黒の至宝 第3話 |
卑怯者、ね。 スザクの言葉を聞きながら私は吐息をもらした。 何も知らないくせに偉そうに。 いつも上から目線の正義と理想を語るスザクに苛立ちが募る。 作戦決行まであと1時間。 カラレスが話していた警備システムはゼロの予想と寸分変わらない内容だった。 流石、ゼロ。 ざっと見た限り、警備員の人数と顔も資料通り。 ここまでは問題ない。いつも通り完璧だ。 問題は、ここから。 何せ今ここにいるのはゼロが常々「あのイレギュラーが!」と呼ぶ枢木スザク。 いくらゼロが綿密な計画と何通りもの予想を立てても、枢木スザクはそれをぶち壊す。 おそらくは野生の感で。 これから彼が連れてきた警察官へ指示を出すはずだ。 その内容を知ることが、今回の私の役目の一つ。 知ってた?スザク。 私たちは必ず予告状を出すわけではないのよ? 予告状って、警察を動かすのに便利よね。そのことに気づいてる? 私が紛れていることにも気付かずに指示を出すその姿を見て、くすりと笑った。 それまでの静寂を破り、慌ただしい空気が辺りを包みこむ。 「現れたのかしら?」 外で待機していた警察官がなにやら無線で連絡を取り始めた。 パンパンパンとまるで爆竹のような音がしたかと思うと、すぐに誰かの怒鳴り声が響いてきた。 「ゼロ!来たのですね!さあ、行きましょうミレイ!」 あまりの興奮に現状を忘れてしまったのか、目をらんらんと輝かせた変態・・・ディートハルトは公園から飛び出し、門へ向かった。 「え、ちょっと!正面から!?」 マジで!? 制止を聞くわけもなく、門へ到着した瞬間あっさりと警察につかまっていた。 ですよね~。あ~あ。一人で来るんだった。 今まで続いた幸運の反動ですか? 神様、これはないですよ。 思わず天を仰いだが、幸いディートハルトは私の事は話していないようだ。 ゼロは最高の被写体なのです!とか、ゼロを記録することが私の使命!とか叫んでいるのが聞こえる。 私は息を潜め、隠してあったバイクに跨った。 正面から出てくる可能性は低い。それこそゼロに近いだろう。だけど、ゼロではない。 神様。神様っ! 遠くに聞こえる騒ぎに耳を傾けていると、邸宅の向こう側から、あの独特な笑い声が聞こえてきた。 ゼロの、声だ。 パトカーが慌ただしく邸宅から走り出す。 上空にはいつの間にか警察のヘリコプタ―。向かう先は邸宅の向こう側。 ああ、神様。 「あ・・・あはははは。やだもー、賭けに負けちゃったか―」 静寂の戻った公園の中で私は涙を堪えることができなかった。 「「「かんぱーい!」」」 高々と掲げたビールジョッキがカチーンとガラスのぶつかる音を上げた。 ごくごくごくごく、ぷは~っ!満面の笑みで、まさに至福と言うべき息を吐く。 仕事の後のビールはうまい。そしてツマミにはピザ。 完璧だ。 「飲み方がオヤジ臭いわよC.C.」 「知らないのか?カレン。ビールとはこうやって飲むのが一番うまいんだ。なあ、ルルーシュ」 「そんな話は知らんな」 ジョッキのビールだというのに、この男が飲むとなんでこう上品に見えるんだろう。不思議だ。 「それより、藤堂はどうした?まだ戻ってないのか?」 「いや、とっくに戻っている。今回の作戦で残月が水にぬれてしまったようでな。今手入れの最中だ」 ピザを手に取りながら、隣の部屋にいる、と言えば二人はほっとしたようだった。 「そうだったの?てっきりまだかと思ってたわ。一番逃走ルート遠回りだったし」 うん、おいしい。これ、この前漬けてたやつ? 胡瓜のぬか漬けをパリパリと噛む。いい音だ。 「ああ、お前たちが最後だ。藤堂が戻ってないのに酒盛りを始めるわけがないだろう」 呼んだが、先に始めてくれと言われてな。おお、ピザ餃子じゃないか!作ったのか! 「・・・って、お前たち!口に物を入れたまま喋るな!」 行儀が悪いぞ!ちゃんと呑み込んでから話せ!あ、馬鹿か!しっかり噛んでからだ! は~い、と返事をした女二人は、内心どこのオカンだと突っ込みを入れた。 「で?お前たち二人はやけに遅かったな?距離で言うなら最短だっただろ?」 最後に動いた私より遅いとは。二人で一体何をしてたのやら。 にやにやとC.C.が笑いながら聞いてくる。 「そうだ!聞いてよC.C.!ルルーシュがスザクにつかまってたのよ!」 「は?なんだと?まさかゼロの仮面を剥がされて、顔がばれたのか?」 笑っていた顔が一変、真剣な表情となったが。 「いや、それは大丈夫だ。顔を見られていたら流石にのんびりと酒盛りはできないさ」 俺は先ほどのことを思い出して苦笑するしかなかった。 |