黒の至宝 第11話

「ごめんね、ミレイちゃん。まだ解析が終わってないの」

気の弱そうな眼鏡の少女が、うつむき加減でそう言った。彼女の前には何やら複雑な機械があり、その上に黒に金と銀の装飾のなされた箱が置いてあった。その期間は近くに置いてあるコンピューターに接続されており、その機械を通じ、何かしらのデータを読み込んでいることが分かる。

「ううん、気にしないで。ニーナが頑張ってるのは知ってるから。ごめんね、巻き込んじゃって」

ニーナに入れたてのコーヒーを渡しながら、ミレイは申し訳なさそうに言った。
ここはアッシュフォード家の別宅の一つ。そこに、ほぼ缶詰状態で、ニーナはあの箱の解析にかかりきりだった。
ミレイの協力者は4人だけ。
祖父でアッシュフォード家の当主であるルーベン・アッシュフォード。
幼なじみのニーナ・アインシュタインは神童、科学の申し子と呼ばれるほどの天才で、下手な研究員よりよほど頭が回る。
リヴァル・カルデモンドは手先が器用で、細かな作業も得意。特に機械関係には強い。
シャーリー・フィネットは、父親が軍の研究員で、学校で昔の日本のカラクリを研究しているという名目で、いろいろとアドバイスを受けられる。
そんな彼らが偶然協力員となったのは、あの現場に居合わせたから。
なにせ、「偶然」ルーベンとミレイ、リヴァル、ニーナ、シャーリーが居たその場所に何の連絡もなしに突然シュナ一ゼルがカノンを従えて現れ、この箱を置いていったのだ。
私達の行動を監視していた?そう考えると、全身に鳥肌が立ち、ぶるりと体が震えた。ああ、気色悪い。
・・・今は過去を考えても仕方がない。これからの事を考えなくては。
その場にいた者以外、外部の人間に情報が漏れれば、それだけで私達は何をされるかわからない。そして何より、私たちは弱みをシュナイゼルに握られている以上、裏切ることはできない。
私は機械にセットされたままの箱を視界に入れた。見た目は唯の箱。でも、開封するための鍵穴の類は見つからない。何かしらの手順で開く立体パズルのようなもの、という事は解っているが、その初手すらまだ解っていなかった。

「ゼロと接触できなかったのは、やっぱり痛いわね」

私はぼそりと呟いた。

「仕方がないわ、ミレイちゃん」
「そうですよ会長、ゼロに盗み出してもらえたら万事解決って話でも、こちらの頼みを聞いてくれるとは限らないんだし」
「義賊と言っても、相手は犯罪者よ。反対に無理な要求されるにきまってるわ」

過去に犯罪に巻き込まれたことのあるニーナは、おびえる様に体を縮めて、つぶやいた。ミレイはごめんね、とニーナに言いながら、その震える体を抱きよせた。ゼロに盗み出してもらう事が出来れば、シュナイゼルの企みを公開することができれば。私たちは救われて、世界征服などと言うくだらない野望も阻止できる。
ああ、でもそれは本当に神頼みの確立。

「・・・もう、そんなに時間がないと思うの。この箱を殿下から預かって既に2ヶ月。殿下は相変わらず笑顔だったけれど、かなり苛立っていたわ」

その言葉に、リヴァルとニーナはごくりと息をのんだ。
いつからシュナイゼルがこの箱の研究をしているかはわからないが、自分たちが初めてでは無いことは見てわかった。自分たちの前にこれを渡されたものがどうなったのかは想像するしかない。だが、あのシュナイゼルだ、ここまで秘密裏に、しかも絶対に口外出来ない状況を作ってから、渡されるような物。
そんな<奇跡を起こす秘宝>の存在を知る者を、何もせず開放するなど思えない。
そして、この箱の謎を説き、奇跡の宝石が姿を現したときも同じ。
私たちは二度と日の目を見ることはないだろう。
次に殿下と約束をしたのは2週間後。
おそらくは、これが最後の猶予。
2週間後、箱を開けることが出来ても、出来なくても、私たちは。

ああ、もう一度、もしチャンスがあるのなら。
ゼロ、お願い。
あなたの手で盗み出して。
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