キョウソウキョク 第6話


ミレイ主催のゲーム大会に参加させられそうになったため、僕は慌ててラウンジを出た。ジノは面白そうだと自ら参加し、アーニャは記録を取りたいとその場に残った。
予定から随分と遅れたが、動きやすい服に着替えて走ろう。その後、温泉に入る。そう思って外を見ると、いつの間にかものすごい吹雪となっていた。
窓を開けてみるが、風の抵抗がすごく開けるにも結構な力が必要だった。開いた窓から雪が入り込み、廊下を濡らしてく。冷たい空気が流れこむ中目を凝らしてみたが、視界が10mも無かった。ここに来た時から雪は降っていたが、いつの間にここまで悪化していたのだろう。これでは走るのは無理かと僕はがっくりと肩を落とし、窓を閉めると自分の部屋へ移動した。
部屋の窓から見てもやはり窓の外は吹雪いていて、仕方がないと、腕立てと腹筋とスクワットと・・・部屋で出来ることをすることにした。
動きやすい服に着替え、早速腕立て伏せを始める。 暖房は切って換気扇は回し、外気に近い温度まで下がった部屋だというのに、しばらくするとじんわりと汗が浮かんで来る。最近は日課の筋トレ以外で動くことがなかったから、若干体が重く感じるが、こうして頭を空にして体を動かすのは気持ちが良いい。
今まで溜まっていた鬱憤も汗と一緒に流れ出るようだった。
いや、気分が軽くなったのはそれだけが理由ではない。
彼の痕跡を見つけたのかもしれないのだ。
その事だけで、父に無理やり日本連れ戻されたことさえ感謝していた。
腕立て300回を終え、腹筋を始めた頃、廊下が何やら騒がしくなった。
なんだろうと、僕はタオルで流れる汗を拭きながら部屋のドアを開け、廊下を伺うと、こちらに背を向けた男性が女性に絡んでいる場面のようだった。
扉が開いた音に気づき、二人がこちらに視線を向けてきた。
女性はユフィ。
その正面に立っているのは、白髪でサングラスをした長身の男だった。
その特徴の男は、確かトーレスとかいうブリタニア人だ。
だが、黒服に包んでいた時のトーレスは、姿勢正しい紳士のように見えたが、今は白い服を着ており、背中も曲がっていてかなりの猫背に見えた。堅苦しいスーツから私服に着替えたことで、リラックスしてつい姿勢が悪くなっているのだろうか。

『だーかーらー、何回言えばわかるのかなぁ?君ってホント見た目通り頭悪そうだよね。綺麗に着飾って囀るだけの小鳥は、早く鳥籠に戻ったらいいよ。籠の外じゃ五月蝿くて迷惑なんだよね』

男は呆れたような口調と、大げさな手振りでそう口にした。
その言葉にユフィは腹を立てたのだろう、胸を張ってその男の前に仁王立ちになった。もしかしたら、通路を塞いで絡んでいるのはトーレスではなく彼女じゃないかと錯覚するような情況だった。
・・・いや、もしかしたらそうなのか?

『なんて無礼な!!私を小鳥だというのですか!謝りなさい!』

プライドを傷つけられたのだろうか。その声には怒りがにじみ、彼女らしくないほど声は大きかった。まるで誰かに命令するような口調。やはり良家のお嬢様なのだろう。
だが、そんな上から目線で通じるのは彼女をお嬢様と扱う場所でだけ。
その場所から離れたここでは相手を煽る意外に意味は持たない。
彼女はそれが解らず相手を煽り続ける。
箱入り娘で、一人旅はもしかしたら今回が初めての可能性が高い。

『小鳥だよ。自力で生きる事も出来ず、強固な檻の中で囀ることしか出来ない。ああ、煩い煩い。もう喋らなくていいよ、お飾りのお姫様』

男は口元を歪め、サングラスを僅かに下した。
そこから覗く瞳はまるで血のように赤く輝き、殺意が混じっているように見えた。
歪んだ表情と赤い瞳。
ゆらりと揺れる長身猫背。
狂気を感じるその姿に、ユフィは怒鳴ることを止め、口を閉ざし後退った。
当然だ。
この男、危険すぎる。
僕はすぐに彼女と男の間に立ち、彼女を背に庇う形で男を見据えた。
ユフィは驚いたように僕を見、男は不愉快そうに顔を歪め、再びその赤い瞳をサングラスの下に隠した。

『これはこれは。騎士を連れて来てたのかい?一人で出かけることも出来ないくせに、偉そうにしないでくれるかな』
『スザクは騎士ではありません。それに私は一人できました!訂正しなさい!!』

情況が解っていないのだろうか。
スザクが来たことで気を取り直したユフィは、尚も相手を煽るような事をいうが、男は不愉快だといういいたげな視線で、首にかけていたヘッドホンを装着すると、もう聞くつもりはないという態度でさっさと僕達の横を通りぬけ、一番奥の部屋へ入っていった。
なるほど、部屋に戻ろうとした所で彼女に捕まったのか。

『お待ちなさい!!』

ユフィは男の後を追おうとしたので、僕は慌てて彼女の手を掴んだ。

『もういいじゃないか』
『ですがスザク!あの方の考え方は間違っています!訂正させなければ!!』

この状況ではどちらが間違っているのか断言は難しい。風貌だけで言うならあの男に問題があるのだが、言動では彼女にも問題がある。

『無駄ですよ、人の考えはそう簡単には変わりません。一番いいのは関わらないこと、気にしないことです。もう彼には関わらないほうがいいです』

子供に諭すように僕は彼女の目を見てそう言った。
すると、彼女はチラチラと先ほどの男の部屋を気にしていたが、眉尻を下げ、先ほどとは打って変わった小さな声で言った。

『・・・そうですか?スザクがそういうなら、あの男と関わるのはやめます』
『うん、それでいいんだよ』
『ところでスザク、オフロに入ってたんですか?髪が濡れていますよ?』
『あ、いえ、部屋で運動を・・・汗臭いですよね。すみません』

僕は慌てて彼女の手を離した。
うう、汗臭い男だと思われただろうか。
女性にそう思われるのは正直辛い。
そんな僕の反応に、彼女はくすりと笑った。

『いえ、汗臭くなんてありません。どんな運動をしていたのですか?』
『腕立てと腹筋です。最近運動不足だったので、本当は外を走りたかったのですが、吹雪だったので』
『あの雪では確かに走れませんね。でもスザクはそうやって体を鍛えているのですね。さすがです』

彼女はそういう話を聞くのは初めてなのだろうか?、頬を桜色に染め、キラキラとした瞳でそう言った。どうやら僕の話にかなり興味を覚えたようだ。

『体を動かすのが好きなんです。汗を流すのは、気持ちいいですよ』
『そういえばお姉様もそう言ってました。私も今度運動してみようかしら』

運動好きな姉妹がいるのか。

『健康のためにも是非。お姉さんが運動をされるなら、教えてもらうといいですよ。いきなり無理な運動は体を壊しますからね』
『そうなのですか?』
『ええ。まずは軽い運動から体を慣らしていくんです』
『では、帰国したらお姉様に相談してみます。有難うスザク』

そういうと、ユフィは満開の花を思わせるような可憐な笑みを浮かべた。



あれ?黒い人が白い人に?
この白い人がトーレスなのか(棒読み)

どうでもいいボツネタ話。

忘れそうになるけど、元々「サウンドノベル作りたい」が、<キョウソウキョク>執筆の切っ掛けです。Nスクリプトで作ろうとしてました。

この話からの分岐シナリオは<ミレイのゲーム大会に参加>
タイトルは狂騒曲。
シナリオ本編無視して、登場人物全員でゲームして馬鹿騒ぎ。
黒い人は変装したままの状態で強制参加。
というのは考えてました。

狂騒曲、協奏曲、狂躁曲、狂想曲、競奏曲、協奏曲と、同音異義語でシナリオ作りたかったので、本編タイトルはカタカナでした。
まあ、決めていたのは狂騒曲と狂想曲だけで、狂想曲<スザクが黒い人を3話時点で怪しむ>だけはさわり部分だけ書いて、あとはどれも書かずに終わりました。
本編も途中で放置。


◇登場人物◇
・従業員---扇(オーナー)・?(バイト君)
・客---スザク(207)・ジノ(203)アーニャ(206)・セシル(208)
・ロイド(210)・ジェレミア(202)・ユフィ(205)・トーレス(200)

◇客室イメージ◇(3F)
※=口論してた場所
トーレス  200  201   ?
ジェレミア 202 ※ 203  ジノ
ユフィ    205  206  アーニャ
     物置   階段 
スザク   207  208  セシル
 ?     209  210  ロイド
 ?     211  212   ?  

◇1Fは駐車場◇
◇2Fイメージ◇※上が北
玄関の正面に受け付け、その後ろに事務室?
受付東側に階段と部屋
受付西側通路。奥にT字路。
T字路北側にトイレと温泉入口。
T字路南側にラウンジ(談話室)。
ラウンジ東側に食堂。その北側に厨房。

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