黒の至宝 第5話

・・・これはどういう光景なのかしら?
なかなか待ち合わせ場所に来ないゼロを心配して、彼が通るであろうルートを辿ってみたけれど見つからず。
あきらめて再び待ち合わせ場所へと来ると、近くのオープンカフェに彼の姿があって。
ほっとして、少し遠い場所ではあったが、近づきながら思わず名前を呼んだ。

「ルルー・・・」

そこまで口にした瞬間、私は固まった。
私の位置から陰になっていて見えなかったが、彼の向かいに男が座っていて。

「・・・枢木・・・スザク、警部?」

なんで?何があったの!?
あまりの驚きに、きょろきょろと二人の顔を見比べてしまう。

「ああ、シュタットフェルト嬢。よかった、待ち合わせ場所にいないので何かあったのかと心配しました」

ゼロ・・・ルルーシュは嘘くさい笑みを浮かべて、私に言った。
ちょっと口元が引き攣ってるのは気のせいじゃないはず。
ルルーシュあなた・・・いっぱいいっぱいなのね。

「すまない。時間に遅れてしまって。ちょっとしたことに巻き込まれてしまってね。枢木警部に助けてもらったんだ」

席を進めてくるので、エスコートされるまま座り紅茶を注文する。
何これホントに。ってか私ばれるんじゃないの?髪形と服装がいつもよりおとなしく見える程度なのよ?
内心汗だくになりながら、病弱設定に頭を切り替えて、気弱そうな声音と儚げな笑顔であいさつをした。

「まさかこんな可愛らしい方との待ち合わせとは知らず、お邪魔をしてしまい申し訳ありません。」

二コリ、と人好きのする笑顔。声音もいつもと違いやわらかい。
・・・え?本気でばれてないの・・・?え?え?

「いいえ、彼を助けてくださり有難うございます。ところで、その書類は・・・?」

二人の手元にある書類を指し示すと、

「時間がないようなので、略式ですがここで調書を取っていたんです」
「そうなんですか。え?裏路地で男性三人に襲わ・・・え?」

どういう事?と、ルルーシュを見る。
内心不機嫌なんだろうなという嘘くさい笑顔で、荷物を取られかけてね。と肩をすくめながら言ってくる。

「え?あれは間違いなく狙いは君だよ?」

何言ってるの?と、呆れたような口調で訂正を入れられる。

「俺を狙ってどうするんですか。女性ならわかりますが、俺は男ですよ」

これはスザクが正解ね。だから表通りのルート設定にしたのに、なんで裏道歩いたのよ、と内心溜息を吐いた。

「え、でも・・・ええっと、お名前はルルさん、でしたか」

さっきルルーシュと呼ぼうとしたのを聞いていたのだろう。そう聞いてきた。

「はい、名乗るのが遅くなって申し訳ありません。ルル・スペイサーと申します」

流石に警察相手に本名を名乗るわけにはいかず、よく使う偽名を流用する。
サラサラっと書類にもルル・スペイサーと記入していく。

「可愛い名前ですね」

と、にっこりと笑う。その瞬間、周辺の空気が一気に冷えた気がした。美人と可愛いは禁句なのよね。

「ルルさんほどの美人は、人気のない場所を歩くのは危険ですよ」

空気も読まずににこにこと喋るこの男にある意味感心する。そろそろ切り上げなくてはルルーシュの怒りが爆発する。

「ご心配ありがとうございます。ここからは私が一緒なので大丈夫です」
「そうですね。こんなに可愛い恋人がいたら危険な場所には行けませんよね」

恋人!?

「恋人じゃありません!私たちは・・・その・・・そう、護衛です」

そう護衛なのよ!誰が誰の、とは言わないけれど。

「護衛、ですか?」

キョトンとした顔で聞き返される。
うん、わかるわ。この見るからにもやしっ子で、ついさっき男に襲われかけていたルルーシュに護衛が務まるのか、って思ってるわよね。

「ええ、こう見えても実は強いんですよ」

私の事だけど。

「そうなんですか?」

そうは見えないけれど・・・と、ルルーシュを見ながら明らかに心配そうな表情。

「一人でいるより、二人でいるほうがずっと安心ですし」

私が。

「たしかに、そうですね。」

よし、少しは納得したらしい。このタイミングだ。ルルーシュも腕時計を見ながら立ち上がる。

「もうこんな時間か。急がないと乗り遅れてしまう。枢木警部、申し訳ないが・・・」
「いえ、ご協力感謝致します。」

私たちは足早にその場を後にした。
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