黒の至宝 第7話

「・・・あのイレギュラーの対策は後だ。それより次の作戦だ」
スザクの話題で頭が痛くなったのか、軽くこめかみを押さえながら、ルルーシュは内ポケットから一枚の写真を取り出した。
真っ先に写真に手を伸ばしたのはC.C.。
しばらくじっと見た後、にやりと意地の悪い笑みでルルーシュを見た。

「これはこれは。まるでお前のようだな、ルルーシュ。なかなかに美しい」

と、目を細めながら写真をぴらぴらと振った。

「さっさと、見せなさいよ」

カレンがC.C.から写真を奪い、藤堂にも見えるように写真を見る。
写真の中央には一つの箱が写っていた。
それは、黒地に金と銀で細かな細工が施され、所々に乳白色の石のようなものがはめ込まれた美しい宝石箱。
人目を引く美しい装飾だが、皇族や貴族が好むような派手さや豪華さではなく、美術品として鑑賞されるために作られたかのようだった。
その装飾に、カレンと藤堂は何か感じるものがあるらしく、二人とも首をひねって思案しているようだ。
何かを思い出そうと二人とも眉根を寄せて、うんうん唸る姿はなかなか面白い。

「どうしたんだ二人とも。面白い顔をして」
「な~んか懐かしい気がするのよね」
「紅月もか」
「藤堂さんもですか?」
「なに?私は何も感じなかったぞ?」
「二人とも、なにかそれについて知っているのか?」

C.C.が席を立ち、二人の後ろから写真を覗くが、二人が何に引っかかっているのかさっぱり分からないという顔だ。
返答がないので、ルルーシュは今のうちにと空いた皿を片づけ始めた。キッチンも同じ部屋にあるため、しばらくの間洗い物の音がBGM替わりとなる。
洗いものから戻ってきてもまだうなり続けている二人に、もしかしたら、とルルーシュが口を開く。

「カレン、藤堂。お前たちが気になっているのはきっと、日本人だからだろうな。伝統的なブリタニアの技術だけではなく、日本の伝統工芸漆塗り、蒔絵と螺鈿も使用され、装飾は桜をイメージして作られている」

二人はとたんにそれだ!と言わんばかりに顔をぱあっと輝かせた。

「そっか、それでなんだ!言われてみるとほんと桜だわ。あ、これ、よく見ると黒い部分にも桜の枝と花が描かれてる!じゃあこの丸は満月?と雲・・・夜桜ね!」
「この黒の光沢は漆塗りによるものだったか。なるほど、得心いった」

長く故郷である日本から離れているせいか、カレンと藤堂は日本の物を見つけると、上機嫌になる。
幼い頃を日本で過ごしたルルーシュも日本の物は目ざとく見つける。
だが、C.C.はそこまであの国に思い入れはない。ルルーシュと出会った国、藤堂とカレンの故郷。その程度の感覚だ。
自分一人除者にされたかような気がしてC.C.は何だつまらん、と不貞腐れながら自分の席に戻った。
ガタンと音を立てて座ったC.C.の後ろで、ふわりと香ばしい匂いがし、あわててそちらに目を向けると、レンジで温めたのだろうピザを持ったルルーシュが立っていて、それをC.C.の目の前に置いた。

「さすがルルーシュ!愛してるぞ!」

あつあつのピザを満面の笑みで頬張るC.C.は一瞬で機嫌が直ったようだった。
それを見て、現金な奴だと笑いながらルルーシュが席に戻ったその瞬間、悪ふざけをしていた空気が一転、ピリッとした張り詰めたものとなった。
顔を上げ、真剣な面差しでこちらを見ているのは、すでにルルーシュではない、怪盗ゼロの物。私たちも自然と居住まいを正す。

「製作者はブリタニア人。日本とブリタニアの友好の品として、当時の天皇へ奉納されたという逸話が残ってるが、その後国外に出た理由は不明。その箱自体にも美術的・歴史的な価値はもちろんあるが、我々が狙うのはその中身。」

そう言って内ポケットからもう一枚の写真を取り出し、三人に見えるように持つ。
写っているのは濃い紫を帯びた美しい宝石。

「この、パープルダイアモンドだ。大きさはピンポン玉ほど。当然天然石だ」

何!?と、C.C.がひったくるようにしてその写真を奪う。

「パープルだと!?しかもピンポン玉サイズでこの輝き!本当に天然か?人工物じゃないのか!?」
「正真正銘天然ダイアモンドだと複数の鑑定師が断言している、間違いはない。ロイヤル・パープルと呼ぶにふさわしい程の深い紫色、そしてこの大きさ。これだけでも途方もない価値があるのは理解しているな?だが、私がこれを求める理由は金銭的、美術的価値のためではない。」


このロイヤル・パープル・ダイアモンドは、どんな願いも叶える、呪われた宝石だ。


よくある話だ。価値があればある程、古ければ古いほどその手の話はついて回る。
だが、唯の噂程度ではこの男は動かない。
なにか、それが真実である可能性を示す何かを見つけたのだろう。
だから、この場で誰も、そんな夢物語、と笑い飛ばすことはなかった。

「成程な。で、お前はナナリーの体を治したいと願うわけか」

ルルーシュにはたった一人だけ身内がいる。妹のナナリーだ。
今から7年前の話だ。ルルーシュの母が運転する車に、信号を無視した大型トラックが衝突した。その事故で両親は死亡、妹のナナリーは心と体に重傷を負った。ルルーシュは、唯一自分だけが無傷で助かったということに強い罪の意識を感じていた。
その妹は、今は信頼できるものに預けているが、歩くこともできず、目も見えない彼女を治してやりたいとルルーシュは常に考えている。
そのことは、ここにいる誰もが知っていることだった。
自分一人で両親の分も妹を守るのだと無理を重ね続け、壊れかけていたルルーシュを見てきたのだから。

「願いを叶えるという奇跡、それが真実であるなら私は必ず手に入れて見せる」

その瞳は強い意志を載せ、苛烈な光を放った。
HTML表
6話
8話