黒の至宝 第2話

「こんな若造がに何ができる。しかもイレブンか」

身なりのいい男が、見下した視線で話しかけてきた。
あからさまに不機嫌な顔をしているこの男はこの邸宅の主カラレス。
神聖ブリタニア帝国は選民意識が高く、ブリタニア人こそが選ばれた人類だと豪語するものが多い。
その中でも一部の者は、ブリタニア以外の国にナンバーを振り、国名ではなくそのナンバーで呼んでいた。
日本をエリア11、そして日本人をイレブン、と。

「貴様のようなイレブンがいなくとも、警備に何も問題はない、出ていけ!」

その言葉に、日本人として怒りを感じないはずがない。だが。

「ゼロからの予告状が届いたというのに、問題はない、と」

すでに聞き慣れた言葉。真剣な声音を崩すことなく相手の様子を伺う。
ここで追い出されるわけにはいかないのだから。

「この屋敷には貴重な美術品も多くあるのだ。いつ何時犯罪者に狙われるかわからないからな。最新の警備システムはもちろん、警備員も優秀な者を揃えている」

成る程。道理で屈強な男達が目につくはずだ。特殊な訓練を積んだと思われる足の運びとその体格。見かけ倒しではない。
そんな者を複数人、か。知られては困る何かがここにあると言っているようなものだ。
だが、自分の仕事はあくまでもゼロの逮捕。

「ですが、相手はゼロです。我々にもぜひ協力をさせて下さい」

姿勢正しく誠意を込めて頭を下げる。

「これがイレブンのオジギとかいう奴か!」

カラレスはにやにやと口元に笑みを浮かべた。

「仕方がないな。貴様以外の警察官はブリタニア人のようだし、彼らには期待をしよう。せいぜい邪魔だけはしないでくれたまえ。」

防犯レベルを上げるために、予告状が来たと警察に知らせたのは自分だろうに。
まるで恩を着せるかのように言い切る男に対し、できるだけ人好きのする笑顔を顔に張り付け。

「こちらの警備の邪魔をするつもりはありません。ご協力有難うございます」

再び頭を下げると、機嫌を良くした男が、あくまでも僕の後ろに控えているブリタニア人の警察官に教えているのだ、という体で自慢の警備システムの内容を話し始める。
そのシステムに感心し、驚くような素振りをしながらも、その翡翠の瞳は常に辺りを警戒していた。
機密ともいえる警備システムを、ぺらぺらと話す防犯レベルの低さには閉口するしかないが、何も知らずに警察が探知に引っかかったなんて笑い話は避けられそうだ。

「ところで、枢木警部。黒の騎士団捜査のトップという事は、奴らのことは我々よりも詳しいのだろう?」

自慢の警備システムと警備員を褒められ、上機嫌となっていたカラレスは、そんな事を聞いてきた。

「はい。誰よりも理解していると自負しています」
「ほぅ。では、警部から見て、ゼロとはどのような人物なのか教えてもらえるかな?」

何せ我々一般人はニュースぐらいでしか知ることができないのでね。
先程よりも打ち解けたような声音で言われたのは、警備先で必ず聞かれる質問。

「仮面を被り、決して正体は明かさない。逃げる時は仲間を置いて真っ先に姿を消す。常に自身を安全な場所に置いて犯罪を犯す。そんな自己保身にだけは長けている卑怯者です」

真剣な眼差しと声音で僕は即答した。

「正義の義賊ともいわれるゼロに対して、ずいぶんと辛口だな。」

だが、その答えが気にいったらしい。隙あらば僕だけを締め出そうとしていた気配が完全に消えた。これで少しはやりやすくなるはず。僕は内心ほっとした。

「ゼロは正義ではありません。自分は正義なのだと陶酔している犯罪者です」

汚れたお金で施す善意のどこが正しいのか。
ゼロは善意を施しているつもりになっている悪そのもの。

「では、自分は警備の戻りますので」

姿勢正しくお辞儀をし、僕はその場を後にした。
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