黒の至宝 第9話 |
カタカタカタカタとキーボードを打つ音が響くその部屋に、一組の男女がいた。 女はソファに横になりながら、ピザを片手に写真を眺め、男は姿勢正しく椅子にすわり、テーブルの上のパソコンに向かっていた。男女ともにその容姿は美しく、女がピザを持っていなければまるで一枚の絵画のような光景であった。 「<漆黒の夜明け>に<常闇の麗人>か。まったく大層な名前が付いているじゃないか」 ソファに横になっていた女、C.C.は、ピザをパクリと一口食べながら、キーボードをたたくルルーシュへと目を向けた。 まだ朝の7時という早い時間にC.C.が起きているのは珍しい事だが、どうやらあの後もカレンと二人で飲み明かしたようだ。つい1時間ほど前まで飲んでいたらしく、カレンは今自室でダウンしていた。あれだけ飲んだのだから、今日は二日酔いで動けないだろう。カレン以上に飲んでいたC.C.は、何事もないようにケロリとしていて、朝食のピザを頬張っている。 ソファに横になりながら食べるのは、行儀が悪いと何度も注意しているが、やめる気配はない。その姿を見ながら、ルルーシュ小さな溜息を吐いた。 「その箱は特殊な細工がしてあり、解錠するには特定の手順を踏む必要がある。その手順は代々皇家当主が受け継いでいるため、知る術はないだろう。おそらく、ではあるが<漆黒の夜明け>そして<常闇の麗人>は解錠するためのヒントではないかと、俺は考えている」 カタカタと小気味のいい音を途切れさせることなく、ルルーシュは答えた。 「皇家当主と言うと、つまり日本の象徴である天皇陛下か。それは、どう頼んでも教えてはもらえんな」 「そういう事だ」 「で、国外へ出た理由は不明とお前は言っていたな?つまりこの箱は、今皇家には無い。では何処にあるんだこれは」 そこでようやくキーボードの音が止まった。 ルルーシュは視線をC.C.へと向け、ピザを食べ終わったC.C.は体を起こし、ソファに座った。 「神聖ブリタニア帝国第二皇子シュナイゼル・エル・ブリタニアが所持している」 その名前に、C.C.は目を丸くした。 「シュナイゼルだと?奴が持っているのか?だが、どうして奴が?」 「国外へ出た理由は不明だと言っただろう。ただ、そう古い話ではない、ここ1・2年の話だ」 「・・・シュナイゼルはまだ解錠できていないのか?」 「おそらくは、だな。アイツの動向を調べる限り、まだと見ていいだろう」 「となると、昨日言っていた宝石の鑑定は、皇家がしたものか?」 「そうだ。2年前、天皇家が保管している歴史的遺産の鑑定が大々的に行われた。その際に、この<漆黒の夜明け>も公開されている。」 「なるほど、だから2年前までは少なくとも皇家には存在していたが、今はあの胡散臭い男が持っているわけか」 「そうだ。正直、奴の願いが何かはわからない。何せ次期ブリタニア皇帝と言われている男だ。第一皇位継承権を持つオデュッセウスを陥れるために必要とはしないだろう。なにより、こんな奇跡などと言う代物に願うような事など、あの男にあるようには思えないのだが」 欲しいものなど、望めば何でも手に入る男だからな。 そう、どんな手段を使ってでもその望みをかなえようとする。けして自分の手を汚すことなく。ルルーシュは忌々しげに呟いた。 「だが、その奇跡を求めて、あくどい手を使い、手に入れた、か」 「どうしてあくどい手だと思う?」 C.C.は真剣な眼差しでルルーシュを見つめた。 「あの男は自分の欲したモノを手に入れるためには手段を選ばない。何よりも解錠の仕方を知らないからだ、正当な手段で手に入れたはずがない」 シュナイゼルという男は、何事にも執着せず無欲だと周りは思っている。 虚無の体現だと言う者も少なからず居るぐらいだ。 だからこそ、次期皇帝にと、無欲であるからこそ、皇帝としてその身を国民のために捧げることが出来ると思われている。 だが、それは違う事をC.C.は知っていた。 自分は皆に望まれたからこうしているのだと、私には我欲はないと、そう振舞っているだけに過ぎない。 裏では自らの欲望のために多くの者を食い物としているのだから。 かつてその光景を目の当たりにした自分は、シュナイゼルの表の顔にだまされることはない。 そんな私の回答に、正解だ、と言わんばかりにルルーシュの口角が上がった。 「だが、奴にしてはずいぶんと悠長なことをしているな。今だ中身を取り出せないとは驚きだ。アイツの事だ、壊して取り出せと言外に指示するんじゃないのか?」 私は当然の疑問を投げかけた。 ああ、その事か。とルルーシュは忘れていたと言わんばかりに答えた。 「詳しいことはわかっていないが、どうやら奇跡を起こすには、パープル・ダイアだけでは駄目らしい。あの箱も重要な役割があるようだ」 だから、無理やり解錠した場合、その力が失われる可能性がある。 それを聞いて、C.C.は嬉しそうに笑った。 「成程、だから無理やりには壊せない。あくまでも正式な解錠の方法を探っている、というわけか」 それはいい。そのまま解錠されずに、あの胡散臭い男を精々イライラさせていてくれ。そして私たちに盗まれて悔しい思いをすればいい。 納得した、という顔でうなずくC.C.を見ながら、C.C.は頭の回転が速く、理解力が高い。話が早くて助かる。そう思った。 「さて、小難しい話をしたら小腹がすいたな。おい、ルルーシュ、ピザを焼け」 「今食べたばかりだろう!このピザ女!」 これで、だらしなのない、偏食ピザ女でなければいいのに、と。 |