの?」

顔を俯け椅子に座るゼロに、ラクシャータはキセルを向けそう尋ねると、傍にいたC.C.は眉を寄せ、憎々しげにそのゼロを睨みつけた。

「眠らせている。何かと煩かったから・・・つい、な。まあ、すぐ起きるだろう」

どうやって眠らせたかは口にしないが、睡眠薬の類は持ってないはずなので、ラクシャータは細かく聞くのはやめた。その気持ちは普段の玉城の言動を考えればよくわかるのだ。

「ああ、御苦労さま。あんたも大変ねぇ」
「仕方がないさ。中身はどうあれ、私ぐらいしかコレの面倒は見れないだろう?」

それもそうねと笑いながら、ラクシャータは部屋に用意されていたパイプ椅子の一つに腰を下ろした。
それを見ていた玉城は、全員に視線を向けた後、口を開いた。

「皆、急な召集に応じてくれて感謝している」

やはりいつもとは違う雰囲気を纏った玉城に、扇と四聖剣は目を見張った。

「待て、まずは現状の説明をした方がいいだろう?扇と四聖剣はキツネに抓まれたような顔をしているぞ」

C.C.がそう楽しげに振り返ると、後ろの席に座る玉城にそう言った。

「そうだな、まずはそこからか」
「お前は話が長いからな。私が説明してやるよ。いいかお前たち。ここで眠っているゼロ、そして後ろにいる玉城。今はこの二人の中身が入れ替わっている。つまり、ゼロの体はこれだが、その精神は今後ろにいる玉城の中に入っている」

そうC.C.が告げると、「は!?」「え!?」と、驚きの声が上がった。

「昨日ゼロが倒れただろう?あれはゼロの体に入った玉城が五月蝿すぎて、気絶させたからだ」
「そ、そんな事、あり得ないだろう!?」

扇は、信じられないと立ち上がり、声を上げた。

「私も信じられなかったんだけどねぇ。それ以外考えられないのよ。ああ、ゼロ。あんたと玉城の体の検査結果でたわよ。残念ながら異常なし。もちろん脳も脳波もね」

軽い口調で伝えたその内容に、玉城:ゼロはそうかと頷いた。

「成程な。言われてみれば納得もできる。今日の玉城は別人のようだった。中佐が玉城の指示に従った理由もこれで解ったな」
「そう言う事だったのか、今日は玉城に対して今まで言いたかった文句をいろいろと言ってしまった。失礼をしたゼロ」
「でも、それならそうと言ってくれれば、僕たちもそう動けたのにね」
「そうだな。でも、中身が違うだけで体は同じなんだろう?まるで別人のようだな」

四聖剣が口々にそう言うので、玉城:ゼロは苦笑し「黙っていてすまなかった」と謝った。それもまた、好青年な印象で、ああ、玉城の体でもここまで変わるんだなと、全員が思った。それと同時に、無機質な仮面に隠れていたが、本来であればゼロとはこういう人物なのだと言うその片鱗を見、今までのゼロに対するイメージがある意味壊れた。

「話しをする前にC.C.、先に確認しておくことがある」
「なんだ、ゼロ」
「この現象、お前に心当たりは無いんだな」
「あったらあの場で教えている。まあ、可能性はゼロではないが、少なくても私は知らない」
「そうか。ならばいい」
「むしろ、お前に心当たりは無いのか?あの場所にいたのはお前と玉城だけなのだろう?」
「残念ながら心当たりは無い」
「そうか」

淡々と交わされた内容に、全員何の話だと問いたげだったが、二人は答えるつもりはないらしく、それで彼らの会話は終わった。

「今起きている現象に関して、解決策は今だ見つかっていない。私の体にいる玉城に関しては、今まで通りここに監禁することになる。そのため、皆には協力を頼みたい」
「監禁って、そこまでしなくても」

扇が困ったような顔でゼロと玉城に視線を動かしながらそう口にした。

「玉城が私の体で動くと、色々不都合がある。その場で協力を要請した者たちには、理由は解っていると思うが」

さて、どう説明したものか。
玉城:ゼロは、椅子に縛られ項垂れている自分の背に視線を向けた時、ピクリとその体が動いた。

「・・・目を覚ましたか?丁度いい、その理由を目にしてもらう方が、解りやすいだろう」

そういうと、玉城:ゼロは視線を再びパソコンに向け、カタカタとキーボードを打ち始めた。それから数秒後、ゼロ:玉城が目を覚まし、きょろきょろと辺りを見回した。

「は?へ?なんでおめーら、ここに居るんだ?」
「玉城、なのか?」

本来ゼロが口にしないような言葉が仮面から聞こえ、扇は本当だったのかと眉を寄せた。そう、この口調はまさしく玉城の物。

「お!扇じゃねーか!丁度良かった。お前からも言ってくれよこいつらに!俺がきっちりゼロを演じてやるから、自由にしろって。何大丈夫、任せとけって。俺なら完っ璧なリーダーになれるからよ!!」

その言葉を聞いた瞬間、四聖剣は「ああ、これは自由にさせられないな」と悟り、扇は、玉城の言動を取るゼロを想像し「ああ、玉城には無理だな」と理解した。
玉城が自由にゼロとして動きまわったら最後、黒の騎士団は終わるかもしれない。
5人が妙に悟ったような顔をしたので、C.C.は当然の反応だなと嘆息し、後ろにいる玉城:ゼロに声をかけた。再び視線を全員に向けた玉城:ゼロは、ゆっくりとその椅子の背に体重を預けた。それさえも様になって見えるのだから、大事なのは外見だけでは無く中身もなんだなと、思わされる。

「情報も少なく、原因も未だ解らないが、この現象は混線のようなものだと考えられる」

ギアスが原因ならまた別だが。C.C.とゼロはそう心の中で呟いた。

「混線?それはあれかい?ゼロの脳波が玉城の体に、玉城の脳波がゼロの体に反応してるってこと?」

玉城:ゼロが口にした内容に即座に反応したのはラクシャータ。玉城:ゼロはその答えに満足げに頷いた。

「そう。もし魂というものがあり、私と玉城の魂が入れ替わったのだとしよう。その場合、脳はその体の物を使う事になるため、私は玉城の記憶を全て知ることとなる。だが、私は私の記憶しか持ってはいない。玉城も同じだ。私の正体が解らないという事は、私の記憶を見てはいないという事。つまり、私は今もその体にある脳を使い、玉城もまたこの体にある脳を使っている」
「ああ、それもそうだな。お前の賢さが今まで通りという事は、玉城のその情けない脳を使っていないという事か」
「C.C.てめー!俺様の脳が情けないって言うのか!」
「そう言っただろう?理解できないのかお前」
「くそっ!絶対自由になったら、今までの借り、全部返してやるからな!!」
「黙れ玉城。耳が腐る。ラクシャータ、何かこいつを黙らせるいい手は無いか?いい加減私も限界なんだ」

イライラとした視線をゼロ:玉城に向けた後C.C.はラクシャータに視線を向けた。
何せゼロ:玉城の相手をほぼ一人でしているのだ。この状態の玉城を相手になど1時間でも嫌だなと、カレンは横でこっそり嘆息した。

「一番いいのは眠らせておく事じゃないかしら?一応用意はしているけれど?でも、それはしたくないんでしょゼロ」
「こうして拘束している時点で人権を無視しているからな。出来る事ならこれ以上玉城に負担はかけたくない」
「そーだそーだ!やっぱ俺の親友は解ってるな!」

いや、そもそも最初に拘束したのゼロなんだけどな。
と、口にしそうになったが、C.C.は空気を読んでやめることにした。
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