キョウソウキョク 第7話


軽く動いたことで温まっていた体は、ユフィと話をしている間に完全に冷えきってしまった。まだ体を動かし足りないのだが、結構な時間話をしてしまったため、時計を見ると間もなく夕食という時間になっていた。早くお風呂に入って汗を長さなければ。僕は着替えを持って急いで大浴場に向かった。
脱衣所には既に誰かの衣服が入った籠があり、先客がいるようだった。ここの温泉は硫黄泉なのか、硫黄の匂いが浴室から漂ってくる。手早く衣服を脱ぎ、ガラリと扉を開くと、2つの視線が此方を見た。
先客は二人。
一人はひょろりとした、筋肉が欠片もついていなそうな水色の髪の男性。目を細めながらこちらを睨みつけていた。
もう一人は青い髪の体格のいい男性で、静かにこちらに視線を向けた。こちらも何やら厳しい視線を向けてくる。
おそらく二人はブリタニア人だろう。
二人の視線を感じつつ、僕は洗い場に向かった。
ひと通り洗い終え『失礼します』と、僕は乳白色の湯船に体を沈める。
少し温めのお風呂はやはり硫黄泉で、疲労回復、肩こりや神経痛に効能があると、湯船の横の壁にはめられたプレートに書かれていた。美白の湯とも呼ばれているらしく、美容にもいいらしい。ひと通りその文章に目を通した後、視線を正面に向けると、するすると水色の髪の、目つきの悪い男が近寄ってきた。

『君ぃ、もしかして何か特殊な訓練、うけてたりする?』

目を細めて、睨むつけるような視線を至近距離で向けられ、僕は何かしたのか、なにか付いているんだろうかと気になってしまうが、今洗ったばかりなのだから何も問題はないはず・・・だ。訓練と言っている時点で、体格の話なのかもしれないが。

『えっと、あの・・・』
『いやぁ、この筋肉の付き方、うんうん、いいねぇ』

男は失断りもなく、ベタベタと人の体を触りだした。

『え?あ、あの』
『少年、しばらく我慢しろ。その男はどうやら鍛えた筋肉に興味があるらしい。私も先ほど同じように触られたからな』
『は、はあ』

明らかに嫌そうな声で青い髪の男性が言った。不愉快そうな表情の原因は、こちらの男性にベタベタと触られたことが原因のようだった。正直気分の良いことではなかったが、変な目的の触り方ではなく、筋肉の状態を確認するような触り方だった。
自分は童顔で人からは可愛いとよく言われるため、そっち系の男に目をつけられた経験があった。だから、一瞬そっち系の変質者かと思い手が出かけたが、そういうことならと僕は諦めて好き勝手触らせることにした。なにか変なことをされてから動けばいい。大体、この水色の男性には負ける気もしない。

『そうそう。男なんだし、触られても減るもんじゃないでしょ。うんうん、下肢の筋肉の付き方が特にいいね。細身だけど、見た目以上に筋力がありそうだ。君、軍人だったりするのかな』
『いえ、僕は唯の学生です。幼い頃から武術を少し・・・』
『武術!君、東洋人だよね?日本人?カラテ?アイキドー?ケンドー?』

相変わらず目つきは悪いが、興味津々という声音でそう訪ねてきた。

『いえ、陽昇流という流派で・・・簡単に言えば無差別格闘技ですね』

説明は面倒だったので、僕はそう答えた。

『へー。じゃあ、その流派を世界に広めればこのレベルの人間が増えるのかな。うんうん、いいね。ちょっと興味が出てきたよ』

男はそういうとようやく手を離した。

『僕、ロイド・アスプルンド。これでも医者なんだよぉ』
『医者?』

胡散臭いなと思いながらも、僕はすごいですねと、相手に話を会わせた。触り方は、確かに医者の触り方に似ているから、嘘ではないのかもしれない。
ふと気がついたら、青い髪の男は既にここにいなかった。
出て行く音がしなかったから、完全に気配を消して立ち去ったのだろう。
・・・もしかしてこの人を僕に押し付けて逃げたのか。
やられた。
きょろきょろと僕が見ていたことで、ロイドも男性がいないことに気がついたらしい。

『ああ、ジェレミア卿、出ちゃったのかぁ。君とどっちがいい筋肉か確かめたかったのになぁ』

残念そうな言葉の中に、聞き逃せないものが入っていた。

『ジェレミア”卿”?』
『ああ、さっきの軍人だよぉ。ジェレミア辺境伯』
『辺境伯?伯爵なんですか?』

その言葉に、僕は驚いた。

『そんなに驚くこと?僕だって伯爵だよ?』
『えええ?ロイドさんも!?』

僕は思わず頓狂な声を上げ、心の底から驚くと同時に冷や汗を流した。
ジノとアーニャは貴族だ。
そしておそらくユフィも。
それだけではなく、ロイドとジェレミアも・・・。
ブリタニアの上位階級の人間、集まり過ぎじゃないか!?
なんだか嫌な予感がすると、僕は思わず背筋を震わせた。



◇登場人物◇
・従業員---扇(オーナー)・?(バイト君)
・客---スザク(207)・ジノ(203)アーニャ(206)・セシル(208)
・ロイド(210)・ジェレミア(202)・ユフィ(205)・トーレス(200)

◇客室イメージ◇(3F)
※=口論してた場所
トーレス  200  201   ?
ジェレミア 202 ※ 203  ジノ
ユフィ    205  206  アーニャ
     物置   階段 
スザク   207  208  セシル
 ?     209  210  ロイド
 ?     211  212   ?  

◇1Fは駐車場◇
◇2Fイメージ◇※上が北
玄関の正面に受け付け、その後ろに事務室?
受付東側に階段と部屋
受付西側通路。奥にT字路。
T字路北側にトイレと温泉入口。
T字路南側にラウンジ(談話室)。
ラウンジ東側に食堂。その北側に厨房。

6話
8話