キョウソウキョク 第5話


賑やかな足音とともに、若い女性がこのラウンジに足を踏み入れた。

『あら、先客がいたのね。こんにちは~』

金髪の明るい笑顔の美しい女性が声を掛けてきたので、ジノは即座に席から離れその女性の元ヘ歩いて行った。
にこやかな好青年という笑顔で女性の前で足を止める。

『こんなところで貴方のような美しい方とお会いできるなんて、私は』
『ストーップ!悪いけど、ナンパはお断りしてます!』

ジノの言葉をあっさりと止めたその女性は、きっぱりとそう断言した。
初めて見たな、ジノの言葉を遮る女性。
彼のナンパの成功率は8割を超える。彼が笑顔で話しかけるだけで大抵の女性は頬を染め、その言葉に聞き入るのだ。だが、この女性はそんなジノに興味ありませんと言いたげな笑みを向けた。

『私達、恋愛しに来たわけじゃないのよね』

私達。
彼女の後ろを見ると、数人の男女が同じようにこの部屋に入ってきた。
活発そうな長い栗毛色の髪の女性と、赤髪の大人しそうな女性、そして青い髪が跳ねている明るい笑顔の男性、そして後ろに隠れるように立っている、黒髪で三つ編みの女性がいた。どうやら彼らは5人のグループの客らしい。
全員若く、おそらくこちらと同じぐらいの歳だろう。

『あれ?男ってそこの彼だけ?いいなこんな美女達に囲まれてるなんて、まさにハーレムじゃないか!』

ジノは羨ましいと、大げさに言った。そしてその唯一の男性に近づくと、いいなあ、羨ましいなあと、その男性の肩を抱き、過剰といえるスキンシップでじゃれつき始めると、青髪の男性は驚きの声を上げ、ジノから逃げようとじたばたと藻掻いた。
だが、2m近い身長のジノと160cmほどの小柄な男性。
大人と子供に見える身長差があり、その上ジノは体も鍛えているため逃げ出すことは不可能だろう。

『ジノ、嫌がっているだろう。離してあげなよ』
『何言ってるんだスザク。これは喜んでいるんだ』
『いえ、喜んでません!離してください!』

必死に叫ぶ声に、えー!?と、不本意そうな声を出し、渋々ジノは離れ、その様子はアーニャの携帯に記録された。
きっと彼女のブログにUPされるだろう。
・・・可哀想に。

『あ、その雑誌。貴方達もそれを見てきたのね』

金髪の女性はテーブルに置かれていた雑誌に気づき、近づいてきた。

『いえ、予約をしたのはこの本が出る前です』
『予約した後、調べたらあった』

アーニャが女性をパシャリと映しながらそう言った。

『そうなの?私は雑誌の内容を知ってから予約したの。ウチの学校の生徒会メンバーを連れてね』
『生徒会?学生ですか?』

やっぱりそうかと、僕は彼らをもう一度見た。
生徒会というぐらいだから彼女たちは学生なのだ。

『そ、アッシュフォード学園高等部の生徒会。ちなみに私が生徒会長のミレイよ』

よろしくね、とミレイが手を出してきたので、僕は思わず握手をした。

『はじめまして、スザクといいます。此方はアーニャ。僕たちは帝立コルチェスター学院なんですよ。僕が2年で彼が1年、彼女は中等部3年です』 『なに、この金髪君、1年なの!?』
『えええ!?1年!?』
『ってことは皆さん私の先輩か。ジノ・ヴァインベルグです、よろしく先輩達』

にっこり笑顔でいうと、栗毛色の髪の女性が頬を赤らめ、赤髪の女性は眉を顰めた。黒髪の女性は赤髪の女性の後ろに隠れている。

『私、シャーリーです。で、此方がカレン、後ろがニーナ。そして』
『俺はリヴァル。リヴァル・カルデモンド』

少し機嫌の悪そうな表情で、リヴァルはそう言った。ナンパなジノとは気が合わないのだろうか。それともこの女性の中に恋人か、片思いの相手がいるのだろうか。

『ねえねえ。貴方達、もし此処に書かれている妖精を見かけたら教えてくれない?』
『妖精を信じているんですか?』

どんなに綺麗でも、どんなに頭が良くても妖精ではなく人間だろうに。
その事を考えていないのだろうか?
まあ、考えない人がいるから2年先まで予約がいっぱいなのか。この記者に付きまとわれ、雑誌に載った事でもう二度とここには来ないかもしれないのに。

『妖精はいたら面白いわよねー。でも、探している理由は別よ。この妖精、私の探し人に似てるのよね』

その言葉に、僕はどきりとした。
僕の探し人にも妖精は似ている。
まさか同一人物?
いや、それは流石に無いか。
黒髪と紫の目で頭がよく人形のように美しい容姿。
僕は子供の頃日本に留学してきた親友のことを思い出していた。
8歳の頃に出会い、10歳まで日本にいた彼はその後ブリタニアへ帰った。
その彼と僕は文通をしていた。メールや電話では味気ないから、再会するまで手紙でいいと僕が言ったからだ。
彼と、彼の妹のために毎月2通。
二人からも毎月返事が来ていた。
だが、今から5年前。12歳のある時期を境にその消息は途絶えてしまった。
送った手紙は所在不明で戻ってきて、住所の場所に行ったがそこに二人は居なかった。僕はそれからずっと彼等を探していたのだ。ブリタニアに留学したのも二人を探すためだった。

『貴方の兄弟ですか?』
『いえ、私の婚約者』

にっこり返された答えに僕は思わず顔をこわばらせ、僕以上に衝撃を受けた人物の悲鳴がラウンジに響き渡った。

『かかかかかかかか、会長!婚約者って!?婚約ってなんですか!?俺聞いてないですよ!!』
『みみみみ、ミレイちゃん、婚約って、結婚ってこと!?男性と、結婚するの!?』

成る程、リヴァルが好きなのはミレイか。彼が動揺するのはわかるが、ニーナまで動揺しているのはどういうことだろう。親友の女性の結婚話に動揺?先を越されたとかそういう話?高校生なのにという話かな?でも男性とって強調しているのはなんだろう?

『ふふふ。正確には元婚約者なのよ。色々あって今は解消されてるの』

その言葉に、二人はあからさまにホッと息を吐いた。シャーリーはあからさまにがっかりした顔をしていた。三人の反応が予想通りだったのか、ミレイは楽しそうな笑みを浮かべていた。

『でも、私の初恋の相手なのよね~』

だから、また婚約するかもしれないじゃない。
ミレイは周りの反応を楽しむように言うと、再び二人から動揺した悲鳴が上がり、一人は頬を染めていた。
人を振り回すのを楽しむタイプなのかな。

『貴女もですか?実は私の初恋の方にも似ているんですよ』

ジノまでそう言い出して僕は驚いた。

『私も、初恋』

アーニャまで。
流石にこの流れなら冗談で言ったのかとも思ったが、ジノはともかくアーニャにそれは無い。黒髪紫の目のブリタニア人は珍しくないのかも知れない。その割にその特徴を持つ人物に僕はブリタニアで会った記憶はないのだが。
そこまで考えてから、二人が貴族の子息子女だと思いだした。
貴族には黒髪紫の瞳は多いのかもしれない。

『あら。そうなの?ふふ、罪作りな妖精さんね~。じゃあ、私達が見かけても教えるので、そちらも教えて下さいね』

彼女はそういうと、ラウンジにある一番広く椅子数が多いテーブルに向かい、リヴァルが背負っていたリュックの中身をそこに広げた。

『さ、食事までゲームするわよ!負けたら罰ゲームね!』

えええ!?というメンバーの悲鳴を無視し、彼女は話を進めた。



ミレイの元婚約者と、スザクの幼なじみは行方不明中らしい。
妖精の特徴と一致するらしい。
ジノとアーニャの初恋の人とも一致するらしい。
じゃあ二人が来たのもそれが理由かもしれないですね。
そんな偶然もあるんですね。
(棒読み)

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